【社説②】:救急医療の逼迫 軽症者の利用抑制が不可欠だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:救急医療の逼迫 軽症者の利用抑制が不可欠だ
119番通報で搬送される人が増え、救急医療体制が 逼迫 している。軽症者の利用を抑制する仕組みを整え、医療従事者や救急隊員の負担を減らしていくべきだ。
2022年の救急出動件数は723万件で、08年の510万件の1・4倍だった。高齢化の進展で今後も増加が見込まれる中、救急医療体制を将来にわたってどう維持するかが課題となっている。
救急車の利用が有料の国もあるが、日本では無料で運用されてきた。総務省消防庁の有識者会議も16年、有料化には慎重な議論が必要だと提言している。
生活困窮者が救急要請をためらうことにならないためにも、無料制度の維持が望ましいことは言うまでもないが、救急医療体制がパンクしては元も子もない。
問題は、症状に緊急性がないのに「交通手段がない」などの理由で安易に救急車を呼ぶ人が後を絶たないことだ。
22年に全国で救急搬送された622万人のうち、47・3%は入院には至らない軽症者が占めた。「平日は休めないから」と言って、夜間や休日に救急外来を受診する人も少なくない。
救急車や救急医療は、限りある公的資源である。安易な利用が増えれば、ほかの救える命も救えなくなる。自治体や病院は適正な利用を呼びかけてきたが、住民の良識に頼るだけでは限界がある。
このため、軽症者による救急サービス利用の実質的な有料化に踏み切る医療機関も出始めた。
三重県松阪市の三つの基幹病院は今年6月以降、救急車で搬送された軽症者から原則として7700円を徴収することを決めた。
かかりつけ医の紹介状がない人が大きな病院を受診した場合、診療費の他に「選定療養費」として7000円以上が徴収される国の仕組みを適用する。
既にこの仕組みを導入した近隣の病院では、軽症者の救急利用の抑制につながっているという。
ただ、選定療養費の適用は苦肉の策だ。本来は、救急医療を安易に利用した人から料金を徴収できるよう、国が法改正を進めるべきではないか。
119番通報をするか迷った人の話を聞いて、救急車の出動につないだり、受診できる医療機関を紹介したりする電話相談窓口が各地に設置されているが、十分に活用されているとは言えない。
窓口の普及は救急出動の抑制につながる。国や自治体は拡大と周知に努めなければならない。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年02月11日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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