Kinema DENBEY since January 1. 2007

☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

終戦のエンペラー

2013年08月03日 13時42分23秒 | 洋画2012年

 ◇終戦のエンペラー(2012年 アメリカ 107分)

 原題 EMPEROR

 staff 監督/ピーター・ウェーバー 脚本/デイヴィッド・クラス ヴェラ・ブラジ

     原案/芥川保志

     原作/岡本嗣郎『陛下をお救いなさいまし 河井道とボナー・フェラーズ』

     製作/奈良橋陽子 ゲイリー・フォスター 野村祐人 ラス・クラスノフ

     キャスティング/奈良橋陽子 ジェーン・ジェンキンス

     撮影/スチュアート・ドライバーグ 美術/グラント・メイジャー

     衣裳デザイン/ナイラ・ディクソン

     音楽/アレックス・ヘッフェス 音楽監修/デイヴ・ジョーダン

 cast マシュー・フォックス トミー・リー・ジョーンズ 羽田昌義 片岡孝太郎

     西田敏行 伊武雅刀 夏八木勲 中村雅俊 火野正平 桃井かおり

 

  ◇1945年8月30日、マッカーサー到着

 バターン号の飛んでるのがやけに高速な感じだったけど、

 ま、それはいいとして。

 兵たちがマッカーサーの車に背を向けたのは、

 歓迎の印でもなければ、そっぽを向いた心の抵抗というわけでもない。

 陸軍の合理的な指導によるもので、

 マッカーサーを暴徒から守らなければ終戦の調印に支障が出るためだ。

 それと、

 木戸幸一が「陛下のお命までも狙われたのです」というような証言をするけど、

 これについては明らかな間違いで、

 昭和20年8月14日から15日未明にかけての宮城事件についていえば、

 陸軍の狂奔的な一部幕僚が、近衛歩兵第二連隊の兵を煽動して、

 宮城を占領したかれらの目的は、

 連合国側が国体護持を確約しないかぎり徹底抗戦するよう、

 帝国陸海軍に呼びかけたもので、

 その際、玉音放送を録音したレコードの捜索が焦点となった。

 だから、日本軍の兵士が昭和天皇のお命を狙うなどということはありえない。

 また、ボナー・フェラーズが近衛文麿のもとを訪ねた際、

 たぶん、荻外荘だとおもうんだけど、

 まあ、池泉式の書院めいたロケ・セットはいいとして、

「靴を履いたままどうぞ」なんてことをいってから、

 座卓で面談するようなこともありえない。

 荻外荘には格式高い洋間があり、文麿ならばそこへ案内するだろう。

 さらにいえば、親日家で知られるフェラーズの面識のある女性は、

 女子英学塾から留学してきた渡辺ゆりで、関係の深さは伺いしれないけど、

 彼女をとおしてフェラーズは小泉八雲を知り、その文学に傾倒したらしい。

 そういうことからいえば、フェラーズの対日観はすでに育まれていて、

 決して付け焼刃のものではなかったし、色恋によって来日したわけでもない。

 こうした映画に色恋を入れることはある意味効果的な演出かもしれないけど、

 本来いうべきこととは相容れないような印象があって、余分なことにも感じる。

 フェラーズにおける日本文化の認識と、

 天皇制の維持や昭和天皇の戦犯不訴追については、

 同一線上で語りにくいけど、

 もうすこし掘り下げたものにしないと、映画の根本姿勢が甘くなる。

 情緒に流されたことで昭和天皇の戦犯不訴追をしたようにも見え、

 どうにも納得し難い。

 原作に河合道という名前があるんだから、

 たぶん、原作はそのあたりのことがしっかりと描かれているんだろう。

 活字嫌いのぼくは原作を読んでないからなんともいえないけどね。

 まあ、原作うんぬんはさておき、

 マッカーサーの大統領への固執と、日本の占領政策については、

 もうすこりリアリズムが欲しいところだし、

 そもそも真珠湾の攻撃について昭和天皇が命令したことではない。

 大本営と皇室との関係について明確にしないかぎり、映画の主題は成り立たない。

 てなことをいったところで、まあ、仕方ないからもうやめよう。

 映画というのは、監督の心の中の世界を表現するものだから、

 実際の歴史を持ちだして、ああだらこうだらいうもんじゃないからね。

 で、作品について、だ。

 衝撃の真実とかうたってるけど、これ、なんのことをいってるんだろ?

 残念ながら、ぼくの感度は鈍いらしく、

 なにが衝撃の真実なのか、わかんなかった。

 だから、内容についてはこれといった感想はない。

 聞けば、実際の皇居敷地内での撮影は初めてらしいんだけど、

 ちょっぴり、へ~っとおもった。

 これまでの邦画で、撮ったことないんだろうか?

 絵作りはさすがにピーター・ウェーバーで、

『真珠の耳飾りの少女』のような絵画に迫ろうとしたわけではないにせよ、

 落ち着いた色調には好感が持てた。

 ことに皇居、御殿内の絵作りはなかなか撮れるものじゃないよね。

 美術も、たいしたものだ。

 ニュージーランドでロケのあらかたは行われたらしいんだけど、

 そこにオープンセットも建てられたのかな?

 ともかく、オープンとCGの組み合わせも実にうまくまとまっていた。

 ただ、看板の会社名が左から右へ書かれていたのが見受けられたけど、

 戦前に掲げられたものだろうから、やっぱり右から左へ書いてほしかった。

 ただし、

 フェラーズの恋人役を演じた初音映莉子に関していえば、

 もう半年、

 映画的にナチュラルな演技の勉強をしてから、撮影に臨むべきだったかな。

 ちょっと言葉がきついね。

 ごめん。

コメント