【社説・12.18】:米兵事件の見舞金支給 真の救済へ見直し必要
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.18】:米兵事件の見舞金支給 真の救済へ見直し必要
2008年に沖縄市で起きた米兵による強盗致傷事件の被害者の遺族が、「SACO見舞金制度」に基づく見舞金を国が支払わないのは違法と訴えた国家賠償請求訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(三浦守裁判長)は請求を退けた。
同制度は、公務外の米軍人・軍属による事件や事故の損害について加害者が賠償しない場合、米側の支払った慰謝料と、裁判で確定した賠償額の差額を日本政府が支払う努力を定める。
事件では米兵2人がタクシー運転手の男性を酒瓶で殴り、重傷を負わせた。男性は事件後、PTSDに苦しみ、12年に亡くなった。
遺族は米兵2人に対し、損害賠償を求め、17年に提訴した。翌18年に遅延損害金900万円を含む約2640万円の賠償額が確定し、日本政府に支払いを申請した。
ところが沖縄防衛局は遅延損害金を支給対象から外し、今後も求めないと約束する受諾書の提出を要求した。遺族側は国を相手に遅延損害金を含めた見舞金の支払いを求め、提訴した。
最高裁は一審、二審と同様に遺族の訴えを認めなかった。受諾書を提出していないことから国との間の合意が成立せず、国の賠償責任は生じないと判断した。
賠償額の確定には時間がかかる。被害者側が遅延損害金を請求しないことを引き換えに見舞金を支給するのでは、真の救済には程遠い。
制度の課題に触れず、手続き論で退ける木で鼻をくくったような判決だ。
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一方、今回の判決では裁判長による異例の個別意見が付いた。
沖縄防衛局が、受諾書提出を見舞金支給の条件としていることに「差額の見舞金を支給しないことは信義則上の義務に違反し、被害者の法的利益を害している」と断じた。
事件から16年。この間、遺族が受け取ることができたのは米側の慰謝料146万円のみである。
被害者の迅速な救済を目的とする制度の趣旨を考えれば、防衛局は遅延損害金を含む見舞金の支給に応じるべきだ。
日本政府はSACO見舞金の支払いを「努力義務」としている。
しかし、日米安保条約に基づき、米軍基地を提供しているのは日本政府だ。
公務内外を問わず、米軍関係の事件、事故の被害者を保護し、救済する大きな責任がある。
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23年度までの27年間に県内での米軍人・軍属らの刑法犯検挙件数は1412件に上るのに対し、沖縄防衛局が支払ったSACO見舞金は10件にとどまる。
見舞金申請では、加害者に対する損害賠償訴訟にためらう被害者や、制度自体を知らない被害者が相当数いると想定される。加害米兵が国外へ転居すれば、訴訟を起こすことも難しい。
被害者側の負担は重い。申請を前提とした仕組みに課題があるのではないか。
被害が確定した時点で、国が一定の見舞金を支給するなど制度の見直しを議論すべきだ。
元稿:沖縄タイムス社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月18日 04:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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