【社説・10.24】:2024衆院選・防災対策 生煮えの議論、物足りない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・10.24】:2024衆院選・防災対策 生煮えの議論、物足りない
豪雨や地震などが頻発する日本で防災の取り組みをどう強化するか。今回の衆院選の重要な争点の一つだろう。
能登半島は元日に大地震に襲われ、その後に豪雨被害にも見舞われた。南海トラフ地震や首都直下地震など巨大災害への不安も高まっている。
国や自治体に対応力の向上を求める声は強い。各党は具体的な防災対策を示し、論戦を尽くしてもらいたい。
衆院選の公約として自民、公明両党は石破茂首相肝いりの「防災庁」設置の準備を掲げている。内閣府防災担当の体制や機能を強化し、とかく評判が悪い避難所の環境改善などもうたう。野党の立憲民主党も「危機管理・防災局」を、れいわ新選組も「防災省」設置を訴えている。
一方、日本維新の会、共産党、国民民主党などは防災庁設置には触れず、組織よりもむしろ国と自治体の連携強化を優先する。ただ、防災庁設置の是非はあるものの、初動対応の強化や避難所の環境改善などが必要との認識自体に大きな違いは感じられない。
防災行政は現在、内閣官房とともに内閣府が各官庁間の調整役を担う。要員は150人前後で他省庁からの出向者も多く、専門職が育ちにくい悩みがあるという。
過去の災害では、縦割り行政の弊害で現場は混乱した。全国知事会や関西広域連合が防災組織一元化や機能強化を求めてきたのはそのためだ。ただ、独自色をアピールしにくいのか、各党が防災対策の具体的な道筋を深掘りする流れにはなっていない。
防災庁一つとっても議論が生煮えなのは物足りない。石破首相は米国の連邦緊急事態管理局(FEMA)のような組織を想定しているとみられる。だが、日本で主に自衛隊が担う、災害時の実動部隊は米国では軍ではなく、パートタイムの州兵が担う。
常設する防災庁の実務部隊に自衛隊を充てれば、本来業務である国防に支障が出るだろう。逆に新たな人員で実務部隊を確保しようとすれば、大幅な予算増が避けられない。組織の強化は不可欠としても、こうした議論もそこそこに、国民に新たな負担増を求めることにはならないのだろうか。
災害対応は、平時の啓発活動から災害発生時の避難、救急・救援活動、復旧、復興と多岐にわたる。上下水道の復旧は国土交通省などが、田畑の復旧は農林水産省が担う方がやはり円滑に進むのではないか。コントロールタワーは必要だが、民間を含めた役割分担に目詰まりを起こさない運用こそが欠かせない。
過去を振り返れば、既に機能の維持が難しい集落に多額の予算が投入された例もあるという。自治体の復興計画がコンサルタント会社任せで似たようなものばかりという指摘も目立つ。被災地の部品工場一つが停止しただけでサプライチェーン(供給網)全体が止まったケースもあった。
公約をただ並べるだけでなく、過去の失敗を今後の防災対策につなげる具体的な道筋が必要だ。それを各党が示す論戦にすべきだろう。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年10月24日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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