《社説②・12.21》:シリア領へ入植拡大 イスラエルは即時停止を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.21》:シリア領へ入植拡大 イスラエルは即時停止を
独裁政権の崩壊に伴う混乱に乗じて、占領地を拡大することは許されない。
イスラエルがシリア領ゴラン高原の非武装地帯に軍を侵攻させ、入植地を拡大する方針を打ち出した。約17億円を投じてインフラを整備し、現在約2万人いる入植者を倍増させる計画だ。
ゴラン高原はシリア南西部に位置する戦略的要衝だ。1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領し、入植を開始した。81年には併合を宣言している。
だが、国際社会は軍事力による現状変更を認めず、国連は繰り返し併合の撤回を求めてきた。
非武装地帯は74年に両国が合意した協定に基づき設置された。今回の侵攻は明確な協定違反だが、イスラエルのネタニヤフ首相は「シリアが秩序を回復させるまで協定は無効だ」と説明する。あまりに一方的な主張だ。
国連のグテレス事務総長は「協定は引き続き有効で、違反行為を非難する」との声明を出した。
入植地拡大については、周辺国などから「主権の侵害だ」と反発の声が上がっている。イスラエルとの関係改善を模索するサウジアラビアやカタールも非難した。
シリアでは半世紀以上にわたって独裁体制を敷いたアサド政権が崩壊し、暫定政権が樹立されたばかりである。長引く内戦で国土は荒廃し、国家再建の道筋は立っていない。
イスラエルはゴラン高原だけでなく、首都ダマスカスをはじめシリア全土で軍事施設への攻撃を繰り返している。人道危機をさらに深刻化させかねない。
パレスチナ自治区ガザ地区でもイスラム主義組織ハマスと戦闘が続く。最大の敵であるイランとも対立を深めている。
2020年にはトランプ前米政権の後押しを受け、アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどと国交を樹立するなど、アラブ側との関係を正常化してきた。新たな入植計画はこうした機運を冷え込ませる可能性がある。
ロシアによるウクライナ侵攻で世界は今、強者が力で領土を奪う時代に逆戻りしかねない状況だ。地域の安定を取り戻すため、イスラエルは国際法に反する活動を直ちに停止しなければならない。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月21日 02:02:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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