続きです。
現代日本の若者を、展望の光から閉ざし、展望を創出するのではなく、喪失させています。若者が自殺を余儀なくされる社会はトンデモナイ社会です。これは戦前の徴兵制に基づく人権否定思想と同じです。人生20年で諦めさせるのです。裕福な、塾に通える力のある家庭の子どものみが、高学歴を保障される社会。大学に進学しても高校生以下の学力しかない大学。その大学も3年生から進学指導を余儀なくされている実態。およそ教育と研究の場にふさわしくないと言われている日本の大学。そのような状況に追い込まれている若者が、50社も訪問しなければならない実態。それでも非正規労働が精一杯なのです。就職が決まらないのは「自己責任」と、マジで思い込んでいる若者。
「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険」と自覚する若者はどれだけいるでしょうか。「独りは皆のため、皆は独りのため」、いわゆる「ONE FOR ALL ALL FOR ONE」、これはラグビー精神であり、学校の校舎の壁や教室に掲げられている標語・スローガンです。活発なはずの部活動では、まさに、この思想が具体化されなければならないことは誰が見ても判ることです。
あの松井選手の野球哲学は、「チームのためは自分のため、自分のためはチームのため」を文字通り実践した人ではなかったのでしょうか。チームプレーにおいては、まさにフォーメーションが決定的であることは、サッカーをみても判ることです。勿論、サッカーだけではありませんが。そのような当たり前のことが、いざ、地域社会や職場に目を向けてみるなり、全く真逆のことが行なわれているのです。そのキーワードは「自助」「自己責任」思想です。
こんな世の中誰がした!と怒り、職をよこせ!未来を保障しろ!家庭を持たせろ!子どもを!老後を!飯を食わせろ!と叫ぶ若者がどれだけいるでしょうか!自分だけはない要求を、同じ境遇の若者同士で、実現のために連帯する若者がどれだけいるでしょうか。スポーツで視ている思想が、ここではちっとも役に立っていないのです。
「多数の人民に対する不正、困苦及窮乏を伴ふ現今の労働状態は大なる不安を醸生し惹て世界の平和協調を危殆ならしむへきに因り」という視点はそのまま現代日本社会そのものです。憲法第25条の空洞化は、憲法第9条を根底から崩すものです。人権思想がないがしろにされている状態は平和とは言えないということです。
「労働は単に貨物又は商品と認むへきものに非す」とは、資本主義経済制度に基づく社会は労働力は商品として捉えられています。しかし、ここでは人道主義に基づいて「商品に非ず」と規定しているのです。という思想を、現代社会にあてはめると、どうでしょうか。若者を非正規労働者として扱い、水分が、これ以上出てこないほど雑巾(人間)を絞り、その人間的価値を搾りとるのです。そうして、搾り取るものがなくなった時、ボロ雑巾のようにお払い箱とするのです。それが現代日本資本主義社会ではないでしょうか。
このような実態は、あの職工事情や女工哀史、野麦峠の世界、炭坑節の世界です。日本国民や世界の労働者が血を汗と涙で築いてきた人権思想の発展と諸権利を踏みにじるものです。日本の労働者が使えなければ、他国の労働者を使えば良いのだという、およそ愛国者とは無縁の思想が、根底にあるのです。これだけ非正規労働とワーキングプアを増大させ、内部留保を腹いっぱい溜め込んでも、それを貧困のどん底に落としている国民のために使うなどという道徳心は微塵もないのです。
このように、現代の若者の働く権利を奪う、命を奪う装置、国民貧困に落としている装置の数々を何としても打ち破らねばなりません。
そこで、今日は、昨日に続いて吉岡義典『ILOの創設と日本の労働行政』(大月書店09年12月)のつづきを紹介することにしました。94年も前に、世界では、すごいことが議論されていたのです。現代日本資本主義社会に生きる、虐げられている人間が、今こそ、日本国憲法の源流でもある、これらの事実から学ぶことは多いのではないでしょうか。
ベルサイユ平和条約
その出発点になったのは、国際的な労働者階級の闘争といち早く八時間労働制を宣言したロシア革命の影響とこれを反映した第一次大戦後の一九一九年のパリ講和会議におけるベルサイユ平和条約、とくにその第十三編「労働」として採択された国際労働憲章である。パリ講和会議で採択されたベルサイユ平和条約は、第一編「国際聯盟規約」第二十三条で「男女及び児童の為に公平にして人道的なる労働条件を確保するに力め且之が為に必要なる国際機関を設立維持」することなどつぎの規定を設けていた。
