ドラマのとびら

即興の劇や身体表現で学ぶ、教える、浮き沈みの日々とその後

中学のドラマ科授業

2008-02-26 11:38:37 | 日記・エッセイ・コラム

2月23日、大阪教育大学附属池田中学校の公開授業。

ドラマの授業(10:20-11:10)担当は田中龍三先生(大阪教育大学教授)。三年生の選択科目。受講生は男子7人、女子3人。部屋はざっと見て7間×7.5間の広々としたジュータンの部屋。ドラマの授業にはぴったり。

授業前、私の横に立っていた若い男性の先生がとブツブツと怒っていました。「信じられん!」「何やっとンにゃ」と。どうやら男子生徒が5人、真ん中でゲームなどに興じているのが気に入らない様子。あるいは、制服の上着を着ていなかったり、ブレスレットをしている男生徒のことを怒っていたのでしょうか。私から見ると、ドラマに入るにはとてもいい雰囲気に思えましたが。

チャイムと同時に授業開始。

1.見る。メッセージを送りながら見る

「みなさん、始めましょう。まずウォーミングアップをしましょう」。生徒は先生を囲んで半円形に椅子に座りました。 
「私にメンチ切ってください」のことばに、笑いながら先生を注目する生徒たち。
「ただ見るのでなく私に何かを語りかけてください」と言いながら先生はひとりひとりを見ます。
一気に集中力が高まります。
「今度は私がひとりひとりにメッセージを送ります」こう言いながら先生は表情を変えながら無言でメッセージを送っていきました。

「ただ見るのとメッセージを送るのと、何か違いはありましたか?」の問いに「顔全体の筋肉が動いていた」と生徒が応えました。沖縄の子なら、「何か感じた」とか「こういう意味に感じた」とか言いそう。応答の違いに文化の違いを感じました。

2.音楽の4拍目に表情をつくる

次に音楽をかけ、4拍子の曲の4拍目に瞬間的に表情をつくる練習。思いきり顔の筋肉を動かす練習のようですが、最初はなかなか筋肉が動かない。先生も表情をつくってお手本を示します。だんだん生徒も筋肉が動くようになってきたよう。先生の表情があまり面白いので笑ってしまう生徒も。羞恥心の塊のような中学生という年代で、周りを大勢の大人に囲まれながらやりにくかったことでしょう。でも、やろうとしているのは良く分かりました。

3.表現と表出の違いの説明

「表現は相手に伝えようとすることです。例えば、バカップルがいたとして、男が女の足を踏んだとしましょう。この時思わず『イタッ!』は表出、『ウ~ン、イタ~イ~』は表現」。なるほど相手に痛いというだけでなく自分の甘えを伝えようとしている。

4.トランペットかフルートか

次は二人一組で、立場の違いを経験するワーク。

ラーメン屋さんのチャルメラが壊れた。トランペットとフルートがある。チャルメラの変わりにどちらを使うのが良いか。トランペットとフルートに分かれて相手を説得します。しばらくすると役割交代。私の前でやっていたペアは、一人が自分のほう(トラペットのときもフルートのときも)の良さを言うと、もう片方がそれを他の理由をつけて否定するというパターンで進んでいました。
男女一人ずつが選ばれてみんなの前でやってみます。どちらの場合も女子の言い分を男子が納得して終ってしまいました。男の子は優しい!

「聞いていて、相手に伝えようとするとき、音色や大きさとかの『形』と、優しい、おいしそうなどの『感じ』があることが分かりますね」

5.キャラクターを表現する:ヒッチハイカー

ここで椅子4脚を車のシートのように並べ、国産車ということでハンドルを右に取り付け、にわか自家用車のできあがり。4人が座って会話をする。ヒッチハイカーが手を挙げると車が止まり、運転手が抜け、運転手後ろにヒッチハイカーが入り、他の人は全員座席を換わって、ヒッチハイカーから新たな会話が始まります。
この時、ヒッチハイカーは明確なキャラクターを持ち込むこと。他の乗員は持ち込まれたキャラクターを察して、同じキャラクターになって会話を継続します。例えば、ヒッチハイカーが自慢したがりだったら、全員が自慢したがりになります。

全員が一巡して、「キャラクターで反応するというより、話題にあわせてしまいますね」「次はもっとキャラクターを変えてみましょう」

ここまでで約30分経過。

6.「誤解」というテーマでスキットを演じる

今日のメインワークです。自分とは異なるキャラクターを創造して演じます。このスキットを演じるために前の時間から準備されていました。それぞれがワークシートにどんなキャラクターを演じるか。それが自分とはどう違うキャラクターなのかを書いていました。それぞれペアで練習もしたようでした。
最後の詰めを何分か話し合い、ペアによっては練習もしています。先生が回ってアドバイスをしています。

時間の関係で上演は5ペアのうち3ペアでした。一組の上演が終るたびに、「自分と違うキャラクターを演じてみてどうだった」と先生が聞きます。「偉い人と思うと、行動に余裕が出ると感じた」「邪魔くさがらないで自分から行動するといい方向になると思った」「外へ出て行くと新しい発見がある」「外国人をやってみて、文化の違いが分かってよかった」「広い世界を見たような気がする」「優しさが足りないかも」などの感想が語られていました。

「自分とは異なるキャラクターを体験してみる」というテーマに向けて、とても良く組まれたプログラムでした。

10月からの授業で、行事との関係で1月末まで、月1回ほど。2月に入ってから4回目の授業とのことでした。で、つくづく感じたのは、中学生という難しい年代を相手にするときに、先生の器の大きさが大きくものを言うということ。同じことをやっても、人が変わればこうはうまくはいかないでしょう。でも、ここまでうまくいかなくても、やる意味はあると思います。

中学生のドラマ授業を公開にするのは難しいことです。この授業だからできたという気がします。こんなチャンスにめぐり合えて良かった。

隣で怒っていた先生に感想を聞いてみたかったのですが、他に気をとられているうちに姿が見えなくなっていました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする