「彼女が泣きそうなときは、私もグッとくる」をポスターの宣伝惹句に使ってもいい。
タイトルはズバリ「ライバル」。意表をついて、キム・ヨナが主、マオは従。太陽のようなマオを周回する、冷たく輝く月のようなヨナのドラマ。
キム・ヨナである前に、大韓国民の代表であることを宿命づけられ、勝ち続けることだけを期待され、そのために最高難度のトリプルアクセルへの挑戦を禁じられた少女スケーターの悲劇。
W杯もオリンピックも征しながら、挑戦し続けるフィギアスケーターとしての理想と栄光はいつもマオに寄せられ、それを横目に007のテーマ曲でお色気演技を強いられるヨナ。
つねに倒すべき敵の筆頭であるマオは、苦しく厳しい練習をたがいに知るライバルであり、ともに絶賛と中傷を繰り返すメディアと国民感情に苦しめられる戦友でもある。
私は、キム・ヨナ、もうたくさん、と一度は引退してみたものの、結局は、最後の闘いに招集される。そして、ともに引退を前提とした最後の戦場、ソチ五輪へ。
過熱する報道、憶測飛びかう舞台裏。台頭する次世代の強敵たち。しかし、ショートプログラムの場で、ヨナはけっして自分が勝てないことを知った。マオは? 彼女は闘い続ける!ところが、なんと無残な16位! 青ざめた顔、震える肩、噛みしめる唇。光は輝きは消えた。
「どうしたの、マオ!」「私のライバルじゃなかったの?」「マオはもう気にしなくていい」「彼女はもうおしまいだよ」「日本にはもう切り札はない」「マオなどいてもいなくても、ナンバー1はヨナ、君だよ」
周囲の声はヨナを凍りつかせた。「マオを貶めるなんて、あなたたちは何もわかっていない。マオこそわたしの目標だった!」ジュニア時代から競い、トリプルアクセルとトリプルルッツと技は違えど、ともに相手の強さと自らの弱さと闘ってきた。Maoを否定することは、私の10年の競技生活そのものを否定すること。消えかけたヨナの闘志に火がともされた。
一度は投げかけたフリーに挑む決意を新たにするヨナ。しかし、その完璧な演技は、審判に減点される。冷笑を浮かべるヨナ。観客の拍手とブーイング。激高するコーチやスケート団体役員。そして、マオが静かにリンクへ滑り出した。目も覚めるようなブルーの衣装。ENDマーク。
最後のタイトルロールでマオのショートとフリープログラムのパフォーマンスが流れ、2人の過去にさかのぼる映像や写真のカットバック。ヨナとマオの微笑。この映画企画、5万円で売ります。日韓合作は無理だろうが、ヨナ役は韓国でオーデション。取材とスケート演技の習得に、最低、1年はかかるだろう。
お断り:この映画は実在の人物や出来事に基づきますが、あくまでもフィクションです。
(敬称略)
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