《社説①・11.13》:「年収の壁」論議 財政への影響熟慮せねば
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・11.13》:「年収の壁」論議 財政への影響熟慮せねば
少数与党となった自民、公明と野党の国民民主による3党の政策協議で、「年収103万円の壁」の引き上げが焦点となっている。
パート従業員らは現在、年収が103万円を超えなければ所得税が発生しない。この非課税枠を178万円にまで引き上げ、税負担の軽減を図るべきだというのが国民民主の主張だ。
手取り収入の減少を意識し、年収が103万円の水準を超えないよう労働時間を抑える人がいるため「壁」と言われている。
非課税枠の存在はそもそも、最低限の生活費には課税しないという考え方に基づいている。食料や燃料など生活必需品の物価が上昇している以上、これを見直すこと自体は必要な作業である。
だが、国民民主の言うように一気に75万円も引き上げるというのは現実的なのか。
政府試算によると、これを実施した場合、国と地方の年間の税収が計約7兆6千億円減る。うち地方分が約4兆円を占める。
財源不足をどうカバーしていくのか。国民民主が衆院選で掲げた政策集などには、説得力のある提案が見当たらない。
財政への影響を十分に考慮しない政策は将来に禍根を残す。協議を進める際、3党はそのことを強く意識してほしい。
衆院選の与党大敗を受けて発足した第2次石破内閣は、野党の協力なしに予算や法案が通らない状態となった。政権維持を優先するあまり、後先を考えず安易に妥協するようでは困る。
国民民主は「未来志向の積極財政」を掲げる。うかがえるのは、減税や財政出動で消費や投資を促して経済が活性化すれば税収が増え、必要な財源もそこから得られるという発想だ。
うまくいくだろうか。景気回復で税収増が実現したとしても安定財源ではない。増大する社会保障負担などをどう分け合うかといった厳しい議論から目をそらし、国民に聞こえのよい収入向上策を訴えているようにも見える。
パートやアルバイトの労働時間抑制につながっている「壁」を取り除く観点なら、所得税だけでなく、年金や医療などの社会保険料負担が生じるようになる年収水準にも目を向けるべきだろう。
「106万円の壁」や「130万円の壁」と言われる問題だ。政府は昨年、従業員の保険料負担を軽減した企業に補助金を出す対策をまとめている。これまでの議論を踏まえ、負担のあり方を広く見直していく必要がある。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月13日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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