海岸の帰りにナンタルで降りて、翠は準夜勤のために病院へゆく。潮騒の臭いが残ってるだろう。きっと入院患者達には、新鮮な空気かもしれない。それが早く治りたいという意識につながれば、最良の治療薬だ。
翠を見送って、坂道を降りてゆく。
海岸の眩しい光を感じた眼はは、このまま薄暗い家に行くことを拒否している。
もう少し歩いてみようか。
入船交差点から坂道を上がってツカモッチャン家の前を通ったら、小春が洗濯物を取り込んでいた。
青い空にたなびく洗濯物が夏の風物だな。
小春「あら、おじさん、一寸待っててね」
そういって物干し場から洗濯を抱えて降りてきた。
小春「海の臭いがする。アラ翠さんとやってたのね!?」
「そんな当て推量で言われてもねぇー」
小春「あら そうかしらん!!」
そういわれて、思わず股間をみて大丈夫。
小春「やっぱ、海岸で青姦だよねぇーー」
「そう決めつけなくても・・・・」
小春「だって、私が言ったら思わず股間を見たじゃない!」
「誘導尋問の旨い奴だな。そんなの、どこで覚えたんだい」
小春「美希姉ちゃん!」
「やっぱ、あいつか・・・」
小春「夕飯の支度をするからスーパーへ買い出しにゆくの。一緒にゆこうよ。おじさんも夕飯の支度がいるのではないの?」
「うん、そういえば翠の夜食がいるかもな・・・」
そういって小春と並んで買い出しに出かけた。
並ぶほどに小春の身長がグングン伸びてくるのがわかる。
住まいの大きな樹木から闇の鳴き声が一斉に聞こえる。
ツクツクホウシかニイニイゼミだろう。
蝉も求愛行動をしているんだ。
蝉時雨か。
・・・
小樽の夏の夕方だ。