【社説・12.15】:【避難所の改善】生活の質守る環境整備を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.15】:【避難所の改善】生活の質守る環境整備を
仕切りのない大部屋で、床での雑魚寝が続く。1月の能登半島地震では阪神大震災と同様の光景が見られた。30年近くたっても厳しい状況は変わっていない。
政府は災害時の避難所運営に関する自治体向け指針を改定した。確保すべきトイレの数や被災者1人当たりの専有面積に国際基準を反映させ、避難所環境の抜本的改善に取り組む。
石破茂首相は先月の所信表明演説で、災害対応の強化に向けて国際基準の適用を目指す考えを表明した。
巨大地震に加え、異常気象が続く近年は自然災害も頻発する。被災者の生活の質を守る環境整備は喫緊の課題だ。政府の主導で迅速に実行する必要がある。
国際基準は「スフィア基準」と呼ばれるものだ。国際赤十字などが人道支援の基本原則や、避難所が備える最低限の設備などを定めている。国の現行指針では参考扱いにとどまっている。
改定指針では国際基準を踏まえ、具体的な数値目標を示した。
トイレの数は、災害の発生当初から50人に1個用意し、一定期間経過した後は20人に1個とする。女性用は男性用の3倍にするよう求めた。
専有面積については、1人当たり最低3・5平方メートル(2畳程度)と定める。生活空間を確保するため間仕切りの備蓄も求めている。
このほか、仮設入浴施設の設置基準や、キッチンカーなどによる温かい食事の提供方法も例示した。
避難所環境は大規模災害のたびに改善が図られてきた。国は高齢者への配慮などを示した運営ガイドラインを策定。被災地の要望を待たずに物資を送る「プッシュ型支援」なども進めている。
にもかかわらず、避難所の劣悪な環境が一因とされる災害関連死が後を絶たない。2016年の熊本地震では熊本県で直接死の4倍超に上った。能登地震でも直接死を超えている。検証とともに環境改善を急がなければならない。
ただ避難所を巡る課題は多く、先行きは見通せない。避難所運営の主体は自治体で、人材や財源の不足に悩む地域は少なくない。基準を満たせない自治体が出てくる懸念も指摘される。また居住スペースを巡っても、主に既存施設の活用が想定される日本では、基準を満たすことは簡単でない。
地域差が出ないよう、避難所環境の底上げが必要だ。政府には自治体への丁寧な説明と手厚い財政支援が求められる。
加えて民間との連携も不可欠だろう。現場で多くの役割を担う自治体には限界がある。食事提供などの専門性を持つボランティアや企業の力をもっと生かせるようにしたい。
南海トラフ地震に備える高知県では、25年度からの地震対策の行動計画に避難所の環境整備が重点課題として位置付けられるようだ。地域の住民らも関連死防止に向けた避難所の設置運営訓練を行っている。官民挙げて救える命を多く守りたい。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月15日 05:00:00 これは参考資料です。転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます