【社説・12.06】:宿泊税条例案 「何に使うか」議論尽くせ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.06】:宿泊税条例案 「何に使うか」議論尽くせ
急増する訪日外国人観光客などへの対応を理由に、自治体独自の法定外目的税として「宿泊税」を導入する動きが全国で加速している。
広島県はきょう開会する県議会定例会に関連の条例案を提出する。宿泊料金が6千円以上のホテルや旅館、民泊などの利用者に1人1泊200円を一律に課すのが軸で、事業者の罰則規定もある。
ビジネス利用も対象で県民からも徴収する。修学旅行など学習指導要領が定める学校行事を免税としたのは、全国から集う平和学習に及ぼす影響も考慮したのだろう。
中国地方では島根県松江市でも1泊200円を課税する条例案が市議会定例会に上程中だ。全国では2002年の東京都以来、計14自治体が課税を開始したか、導入を決定した。宮城県と仙台市でも10月に条例が成立したばかりだ。
観光行政の一つの手法として今後も広がっていくとみていい。課税に当たって説明を尽くし、かつ本当に必要な使途に充てるなら宿泊税そのものに意義は見いだせよう。
ただ新税を何に使うのか、事業者や住民が十分に納得できないまま条例化したところもあるようだ。よそもこうだという横並びの発想でなく、地域の実情に応じたきめ細かな議論が求められる。
年に23億円余りの納税額を想定する広島県では、これまで免税の対象などが専ら焦点だった感もある。肝心の使途はどうなのだろう。
県の説明資料によれば、県内全域での周遊促進や宿泊滞在時間の増加への取り組み、外国人観光客への対応、観光産業の持続的成長などに関する新規・拡充事業を主な使途として挙げる。相当な手間が迫られる事業者の負担軽減措置や、県内市町への交付金などにも活用するという。
いまひとつイメージが湧かないものもある。周遊観光の促進もそうだ。現状は広島市の平和記念公園と廿日市市の宮島が集客の核だろう。動線をどうしていくのか、より具体的な策を例示した方が理解を得やすいはずだ。例えば18年に導入した京都市は宿泊税を財源に、主要観光地に直行する「観光特急バス」を今年6月から走らせている。
県としての観光戦略の基本が今こそ問い直されよう。
「観光公害」を考えるにしても、ごみ問題やトイレ不足に直面するのは市町の方だ。県からの宿泊税の配分方法が検討段階なのは気になる。
宮城県と仙台市は条例を基に宿泊者から1泊300円を徴収した上で、市内では県に100円、市に200円を配分する仕組みを設けた。広島県の徴収額の最多は広島市とみられるが、足元の使途にはどれほど還元されるだろう。
県は26年4月以降の導入を見込む。条例ができても事業者への周知など今後のプロセスは課題が山積する。県議会の審議では先行自治体の課題も踏まえ、徴収の在り方と使い道の両面について議論を尽くしてもらいたい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月06日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます