◇トゥ・ザ・ワンダー(2012年 アメリカ 112分)
原題 To the Wonder
staff 監督・脚本/テレンス・マリック
撮影/エマニュエル・ルベツキ 美術/ジャック・フィスク
衣裳デザイン/ジャクリーン・ウェスト 音楽/ハナン・タウンゼント
編集/A・J・エドワーズ キース・フレイジー シェーン・ヘイゼン
クリストファー・ロルダン マーク・ヨシカワ
cast ベン・アフレック オルガ・キュリレンコ レイチェル・マクアダムス ハビエル・バルデム
◇純粋なまでに映画的な映画
というべきなのか、
それとも詩的な映像表現というべきなのか、
映像で表現された恋という題名の詩歌というべきなのか、
ともかく、ありきたりの映画でないことはたしかだ。
ぼくの贔屓のレイチェル・ワイズの出番が削られているのは気に入らないけど、
まあ、それについては監督の認めたことだから仕方ない。
そう、カット。
この映画が非常に特徴的なのは、徹底した編集にある。
なんたって、5人も編集の担当者がいるんだよ。
普通じゃ考えられないでしょ?
相当、テレンス・マリックも含めて、編集は揉めたんだろね~。
ちなみに『To the Wonder』の「Wonder」ってなんだろ?
これは、フランスの北岸にあるモン・サン=ミッシェルのことじゃないのかな?
世界遺産にもなってるMont Saint-Michelは「西洋の驚異」といわれる。
驚異すなわちWonderだ。
てことは、ファーストシーンの「モン・サン=ミッシェルまで」っていう章題になるわけで、
もしかしたら、全編を通したタイトルは存在してないんじゃないかっておもうくらいだ。
ていうか、マリックにとってタイトルなんて、もはや必要ないのかもしれないね。
いや、そもそも、この映画においては、
単純なカット割りや会話すら必要のないものだったのかもしれない。
だから、あらすじはいたって単純だ。
小説家志望のアメリカの青年がフランスへ行き、パリで女に知り合う。
女は夫と別れ、娘とふたりだけで暮らしているが、ヨーロッパには恋の魔力がある。
ことにパリやモン・サン=ミッシェルには恋の悪魔が棲んでるらしく、
男は、女とその娘をつれてアメリカへ戻り、同棲を始める。
しかし、魔力のない土地では恋は長続きしない。
それどころか、同棲したままアメリカのど田舎に棲むのはかなりめんどくさい。
娘としては、男と母親が結婚してくれればアメリカに永住できるんだけど、
男はどうしても踏み切れない。
で、滞在ビザの期限切れとともに母と娘はフランスに戻り、
男は、再会した昔の同級生と焼けぼっ杭に火がつくんだけど、これも長続きしない。
一方、女は元夫の要請で娘を手放さなくちゃいけないことになり、傷心暮らしに入ってる。
これを知った男は、自分と結婚すればいいと女をまたアメリカへ呼び寄せる。
こうして結婚した男と女だったけど、早くも倦怠期となり、
自分の信仰に疑問をもっている神父に懺悔したりしても得られるものはなにもなく、
そうこうする内に、女は地元の風采の上がらない男と一度きりの浮気をしてしまう。
女はこの浮気を正直に告白するんだけど、当然ながら、男は怒る。
むろん、理屈では女の心はわかっているし、一度は許す姿勢も取るんだけど、
浮気したとかしないとかではない次元で、ふたりの絆は切れてしまう。
で、女はやっぱりフランスへ帰るしかなくなり、男の離婚して旅立ってしまう。
男と女の心に残るものは、もはや、モン・サン=ミッシェルしかない。
てな感じに話は展開するんだけど、
ほとんどが自然照明のドキュメンタリータッチのせいか、
かなりの部分、登場人物の後ろから撮っていて、表情がつかめない以上に、
登場人物の心の中に入り込んでいくのがなかなか厄介だ。
それにくわえて、各シーンは、印象的なカットだけがぶつ切れに繋げられ、
そこへモノローグが加わるものだから、
観客がドラマの画面を観ているというより、心をそのまま映像にしたような、
たどたどしくも悶えているような、ときに恍惚とした画面を見せられることになる。
難解というんじゃない。
これといって物語は判りにくくはないし、登場人物の心の襞もよくわかる。
ただ、映画の中に入り込むのがちょっと面倒なだけだ。
そういうことからいえば、
一般的な映画を望んでいる観客にはすこしばかり辛いかもしれないけど、
観終わって、街中をぶらぶら歩き始めたときに、
ふしぎなことが起こる。
映画というのはいつもそういうものなのかもしれないけど、
各シーンの映像が断片的に脳裏に蘇ってくること、ない?
あるよね。
それと同じように、ぶつ切れだった映像が断片的に蘇り、
観ていたときよりも、映像が繋がり、
各シーンが頭の中で綺麗に繋がって再生されるんだ。
「まさか、テレンス・マリックはこんなことまで予測して映画を撮ったんだろか?」
とおもったとき、愕然とした。
天才は、やっぱり、凄い。