小走りに こぬか雨降る 近隣に 回覧板の 投函の音
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醍醐
【ヨーグルトと蜂蜜の食の道】
蘇
昨日のつづきで、『食の道』というテーマで、
それぞれの歴史(物語として)を網羅したいと
思った。どれほど続くか分からぬがヨーグルト
と蜂蜜を手はじめに試行してみる。ヨーグルト
は紀元前五、六千年頃。東地中海で家畜として
飼われていた牛や羊の乳を食料に用い始めたと
き、偶然に乳酸菌が自然発酵して、ヨーグルト
が誕生したとされている。その後、シルクロー
ドを経由し中央アジアや内陸の遊牧民族にも伝
えられ、それぞれの地域や気候風土に合った乳
製品が作り出されたという。
Ilya Ilyich Mechnikov
世界中に広がったのは、20世紀初頭にロシアの
生理学者であるメチニコフが唱えた「ヨーグル
ト不老長寿説」からで、長寿で有名だったブル
ガリア人がヨーグルトを常食していることから、
ヨーグルトこそ長寿の秘訣ではないかと考えた。
日本国内で最初に乳加工の技術が導入されたの
は、6世紀半ば。中国人から、牛乳の飲用や加
工技術が伝えられ、8世紀になり平城京が都と
なってからは、「酪」「酥」「醍醐」が宮廷に
納められるものとして製造された。中でも「酪」
は牛乳を攪拌しながら煮詰め、古い酪を少し加
えて発酵させたもので、現在のヨーグルトに似
た乳製品だったと考えられているが、平安朝の
没落とともに「酪」も衰退する。
酪様
それから五百年あまり経て、徳川吉宗が「白牛
酪」を作らせ、再び「酪」が復活する。明治時代
になってから、乳製品の業者が売店で販売する
ようになり、徐々に庶民の口にも入るようにな
る。乳酸菌は腸内で棲息するが、ヨーグルトの
乳酸菌は腸内定着できない。ただ、その代謝な
どが腸内のウェルシュ菌などを減少させ在来乳
酸菌を増殖させるという整腸作用とアレルギー
の発症を抑える効果が期待されている。科学的
根拠がある特定保健用食品(トクホ)は食品の
機能の表示が認可されている。認可された食品
はヨーグルトとして乳酸菌を含んでおり、食品
の摂取によって便秘や下痢の改善、善玉菌に分
類される菌が増殖し有機酸が増え、悪玉菌が減
少しアンモニアが減り腸内環境が改善するとい
う。
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Aristaios
さて、蜂蜜の歴史はどうだろう。ギリシャ神話
によれば、人間に養蜂を教えたのはアリスタイ
オスである。蜂蜜と人類の関わりは古く、スペ
インのアラニア洞窟で発見された約1万年前の
壁画に蜂の巣から蜜を取る女性の姿が描かれ、
メソポタミア文明の象形文字にも蜂蜜に関する
ことがらが記載され、古代エジプトの壁画に養
蜂の様子がえがかれているという。
Cueva de la Araña
蜂蜜は世界最古の甘味料ともいわれ、古代ギリ
シアの哲学者・アリストテレスは著書『動物誌』
に記述されているがミツバチが集める蜜は花の
分泌物ではなく、花の中にたまった露であると
述べている。旧約聖書ではイスラエル人の約束
の地・カナンが「乳と蜜の流れる場所」と描写
されており、ハチミツは豊饒さのシンボルとし
て扱われた。中世ヨーロッパでは照明用のロウ
ソクの原料である蜜蝋をとるために、修道院な
どで養蜂が盛んに行われた。19世紀にいたるま
では蜂蜜を得るには蜂の巣を壊してコロニーを
壊滅させ巣板を取り出すしかなかったが、1853
年、アメリカのラングストロス(L.L.Langstroth)
は、可動式巣枠を備えた養蜂箱や蜜を絞るため
の遠心分離器を発明し、蜂蜜や蜜蝋の採取時に
