
薬罐の水が沸くまで間、二つに折った座布團を枕にして、軽く目をつむる。
誰かが私に、ちっとも締まらない帯で衣裳を着せやうとしてゐる。
とても古典物向きではない鬘をもって来て、今は亡き脇役の名を出してその人の指導によるものですと、私の頭にのせる床山(鬘師)がゐる。
遠い昔に同じ釜の飯を食ったと云ふだけの出世魚が、なにかブツブツ言ひながら御手洗へと入って行く。
間もなく出番だと云ふのに、段取りも呑み込めてゐなければ、聲も出ないでゐる。
誰かが向ふで、「そんな踊りはないよ」と抗議してゐる。
薬罐の笛が鳴って、目が覺める。
とんだ一炊の夢。
沸いたお湯でつくったラーメンは、
もちろんおいしかった。
當り前だ。
つくったのは私だ。