【社説・11.02】:公益通報制度/批判を施政に生かさねば
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.02】:公益通報制度/批判を施政に生かさねば
前知事の失職に伴う兵庫県知事選は、告発文書を作成、配布した元西播磨県民局長への懲戒処分を巡り県議会が不信任を決議したことに端を発する。この文書について専門家らは「公益通報に当たり告発者の保護が必要」と指摘するが、前知事側は「誹謗(ひぼう)中傷であり公益通報には該当しない」と真っ向から否定する。
為政者や側近の疑惑の内部告発にどう対処すべきか。選挙戦では職場の風通しや働きやすさの改善策と相まって、公益通報制度に関する議論を深めなければならない。
公益通報者保護法は告発者への不利益な取り扱いを禁じている。2022年施行の改正法では告発者の探索を禁じ、事業者に対し公益通報に対応する体制整備を義務付けた。
元局長は3月、パワハラ疑惑などを指摘する文書を報道機関などに配布し、後に県内部の公益通報窓口にも届けた。一方、前知事は「うそ八百を広めた」として作成者を特定し、担当部局の調査結果を待たず5月に停職3カ月の懲戒処分とした。元局長は7月に死亡した。
文書中の疑惑には、県議会調査特別委員会(百条委員会)の審議などで事実と判明した内容もある。現在も百条委は継続しているが、前知事への批判の高まりを受け議会は不信任決議を急いだ。調査結果が出ないまま選挙戦に突入し、有権者の判断を難しくしている側面は否めない。
それでも選挙戦で問われるべき重要な課題は少なくない。
その一つは公益通報に対応する体制の在り方だ。
兵庫県の通報先は内部窓口しかなく、外部窓口も併設する神戸市や大阪府などに比べ遅れている。兵庫県では06年度以降、計135件あった内部通報のうち受理は約3割の42件にとどまるが、神戸市や大阪府ではトータルで6割を超えている。制度の実効性を高め不正の是正に生かすには、第三者が客観的に判断する窓口の設置が欠かせない。
批判を謙虚に受け入れる姿勢も問われる。告発文書にはパワハラなどの不正行為だけでなく、阪神・淡路大震災の教訓継承や県政の意思決定の在り方などトップの政治姿勢への批判も含まれていた。手厳しい意見にも耳を傾け、施政の改善に生かす度量が求められている。
百条委で証言した専門家は、元局長の懲戒処分が継続する現状を「違法状態が続いている」と指摘した。処分への対応も焦点となる。
前知事を含む各候補者は公益通報に関連し、職員との意思疎通や信頼構築の重要性を訴えている。混乱した県政を立て直すために、為政者としての資質がいつも以上に問われていることを忘れてはならない。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月02日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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