第一編 国際聯盟規約
締約国は、戦争に訴へざるの義務を受諾し各国間に於ける公明正大なる関係を規律し各国政府間の行為を律する現実の規準として国際法の原則を確立し組織ある人民の相互の交渉に於て正義を保持し且厳に一切の条約上の義務を尊重し以て国際協力を促進し且各国間の平和安寧を完成せむが為茲に国際聯盟規約を協定す
(中略)
第二十三条
聯盟国は現行又は将来協定せらるべき国際条約の規定に遵由し
(イ)自国内に於て及其の通商産業関係の及ぶ一切の国に於て男女及児童の為に公平にして人道的なる労働条件を確保するに力め且之が為必要なる国際機関を設立維持すべし
(ロ)自国の監理に属する地域内の土着住民に対し公正なる待遇を確保することを約す
(ハ)婦人及児童の売買並阿片其の他の有害薬物の取引に関する取極の実行に付一般監視を聯盟に委託すべし
(ニ)武器及弾薬の取引を共通の利益上取締るの必要ある諸国との間に於ける該取引の一般監視を聯盟に委託すべし
(ホ)交通及通過の自由並一切の聯盟国の通商に対する衡平なる待遇を確保する為方法を講ずべし 右に関しては千九百十四年乃至千九百十八年の戦役中荒廃に帰したる地方の特殊の事情を考慮すべし
(ヘ)疾病の予防及撲滅の為国際利害関係事項に付措置を執るに力むべし
ベルサイユ平和条約は、この規定にとどまらず、さらに第十三編で「労働」(国際労働憲章)をとりきめた。その第一款は冒頭で、「世界平和は社会正義を基礎とする場合に於てのみ之を確立し得」るとし、「多数の人民に対する不正、困苦及窮乏を伴ふ現今の労働状態は大なる不安を醸生し惹て世界の平和協調を危胎ならしむべきに因り」労働時間など労働条件を制定し、「前記労働状態を改善することは刻下の急務」と宣言している。つまり、「人道的労働条件」の実現を「世界恒久の平和を確保」する基礎としてとらえたのである。
第十三編 労働 第一款 労働機関
国際聯盟は世界平和の確立を目的として世界平和は社会正義を基礎とする場合に於いてのみ之を確立し得べきものなるに因り
多数の人民に対する不正、困苦及窮乏を伴ふ現今の労働状態は大なる不安を醸生し惹て世界の平和協調を危殆ならしむへきに因り彼の労働時間の制定殊に一日又は一週の最長労働時間の規定、労働供給の調節、失業の防止、相応の生活を支ふるに足る賃銀の制定、労務傷害及疾病に対する労働者の保護、児童年少者及婦人の保護、老年及廃疾に対する施設、自国外に於て使用せらるる労働者の利益の保護、結社の自由の原則の承認、職業及技術教育の組織等の如き手段を以て前記労働状態を改善することは刻下の急務なるに因り
一国に於て人道的労働条件を採用せさるときは他の諸国の之か改善を企図するものに対して障碍となるべきに因り
茲に締約国は正義人道を旨とし世界恒久の平和を確保するの翼望を以て左の諸條を協定す
第一章機関 第三百八十七條
前文記載の目的を達せむか為茲に常設機関を設置す
国際聯盟の原聯盟国は右常設機関の原締盟国たるへく今後国際聯盟の聯盟国と為るものは同時に右常設機関の締盟国たるへきものとす(以下略)
第二款
第二款は、労働保護に関する基本原則をしめしたもので、つぎの九原則を「特別緊急の必要あるもの」として規定した。
一 労働は単に貨物又は商品と認むへきものに非すとの前記の基本原則
二 使用者又は被用者か一切の適法なる目的の為結社するの権利
三 其の時及其の国に於て相当と認めらるる生活程度を維持するに足る賃銀を被用者に支払ふへきこと
四 一日八時間又は一週四十八時間の制を実行するに至らさる諸国に於ては之を其の目標として採用すへきこと
五 日曜日を成るへく包含し二十四時間を下らさる毎週一回の休息を與ふるの制を採用すへきこと
六 児童労働を廃止すへきこと及年少者の労働に対し其の教育を継続することを得且身体の正当なる発達を確保すへき制限を設くへきこと
七 同一価値の労働に対しては男女同額の報酬を受くへき原則
八 各国か其の法令に依り定むる労働條件に関する標準は適法に其の国に居住する一切の労働者に対する衡平なる経済上の待遇を確保すへきこと
九 各国は被用者の保護を目的とする法令を励行する為監督の制度を設け婦人をして之に参加せしむへきこと
