加計獣医学部を優先させたのはオトモダチのため!
失速・破たんと失政の安倍政治の目玉=アベノミクス推進のため!
何より憲法改悪を目指す安倍政権温存のため!
国家戦略特区は本当に「規制改革」か
「加計学園」問題の焦点は、岩盤規制に穴を開けたのは誰かである(既報)。それは、加計学園だけが通った穴だったからだ。しかし、関係文書を辿ると、「国家戦略特区」制度とは、本当に「規制改革」のためのものなのかという根本的な疑問が浮かんできた。
「省益」に代わる「総理益」リスク
このような「特区」制度は、小泉内閣が2002年に始めた「構造改革特区」が最初だ。謳い文句は「実情に合わなくなった国の規制が、民間企業の経済活動や地方公共団体の事業を妨げている」というもの。本来は、官僚による規制(=省益)を一律に改革するのが王道だ。だが、政官の抵抗勢力によりそれができず、特定の民間事業や地方公共団体が提案し、官邸主導の会議が認定するという邪道が、突破口として設けられた。
一方、「国家戦略特区」は、第二次安倍内閣発足(2012年12月)1年後の2013年12月に国家戦略特別区域法で創設された。「規制改革等の施策を総合的かつ集中的に推進」するとし、「総理・内閣主導の枠組み」がキーワードだ。
双方とも、一律な「規制改革」にはつながらず。特定地域や事業体にテコ入れする性格が見え隠れする。特に国家戦略特区は「総理・内閣主導」で枠組みを作って「公募」させるため、よほど注意深く公正な手続きを設定しなかければ、「省益」にかわって「総理・内閣益」の実現につながるリスクが容易に想定される制度だ。
その公正な手続きを担保するのが、「国家戦略特別区域諮問会議」、「国家戦略特別区域会議」、「国家戦略特区ワーキンググループ」といった会議体だが、実質的な取り決めは、「打合せ」と称する政官、有識者、省庁間で綿密に「水面下」で調整されていたこと既報が時系列を整理すると明らかだ(既報で取り上げたのは公表行政文書のごく一部)。
つまり、こうした会議体は「隠れみの」といって語弊があるなら「段取り後の結果を外に見せる舞台」に過ぎないことが見えてしまったのだ。
そして、重要なのは、これは、文部科学省の前川喜平・前事務次官が「行政の在り方がゆがめられた」(時事通信)と問題にしなければ、見えないままだったことだ。
裏舞台で用意された「ゆがみ」
国会審議が明らかにしたものの一つには、「閣議決定で決めた石破4条件」に合致しないという「ゆがみ」がある(*)。
「石破4条件」とは、国家戦略特別区制度の始まりから2年半後、石破茂・前内閣府特命担当大臣(国家戦略特別区域)時代の2015年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015-未来への投資・生産性革命-」に盛り込まれていたものだ。
その中の「日本産業再興プラン」の中に「残された集中取組期間における国家戦略特区の加速的推進」があり、ピンポイントで「獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討」が以下のように入っている。
この長い1文を分割して「獣医師養成系大学・学部の新設」の「4条件」と言う。
(1)現在の提案主体による既存獣医師養成でない構想が具体化し、
(2)ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的需要が明らかになり、
(3)かつ、既存の大学・学部では対応困難な場合には、
(4)近年の獣医師需要動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。
「『日本再興戦略』改訂2015」より(太字は筆者加筆)
この「石破4条件」と、既報で示した、藤原審議官の「手書き」を見比べて違いに気づいて欲しい。4条件のうち(3)「既存の大学・学部では対応困難な場合」が、11日1日の打合せで削除されることになったことが分かる。
以下が、その1週間後に「国家戦略特区域諮問会議」(第25回平成28年11月9日)に同会議名で提出された最終的な成案だ。
手書き指示で消えた「既存の大学・学部では対応困難な場合」
「国家戦略特区における追加の規制改革事項について(案)」として、「既存の大学・学部では対応困難な場合には」(=京都産業大学が手を挙げれば加計学園が外れる条件)が指示通りに削除され、代わりに「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とする」(=京都産業大学が外れ、加計学園に当てはまる条件)が入ったものだ。「追加」という方便で、先にあったルール(閣議決定)を覆し、新たなルールを作ってしまったのだ。
「総理からご指示をいただいた」
この日の議事録を見ると石破前大臣の後を継いだ山本幸三大臣が司会役を務め、この件については他の議題と混ぜ合わせてサラリと説明しただけだ。
山本幸三大臣:資料3を御覧ください。前回の会議で、重点課題につきましては、法改正を要しないものは直ちに実現に向けた措置を行うよう総理から御指示をいただきましたので、今般、関係各省と合意が得られたものを、早速、本諮問会議の案としてとりまとめたものであります。 内容といたしましては、先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置、農家民宿等の宿泊事業者による旅行商品の企画・提供の解禁となっております。
