【社説①】:ダム決壊 大惨事生んだ責任は露にある
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:ダム決壊 大惨事生んだ責任は露にある
ロシアの侵略と占領がなければ、起きえなかった大惨事である。直接の原因が何であれ、一義的な責任がロシアにあることは明白だ。
ロシアが軍事占拠しているウクライナ南部カホフカ水力発電所のダムが決壊した。
ドニプロ川の水量が急増し、下流域で洪水が起きた。被災者は数万人に上り、死傷者の増加が懸念されている。電力や水資源の喪失により、周辺地域が長期間、打撃を受けることも避けられない。
こうした深刻な事態が起きるのを防ぐために、戦争犯罪を規定するジュネーブ条約は50年近く前から、ダムや原子力発電所の攻撃を「住民に重大な損失をもたらす」として禁じてきた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアが洪水を兵器として利用するために、ダムを意図的に破壊したと非難した。主張通りなら、言語道断の戦争犯罪だ。
ロシア側は「ウクライナによる破壊工作だ」と反論しているが、根拠を示していない。ウクライナが、自国の国民や領土への甚大な被害を顧みずに、ダムを攻撃したとは考えにくい。
意図的な破壊ではなく、ダムの強度が損なわれて決壊した可能性も指摘されている。仮にそうであっても、ロシア軍がダムの管理や水位の調整を適切に行わず、大惨事を招いた責任は免れない。
ロシアが、占拠した重要インフラ(社会基盤)施設の管理を軍人任せにして危険にさらしたのは、ダムから約120キロ・メートル離れたザポリージャ原発も同じだ。
国際社会は、ダムや原発の周辺地域を非軍事化し、国際管理に委ねることを要求してきたが、ロシアは拒み続けている。
国際刑事裁判所(ICC)や国連機関が現地に入り、原因などを徹底的に調査することが重要だ。洪水の被害者に対する人道支援の体制も整備する必要がある。
ザポリージャ原発は全原子炉の運転を停止しているが、核燃料の冷却水はダムの貯水池から引いている。国際原子力機関(IAEA)は現時点で冷却が止まる危険はないとしている。万一に備え、代替水源の確保を急いでほしい。
今回の事態は、ウクライナが大規模な反転攻勢の準備を進めているなかで起きた。ロシア軍をウクライナから撤収させ、領土の奪回を果たさなければ、常にこうした危機にさらされることになる。
国際社会は結束し、ウクライナ軍の反撃が成果を収めるよう、支援を強化せねばならない。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年06月08日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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