この九項目を平和条約に挿入することをまとめたパリ講和会議の国際労働立法委員会の講和会議への報告書は、「委員会結論の第二部は、労働界で最も重要な事項に関する宣言を含んだ条項の形式をとっている。委員会の開会の席上、諸国代表は、平和条約にこれらの宣言を挿入し、これによって今や世界大戦にまで立ち至った時代が終了し、より良き社会秩序が始まり、新しい文明の生まれたことを告げる必要を認めることに一致した」とのべている(日本ILO協会編『講座ILO(国際労働磯関)』日本ILO協会、一九九九年、上巻、五六ページ)。
ワシントン国際労働総会(第一回ILO総会)
ベルサイユ平和条約の「国際連盟規約」および、第十三編「労働」のとりきめにそって、一九一九年十月、ワシントンで第一回国際労働総会が聞かれた。同会議については、「第十三編 労働」の「附属書」で議題にいたるまできめられていた。
会議事項
一 一日八時間又は一週間四十八時間の原則の適用の件
二 失業に対する予防又は救済の件
三 婦人使用の件
(イ)産前産後(産婦に対する手当問題を含む)
(ロ)夜間
(ハ)健康上有害なる作業
四 児童使用の件
(イ)使用の最低年齢
(ロ)夜間
(ハ)健康上有害なる作業
五 産業に使用せらるる婦人の夜業の禁止及燐寸製造に於ける黄燐使用の禁止に関する千九百六年「べルヌ」国際條約の拡張及適用の件(注 ベルヌ国際条約=婦人夜業禁止・黄燐使用禁止)
ワシントン国際労働総会=第一回ILO総会は、八時間労働制の確立をはじめ、つぎの六つの条約を採択した。
(一)工業的企業に於ける労働時間を一日八時間且一週四十八時間に制限する条約(第一号)
(二)失業に関する条約(第二号)
(三)産前産後に於ける婦人使用に関する条約(第三号)
(四)夜間に於ける婦人使用に関する条約(第四号)
(五)工業に使用し得る児童の最低年齢を定むる条約(第五号)
(六)工業に於て使用せらるる年少者の夜業に関する条約(第六号)
しかし日本政府は、この六つの条約のうち第五号を批准しただけである。このことについてはあとであらためてふれる。ILO第一号条約となった「工業的企業に於ける労働時間を一日八時間且一週四十八時間に制限する条約」は、つぎのように八時間労働の原則を規定した。
国際労働機関の総会は、
亜米利加合衆国政府に依り千九百十九年十月二十九日華盛頓(ワシントン)に招集せられ、
右華盛頓総会の会議事項の第一項目たる「一日八時間又は一週四十八時間の原則適用の件」に関する提案の採択を決議し、且該提案は国際条約の形式に依るべきものなることを決定し、
国際労働機関の締盟国に依り批准せらるが為、国際労働機関憲章め規定に従い、千九百十九年の労働時間(工業)条約と称せられるべき左の条約を採択す。
第一条〔略〕
第二条
同一の家に属する者のみを使用する企業を除くの外、一切の公私の工業的企業又は其の各分科に於て使用せらるる者の労働時間は、一日八時間且一週四十八時間を超ゆることを得ず。
但し、左に掲ぐる場合は、此の限に在らず。
⒜本条約の規定は、監督若は管理の地位に在る者又は機密の事務を処理する者には之を適用せず。
⒝法令、慣習又は使用者の及労働者の団体、若は斯る団体なき場合に於ては使用者の及労働者の代表者聞の協定に依り、一週中の一日又は数日に於ける労働時間を八時間未満と為したるときは、権限ある機関の認許又は前記団体若は代表者の間の協定に依り、該週中の他の日に於て八時間の制限を超ゆることを得。但し、本号に規定する如何なる場合に於ても一日八時間の制限を超ゆること一時間より多きことを得ず。
⒞被用者を交替制に依り使用する場合に在りては、三週以下の一期間内に於ける労働時間の平均が一日八時間且一週四十八時間を超えざる限り、或日に於て八時間又或週に於て四十八時間を超えて之を使用することを得。