また、山本大臣は関係大臣の発言を促し、松野博一文部科学大臣が「設置認可申請については、大学設置認可にかかわる基準に基づき、適切に審査を行ってまいる」と、山本有三農林水産大臣が「大いに期待しておる」と発言。これに対し、麻生太郎財務大臣が、次のように批判的な注文を付けた。
麻生大臣: 松野大臣に1つだけお願いがある。法科大学院を鳴り物入りでつくったが、結果的に法科大学院を出ても弁護士になれない場合もあるのが実態ではないか。だから、いろいろと評価は分かれるところ。似たような話が、柔道整復師でもあった。あれはたしか厚生労働省の所管だが、規制緩和の結果として、技術が十分に身につかないケースが出てきた例。他にも同じような例があるのではないか。
規制緩和はとてもよいことであり、大いにやるべきことだと思う。しかし、上手くいかなかった時の結果責任を誰がとるのかという問題がある。この種の学校についても、方向としては間違っていないと思うが、結果、うまくいかなかったときにどうするかをきちんと決めておかないと、そこに携わった学生や、それに関わった関係者はいい迷惑をしてしまう。
しかし、誰一人、これが閣議決定に反していると指摘したものはいなかった。逆に閣議決定違反となる「国家戦略特区における追加の規制改革事項」には、驚いたことに、「国家戦略特区域諮問会議」の竹中平蔵氏ら有識者メンバーが、「国家戦略特区 追加の規制改革事項などについて」を署名入りで提出し、お墨付きを与えていた。
その1人である八田達夫・アジア成長研究所所長は、大臣発言を受けて、それにジャストミートするきめ細かな発言を行った。
八田達夫:(略)創薬プロセス等の先端ライフサイエンス研究では、実験動物として今まで大体ネズミが使われてきたのですけれども、本当は猿とか豚とかのほうが実際は有効なのです。(略)そういう研究のために獣医学部が必要だと。(略)獣医学部が全くない地方もある。(略)先ほど文科大臣のお話にもありましたように、大学設置指針というものがあるのですが、獣医学部は大学設置指針の審査対象から外すと今まで告示でなっていた。それを先ほど文科大臣がおっしゃったように、この件については、今度はちゃんと告示で対象にしようということになったので、改正ができるようになった。(略)
麻生大臣のおっしゃったことも一番重要なことだと思うのですが、質の悪いものが出てきたらどうするか。これは、実は新規参入ではなくて、おそらく従来あるものにまずい獣医学部があるのだと思います。(略)新しいところが入ってきて、そこが競争して、古い、あまり競争力がないところが出ていく。そういうシステムを、この特区とはまた別にシステムとして考えていくべきではないかと思っております。
水面下で政治的鞘当てか?
そして最後に、安倍首相が「議長」として次のように発言して、この日の会議が終わる。
安倍議長:(略)本日は、「獣医学部の設置」や「地域主体の旅行企画」についての制度改正を決定しました。このスピード感で、残された岩盤規制の改革にもできるものから着手し、そして実現していきます。山本地方創生・規制改革担当大臣と民間有識者の皆様には、引き続き、私と一緒にドリルの役割をお願いしたいと思いますので、よろしくお願いします。
4条件を付けた2015年6月30日時点の石破前大臣と、2016年11月9日の会議で批判的な注文を松野大臣につけた麻生財務大臣は、次期首相の座を狙っていると言われ、加計学園を巡る「規制改革」への政策的な疑問符なのか、政治的な鞘当てなのかは判然としない。
いずれにせよ、元々の「日本再興戦略」改訂2015(2015年6月30日閣議決定)は「アベノミクス礼賛パンフレット」とでも言えるほど、「アベノミクス」という言葉がちりばめられており、たとえ、「印象操作」(関係既報)だと首相が述べたとしても、この「戦略」がまるごと「首相の意向」であることは自明である。
その中に「規制」の名で盛り込まれた「国家戦略特区」とは、果たして本当に「規制改革」なのか。結果的にたった一つの事業体<加計学園>しか応募できなかった条件が、水面下の打合せで整えられたと知れば、前川前文科事務次官でなくても、行政の在り方がゆがめられたと言いたくなるだろう。そして、それが「首相の意向」だと感じても、それが一般国民の感覚だというものではないか。
(*)
-加計学園獣医学部新設は「石破4条件」を満たしているか(2017年05月20日 衆議院議員玉木雄一郎のオフィシャルブログ)
-やっぱり加計学園ありき 共産党が入手した内部文書の中身(2017年5月23日 日刊ゲンダイ)
-【衆院決算委】加計学園問題「総理の意向」示す新メール 今井議員が調査求めるも政府拒否(2017年6月5日 民進党)
ジャーナリスト。ラテン諸国放浪後、衆議院議員の政策担当秘書等を経て、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。著書に『投票に行きたくなる国会の話』(ちくまプリマー新書、2016)、『四大公害病』(中公新書、2013)『水資源開発促進法 立法と公共事業』(築地書館、2012)、共著に『公害・環境問題と東電福島原発事故』、『社会的共通資本としての水』など。