救急病院に行った。
待合室で、となりに巨躯の男性がやってきて、
そわそわしていた。
看護師さんが「今日はどうなさいました?」
と聞きに来ると、
男性はこう話し始めた。
「医学部に行きたかったんですけど…」
私は「え?」と思った。
話をそこから始めるのか?
男性と看護師さんは知り合いなのか?
男性、続ける。
医者か看護師になりたかったけどお金がなくて、
ダメだと思えば思うほど息が苦しくなって、
さらに80歳をこえた両親が公団住宅から出ていかねばならなくなり、
それをどうしようかと思うと、また胸が苦しくなり、
自分はノイローゼになっている。
薬を処方してほしい。
…と、一気にまくし立てた。
男性と看護師は知り合い、というわけではないらしい。
看護師さんは「看護師なら、働きながらでも資格をとれるわよ」などと
相槌を打ちながら、男性を診察場所へといざなって行った。
男性を見て、私はかつて友人から言われた言葉を思い出していた。
「五体満足なのに何もできない、という人が、いちばん辛いんじゃないかな」
私は、ともすれば「覚悟さえ決めれば何でもできる」と言いがちな自分を反省した。