八時間労働制は世界各国の労働者の共通の要求、たたかいの目標であり、日本でもこの時期に八時間労働制を要求する労働者のたたかいがひろまっていた。それはまた、マルクスが特別の意義をあたえ、「国際労働者協会」でも提起し、重視しつづけてきたことでもある。同様に、児童や年少者の保護、教育も労働者階級の重要な任務として、マルクスが強調しつづけてきた問題であることも指摘しておこう。それが、国際条約として採択されるにいたったのである。 パリ講和会議は、労働条件の改善という点でもきわめて重要な画期的意義をもったのである。 適用除外例などもあるとはいえ、一九一九年、すなわち八十三年前の時点での労働条件についての世界の到達点をしめすものである。 なお、ILO事務局は、ベルサイユ平和条約第十三編労働を、一九三四年九月の第六八回理事会の議事委員会の承認を得て、国際労働機関憲章(Constitution of the lnternationa1 Labour organization)と呼称するとともに、第三八七条を第一条とした。この名称は、その後、例えば一九三六年の第二〇回総会が土民労働者募集条約(第五〇号)を採択するにあたって、その第十五条で国際労働機関憲章の名称を使用したごとく、条約中にも使用されるようになった。しかし、国際労働機関憲章という名称がはじめて正式に用いられたのは、一九四五年の第二七回総会で採択された憲章改正文書においてである。
フィラデルフィア宣言
ILOの歴史でもう一つ注目しなければならないのが、一九四四年の第二六回ILO総会が採択した「フィラデルフィア宣言」、正確には「国際労働機関の目的に関する宣言」である。 フィラデルフィア総会が聞かれた一九四四年四月二十日から五月一日という時期は、反ファシズム・反軍国主義連合の勝利が確定的となり、連合国、とくにアメリカは戦後の世界構想をねっている時期であった。 この時期にILO総会がフィラデルフィア宣言を採択し、これをILO憲章にならぶ宣言にしたことは、第二次大戦後の世界に対処するためであったと、飼手真吾・戸田義男『ILO・国際労働機関』(日本労働協会、一九六六年)は指摘している。
「ILOがこのような宣言を採択したのは、一九一九年に設置されて以後における経験とこれから学び得た教訓に照らして、第二次大戦後の世界に対処するため、前文または憲章第四一条に掲げる目的・原則を、あるいは修正しあるいは拡張する必要があると認めたからにほかならない。ルーズヴェルト大統領(FranklnD.Roosevelt)も、このフィラデルフィア宣言について、二回の大戦を経験した一時代の願望を要約したものであり、アメリカの独立宣言に比すべき歴史的価値を当然に獲得するであろうと述べた。総会は、さらに二日後の五月一二日にフィラデルフィア宣言を平和条約の中に合めるべきであるという決議(Resolt concerning social provision in the peace settlment)を採択した。第二九回総会(一九四六年九月一九日~一〇月九日 モントリオール)は、右の決議に表明された希望を実現する最良の方法はフィラデルフィア宣言をILO憲章に織りこむことであると認め、ILOの設置は前文のほかにフィラデルフィア宣言に掲げた目標を達成するためであると改めると共にフィラデルフィア宣言をILO憲章の附属書とする憲章改正文書を採択した。フィラデルフィア宣言は、このようにILO憲章に織りこまれることによって憲章の規定たる効力を与えられることとなった。」(同書、三四ページ)
「フィラデルフィア宣言」は、第一項で、国際労働機関の根本原則を再確認する四原則をあげている。
⒜労働は、商品ではない。
⒝表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない。
⒞一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。
⒟欠乏に対する戦は、各国内における不屈の勇気をもって、且つ、労働者及び使用者の代表者が、政府の代表者と同等の地位において、一般の福祉を増進するために自由な討議及び民主的な決定にともに参加する継続的且つ協調的な国際的努力によって、遂行することを要する。
さらに第三項では、「完全雇用及び生活水準の向上」はじめ十項目をあげ、これを達成するための計画を世界の諸国で促進することをILOの「厳粛な義務」としている。
総会は、次のことを達成するための計画を世界の諸国間において促進する国際労働機関の厳粛な義務を承認する。
⒜完全雇用及び生活水準の向上
⒟熟練及び技能を最大限度に提供する満足を得ることができ、且つ、一般の福祉に最大の貢献をすることができる職業への労働者の雇用
⒞この目的を達成する手段として、及びすべての関係者に対する充分な保障の下に、訓練のための便宜並びに雇用及び定住を目的とする移民を含む労働者の移動のための便宜を供与すること。
