市内中心部発、夜のバスレーンくねくね路線… 車内に甘ったるい香りが漂ってきた。私は「助手席か背後席に座った女性のどちらかだな」と思った。個人的に“あまり好ましくない香り”だったので、ちょっとだけ気分が悪くなり… たまらず換気扇を弱く回して、運転席の窓を少し開けた。
途中のバス停で助手席の女性が降り、背後席の女性も降りたのだが… まだ香りは漂っていた。私は「なかなか消えない香りだなぁ~、まさか香水を座席にこぼしたなんてことはないだろうなぁ~」と思っていた。
終点まであと少しのバス停で、一人の魅力的な女性が「ありがとう」と笑顔で言いながら降りた。私は「あっ… この女性は… 以前にも乗せたことがあるような… きっと、いつもこんな感じで運転士たちを癒してくれているのだろう」と思った。
終点の某バスターミナルに到着して、次々と降りてゆく乗客たち… すると、あの甘ったるい香りが後方から急接近してきたのであった。私は「香りの主は、あの女性たちではなかったのか! しかも、そんな後方から漂わせていたとは! どんな女…」と思って顔を見たら、若い男だった…
食事休憩のためにバスを待機場所へ移動させた私は、香水男の姿を頭から消し去るかのように、先程の女性の「ありがとう」を思い出し… 帽子を脱いで、マイクを外して、カバンにしまって… 「ん? 何やってんだ!? まだ仕事は終わりじゃないし!」と気付いた私であった…