コタツ評論

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カーネーション

2011-11-19 22:34:00 | ノンジャンル


NHK朝の連ドラ「カーネーション」が好調だ。昭和初期の大阪岸和田を舞台に、貧乏なというほどではないが、傾いた呉服店の長女が洋裁店を開いて成功するまでの奮闘記。親子兄弟、近所の人々が助け合い支え合う様子に、女の出世と自立をからませ、日本人が大好きなおなじみの筋立て。しかし、お茶の間はとっくに払底しているはず。みんなどんな風に、このお茶の間ドラマを観ているのだろうか。

俳優陣が好演している。まず、小原糸子役の尾野真千子。私のとっては初お目見えだが、どこにこんな巧い娘がいたのか。お母さん役の麻生祐未も新境地。ライバルの栗山千明も美しい。十朱幸代がお婆さん役をするようになったかと感慨。宝田明もよい味だ。しかし、もっともすばらしい演技を見せているのは、正司照枝おばあちゃんである。きっと、これから正司照枝にキャスティングが相次ぐだろう。

残念ながら、娘にも嫁にも、母親にも食われているのが、小林薫だ。戦前の男が似合うショーユ顔から起用されたのだろうが、大阪の男の軽味や父の哀しみ、そこから漂う男の色気を少しも感じさせず、ただのバカ親父になってしまっている。CMばかり出ているから、こんな体たらくになる。おかげで、理不尽な父に反発しながら愛している糸子の説得力を減じさせている。これで正司照枝が出演していなかったら、ただの「お茶の間コント」である。

唐十郎の状況劇場に属していた頃から、人気では根津甚八にはるかに及ばなかったが、この父親役を根津甚八に演らしたらと考えてみると、あの華のある笑顔が浮かんだ。病気らしいが、ライバルだった根津甚八が元気なら、小林薫もこうまで無様な姿は晒さなかったのではないか、と二人の俳優を惜しむ気持ちになった。

(敬称略)