⒟賃金及び所得並びに労働時間及び他の労働条件に関する政策ですべての者に進歩の成果の公正な分配を保障し、且つ、最低生活賃金による保護を必要とするすべての被用者にこの賃金を保障することを意図するもの
⒠団体交渉権の実効的な承認、生産能率の不断の改善に関する経営と労働の協力並びに社会的及び経済的措置の準備及び適用に関する労働者と使用者の協力
⒡基本収入を与えて保護する必要のあるすべての者にこの収入を与えるように社会保障措置を拡張し、且つ、広はんな医療給付を拡張すること。
⒢すべての職業における労働者の生命及び健康の充分な保護
⒣児童の福祉及び母性の保護のための措置
⒤充分な栄養、住居並びにレクリエーション及び文化施設の提供
⒥教育及び職業における機会均等の保障
いずれも、今日生きている課題である。フィラデルフィア宣言がしめす連合国とILOの戦後構想は、完全雇用と福祉増進を軸にした福祉国家である。ポツダム言言の受諾にともなって制定された日本国憲法もこの流れにそったものである。いま吹き荒れているリストラの名の解雇の嵐と福祉の後退は、ILOに復帰し、日本も認めるILO宣言に完全に逆行するものであるが、そのことについてはあとでもう一度ふれることにする。
国際連合のもとで
第二次世界大戦後国際連盟は解体し、一九四五年十月二十四日、国際連合が創設されたのにともない、ILOは国連と協定を結んで、国連の専門機関として活動することになった。国際連合憲章は、前文で、「基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権」「一層大きな自由の中で社会進歩と生活水準の向上」「すべての人民の経済的及び社会的発達」をうたっている。 そして第九章に「経済的及び社会的国際協力」を設け、つぎのようにのべている。
第9章 経済的及び社会的国際協力
第55条 人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の平和的且つ友好的関係に必要な安定及び福祉の条件を創造するために、国際連合は、次のことを促進しなければならない。
a一層高い生活水準、完全雇用並びに経済的及び社会的の進歩及び発展の条件
b経済的、社会的及び保健的国際問題と関係国際問題の解決並びに文化的及び教育的国際協力
c人種、性、言語又は宗教による差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守
第60条 この章に掲げるこの機構の任務を果たす責任は、総会及び、総会の権威の下に、経済社会理事会に課せられる。理事会は、このために第10章に掲げる権限を有する。
国連憲章は、国際連盟憲章と同様、国際の平和と安全、「永続する平和」の基礎として経済的、社会的進歩を考えたのである。世界人権宣言では「人類進歩のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である」(前文冒頭)と宣言されるのである。 ILOは、戦後を見通しての「フィラデルフィア宣言」で発展させた方向で活動することになるのである。 ILOの戦後の条約、勧告をみても、「結社の自由及び団結権の保護に関する条約」(第八十七号、一九四八年)、「団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約」(第九十八号、一九四九年)、「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する勧告」(第九〇号、一九五一年)、「強制労働の廃止に関する条約」(第百五号、一九五七年)などをはじめ、今日にいたるまで労働者階級に役立つ多くの条約、勧告を採択している。そして日本国憲法が、「国民の権利及び義務」について先駆的な規定をおこなったことについては、先にのべたところである。それにしても、一九一九年-つまり八十三年まえ、二つの帝国主義ブロックの双方からの帝国主義戦争であった第一次大戦の講和会議=パリ講和会議で、どうして以上みたような労働条件に関する条約が生みだされるにいたったのであろうか。結論を先にいえば、労働者階級の歴史的なたたかいの成果の到達点としての産物である。 (引用ここまで)