ブラウンケーキの堅いパイ生地に
上品な造りだがへなちょこナイフで挑むように
掘り始めの砕石混じりの堅い地面には
スコップはなかなか歯が立たなかった
ツルハシがあればと思いながら辛抱強く削った
徐々に柔らかく温かな黒い土層に変わり
やがて柄の部分まで深く入るようになった
アップルパイを切り分けるように
慎重に土塊を凹部に載せて運び上げると
スコップに残り付いた土を剥ぎ落とすために
刃先を横にして何回か地面を叩く
そのリズムがクレッシェンドになり
時おり拳大の石に当たり中断すると
またアダージョからはじまる
ひとつのメロディが頭の中でリフレインしていた
二時間ほどで俺の棺桶は腰上まではかどった
長方体の内角をスコップの先で整えながら
あたふたと逃げ走る大小様々な虫を眼で追った
真新しかったスコップは土と俺の汗でまだら模様になり
光り輝いていたエナメルのスリップオンには
醜い横皺が重なっていた
「それ、こっちへ寄こせよ」
地上の男がちぎれ落ちた俺の銀のカフスを指さした
「安物だぜ」
男の合成皮革の靴も乾いた土で白く汚れていた
見上げた俺に夕日を背負ったシルエットがかぶさり
俺は俺の死神に笑いかけた
「そろそろかな」
俺たちの声が重なった
(6/25/02)
上品な造りだがへなちょこナイフで挑むように
掘り始めの砕石混じりの堅い地面には
スコップはなかなか歯が立たなかった
ツルハシがあればと思いながら辛抱強く削った
徐々に柔らかく温かな黒い土層に変わり
やがて柄の部分まで深く入るようになった
アップルパイを切り分けるように
慎重に土塊を凹部に載せて運び上げると
スコップに残り付いた土を剥ぎ落とすために
刃先を横にして何回か地面を叩く
そのリズムがクレッシェンドになり
時おり拳大の石に当たり中断すると
またアダージョからはじまる
ひとつのメロディが頭の中でリフレインしていた
二時間ほどで俺の棺桶は腰上まではかどった
長方体の内角をスコップの先で整えながら
あたふたと逃げ走る大小様々な虫を眼で追った
真新しかったスコップは土と俺の汗でまだら模様になり
光り輝いていたエナメルのスリップオンには
醜い横皺が重なっていた
「それ、こっちへ寄こせよ」
地上の男がちぎれ落ちた俺の銀のカフスを指さした
「安物だぜ」
男の合成皮革の靴も乾いた土で白く汚れていた
見上げた俺に夕日を背負ったシルエットがかぶさり
俺は俺の死神に笑いかけた
「そろそろかな」
俺たちの声が重なった
(6/25/02)
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