【社説②】:選挙演説の安全 警察と政治家の連携が重要だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:選挙演説の安全 警察と政治家の連携が重要だ
政治家の選挙演説は、有権者に直接、主張を届ける重要な機会だ。警察と政治家が事前に十分協議し、言論の自由と安全の双方を守る体制を整える必要がある。
和歌山市の選挙演説会場で、岸田首相に爆発物が投げ込まれた事件について、警察庁が警備体制を分析した報告書をまとめた。
会場の漁港に集まった聴衆の確認方法に問題があったと結論づけ、演説会を主催する自民党和歌山県連側と綿密に協議しておくべきだったと総括した。
和歌山県警は、県連から「聴衆は漁協関係者のみで、部外者が来ても顔を見て識別できる」と説明されたという。そのため、聴衆の確認を漁協スタッフに任せ、金属探知機も設置しなかった。
主催者としては、物々しい雰囲気を避け、できるだけ近くで岸田首相の演説を聴いてほしかったのだろう。その結果、爆発物を持った男の接近を許してしまった。
安倍晋三・元首相が銃撃された事件から1年足らずの間に、現職の首相が襲われたことは、極めて重大な事態である。警備体制の立て直しが急務だ。
今回特に深刻なのは、安倍氏の銃撃事件を踏まえ、警察庁が県警の警護計画を事前にチェックしていたことだ。再発防止策が機能しなかったと言わざるを得ない。
警察は今後、できるだけ屋内で演説会を開くよう政党側に要請するとしている。屋内であれば、出入り口で氏名や参加証を確認し、手荷物検査もできるからだ。
これに対し、政治家からは「街頭でないと、無党派層に呼びかけるのは難しい」と難色を示す声が出ている。有権者と握手をしたいという人も多いはずだ。
警察と政党は、会場の特徴や聴衆の規模などの情報を共有し、最適な警備方法を探ってほしい。首相らの場合は特に厳重な警備が必要になる。街頭では聴衆と距離を取り、防弾シールドを設置することなども検討に値しよう。
米国では多くの選挙演説を屋内で行い、手荷物検査や入場者の管理を徹底しているという。
最近はSNSで選挙活動の日程などが告知され、地元の有権者以外も多く会場に来るようになった。顔を見て部外者を見分けるような方法は難しくなっている。
インターネット上には、銃や爆弾の作り方が載っている時代である。従来の選挙演説の常識にとらわれず、常に危険人物が紛れ込んでいるという前提で、会場の安全確保に努めることが大切だ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年06月08日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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