《社説①・12.10》:シリアで政権が崩壊 中東の安定へ国際協調を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.10》:シリアで政権が崩壊 中東の安定へ国際協調を
内戦が続く中東のシリアで、半世紀に及んだ独裁政権が倒れた。混乱を早期に収束させ、地域に安定をもたらす必要がある。
イスラム過激派「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)を主体とする反政府勢力が首都ダマスカスを制圧した。アサド大統領は国を離れ、ロシアが人道的配慮から亡命を受け入れたという。
HTSは「国民を抑圧したアサド政権は打倒された」「勝利はすべてのシリア人のものであり、新たな歴史だ」と宣言した。
中東では2011年に広がった民主化運動「アラブの春」で、エジプトやリビアなどの独裁政権が相次いで打倒された。「アサド時代」にピリオドが打たれたことで、最終局面を迎えた。
シリアでは1970年、アサド氏の父ハフェズ氏が軍事クーデターで権力を掌握し、翌年大統領に就いた。少数派のイスラム教アラウィ派だが、軍や治安・情報機関を使って統治してきた。
政権は対立する勢力を力で封じ込め、82年には反政府運動の中心地だった中部ハマで住民数万人を虐殺したとされている。
父の死を受け00年に権力を継いだ次男のアサド氏も強権的体制を維持し、民主化に背を向けた。
「アラブの春」をきっかけに11年3月、反政府勢力と政府軍の間で内戦状態になり、「イスラム国」(IS)をはじめとする過激派が介入し事態は複雑化した。
アサド政権は国際法に違反して化学兵器を使用したとされる。それにもかかわらず、欧米への対抗上、シリアへの影響力を維持したいロシアやイランはアサド政権を支援してきた。
今後の焦点は権力の移行がスムーズに進むかだ。
反政府勢力の政治組織幹部は、移行政府による18カ月間の統治期間を設け、憲法を制定して民主的な選挙を実施すべきだとの考えを示した。
ただ、反政府勢力にはさまざまなグループが存在している。HTSの母体は国際テロ組織「アルカイダ」系の組織である。内戦でアサド政権に反旗を翻した政府軍幹部らも加わっている。
反政府勢力はアサド政権の打倒では共闘してきたが、今後の統治方針を巡って意見対立があるとされる。少数派のクルド人組織やISが動きを活発化させる可能性もある。
米国などがテロ組織に指定するHTS主導の政権が生まれた場合、国際的に正統性が認められず、国連などの支援にも支障が出かねない。権力の空白期間を作らないよう注意が必要だ。
エジプトなど独裁政権が倒れた国々ではその後、イスラム主義勢力が影響力を強めた。
宗教の押し付けを嫌う人々との間で衝突が起き、民主化は頓挫している。シリアはそのてつを踏んではならない。
◆人道危機終わらせる時
アサド政権の崩壊で中東の勢力図は大きく変わった。イランは盟友だったアサド政権を失い、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラに対する武器などの供給が難しくなった。
一方、シリアにイスラム主義政権が生まれれば、政府軍の武器がISなどの過激派組織にわたるリスクも生じる。地域の不安定化を誘発する恐れがある。
米軍とイスラエル軍がそれぞれ、ISの拠点と政府軍の武器庫などを空爆したのは、そうした懸念があるためだ。
人道状況は危機的だ。内戦で命を落とした人は50万人を超えるとされ、人口のほぼ半分にあたる約1200万人が難民や国内避難民になっている。帰還を進めるためにも、一刻も早い平和と安定が不可欠だ。
しかし、大国が関心を失い、国際社会の支援を弱体化させる心配がある。
米国の次期大統領、トランプ氏は「これは我々の戦いではない」と距離を置いている。シリアの後ろ盾だったロシアはウクライナ侵攻の長期化で余力を失った。
「エジプト抜きでは中東で戦争はできないし、シリアがなくては平和は実現できない」
中東和平に関与したキッシンジャー元米国務長官はこう語り、シリアの重要性を強調している。
国連やアラブ諸国が国際協調を主導することが求められる。政変を地域の平和につなげなければならない。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月10日 02:02:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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