《社説①・12.21》:103万円の壁と税制大綱 責任ある政策論を国会で
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.21》:103万円の壁と税制大綱 責任ある政策論を国会で
物価高に苦しむ国民の税負担を和らげる必要はある。一方で借金まみれの財政をさらに悪化させれば禍根を残す。与野党は責任を持って議論すべきだ。
自民、公明両党は来年度の税制改正大綱を決めた。国民民主党が求めた「年収103万円の壁」引き上げに応じ、所得税がかかり始める水準を123万円とする。
必要最低限の生活を保障するために設定されたが、1995年以降はデフレを理由に据え置かれてきた。やむをえず働く時間を抑える学生アルバイトらも増えている。引き上げを決めたのは妥当だ。
しかし178万円を主張する国民民主は受け入れていない。少数与党の自公は3党での協議を継続する。年明けの国会で修正の可能性もある異例の展開となった。
今後は与党案から上積みするかどうかが焦点となるが、政治的な駆け引きに終始してはならない。政策の目的や効果、課題を明確にしたうえで結論を得るべきだ。
双方の意見の隔たりは大きい。
与党は、95年以降の食料品などの物価上昇率20%を反映させた。生活費を補うのなら、物価に見合う水準にするのが合理的だ。
国民民主は最低賃金の上昇率と同じ70%強の引き上げを求めている。減税額は年収500万円で約13万円、年収1000万円で約23万円と試算する。大型減税で消費てこ入れを図る狙いだ。
だが年収が高いほど恩恵が大きくなるのは疑問だ。物価高の打撃を最も受ける低所得者を中心に支援する仕組みが求められる。
財政への影響も見過ごせない。政府の試算では、178万円に引き上げると、国と地方の税収が年7兆~8兆円減少する。
国民民主は「経済が活性化して税収も増える」と主張するが、楽観的過ぎる。来年の参院選目当てのアピールなら無責任だ。与党も国民民主案を丸のみして財源を置き去りにすべきではない。
税の議論のあり方を見直す機会にもなる。「自民1強」の国会では、与党内で決めた案がそのまま成立し、審議は形骸化していた。
国民生活に深く関わる税は国会で幅広い観点から協議すべきだ。与野党が議論を尽くし、道理にかなう一致点を見いだす。そうした「熟議」を実現する時である。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月21日 02:02:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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