コロニーを崩壊させずに持続的にミツバチを飼
育する技術である近代養蜂の開発に成功した。
L.L.Langstroth
彼はこの成果を『巣とミツバチ』"The Hive and
the Honey Bee"に著し、現在に至るまで養蜂の基
本的な手法はラングストロスの方法と変化して
いない。日本における養蜂のはじまりは『大日
本農史』によれば642年とされている。平安時
代には、宮中への献上品の中に蜂蜜の記録があ
る。江戸時代には、巣箱を用いた養蜂などがは
じまったとされる。日本における古典的な養蜂
はニホンミツバチを使ったものであり、現在の
一般的なセイヨウミツバチによるそれとはやや
異なる。
ニホンミツバチ
現在も山間部ではニホンミツバチによる養蜂が
行われている地域があるが、明治時代に入り西
洋種のミツバチが輸入され、近代的な養蜂器具
が使われるようになり養蜂がさかんになる。こ
の日本でラ式巣枠と呼ばれる巣あ枠が開発され
たのは1851年である。その直後の1857年にはド
イツ人メーリング(J.Mehring)が人工巣礎を考
案した。1973年にはドイツのカール・フォン・
フリシュ博士はミツバチの”ダンス”の研究で
ノーベル賞を受賞した。
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ヒメマスと言えば、和井内貞行を直ぐさま思い
浮かべるほどだが、ヒメマス(Oncorhynchus nerka)
は、サケ目サケ科の淡水魚。ベニザケの湖沼残
留型(陸封型)。1904年(明治42年)北海道庁水
産課職員により命名された。北海道ではチップ
とも呼ばれる。貧栄養状態の10℃から15℃程度
の低温を好む。全長は20~30cmで、最大で50cm
前後まで成長する。産卵期は9月から11月。餌は
動物プランクトンのボスミナ類、ミジンコ類や
ユスリカ幼虫、ワカサギなどの小魚。日本では
北海道阿寒湖とチミケップ湖を原産として、移
植により支笏湖や中禅寺湖、十和田湖、西湖、
本栖湖などにも生息している。
近縁種でかつて田沢湖に生息していたクニマス
がいたが、クニマス Onchorhynchus nerka kawamurae
は太平洋戦争開戦前、発電所建造のため田沢湖
に強酸性の玉川の水を引き込んだ結果、絶滅し
た。ベニザケ同様に孵化後3年から4年で成熟し、
9月下旬から11月上旬にかけて湖岸や流入河川の
砂礫に産卵する。洞爺湖のヒメマス1年魚は降
海型べ二ザケと同様にスモルト化し、海水適応
能は5月に最も高まる。但し、成熟までの期間
は栄養状態により変動し、9年の例もある。魚
肉は紅色で美味。塩焼きや刺身、フライで食べ
る。また、甘露煮や燻製として加工される。『チップ』
とは北海道の通称。
養殖も盛んで、管理技術の向上で寄生虫の心配
もなく生食でも提供可能だという。天然のヒメ
マスは 赤い色素を含んだプランクトンを食べ
ることで肉色がきれいなサーモンピンクになる
のに対し、養殖ヒメマスの肉色は白く、商品に
するには問題があるので、サケ科魚類の肉色改
善に用いられている2種類の色素を投与し、肉
色(アスタキサンチンの肉色改善効果が高く、
さらにブドウ種子から抽出されたポリフェノー
ルを添加)で肉色改善効果はより高まり、およ
そ3ヶ月で天然魚とほぼ同程度の肉色にするこ
とができたという。
ヒメマスも熟鮓にできないことはないが、そこ
は高級魚としての美味さがあり乳酸醗酵させる
には抵抗がありそうだ。滋賀にはビワマスがあ
るのでなんともいえないが、水産業の大転換期
にある。未来はすでに拓かれてある。
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