極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

創造的国家財政(中)

2011年09月11日 | 政策論

 

 

 

File:US Federal Outlay and GDP linear graph.png

【復興と成長の予算組み替え】 

オバマ米大統領は8日、上下両院合同会議で演説し、今後3年で4470億ド
ル(約35兆円)規模の雇用対策を提案した。対策は減税と労働者および企
業向け減税を柱とし、オバマ大統領は共和、民主両党の議員に対し、この
措置を成立させるため「ただちに」行動するよう求めた。なお、演説の中
で教育や貿易問題を取り上げながら韓国について3回も言及しているが、
これは米国政府の教育従事者数を減らす政策によって、学生らが質の高い
教育を受けられずにいると指摘し、「韓国では教師を増やしているのに、
我々は解雇している」と伝えた。また自由貿易協定に対する議会の早急な
批准を促し、韓国などとの自由貿易協定を通じた雇用創出の効果を強調。
オバマ大統領は「米国人が現代自動車に乗るならば、韓国でもフォードや
シボレー、クライスラーなどを見たい」と述べたが、これは20年前の日米
関係を再現しているかのようにもみえる。

  File:U.S. Federal Spending - FY 2007.png

 

 
ところで、米国予算約280兆円(\80/$)のうち20%の56兆円が軍事費に支
出されているが、これを3年で割ると約19兆円であり、こんかいのオバマ
大統領の雇用景気対策案は年間に換算約12兆円で予算の約 4.3%にあたり
これを景気対策に回せば新たに国債発行しなくて済むが、それはできない
のだろうか。下図の予算に占めるパーセテイジを見る限りそれは可能だろ
うが、対GDP比は 横ばい傾向にあるが、オバマが軍事ケインズ主義経済→
福祉ケインズ主義経済への転換を意識しているのであれば、逓減的な軌跡
を示すであろう。それを阻むものがあるとすれば、レイモンド・カーヴァ
ーの『ハンター』(「ペーパー・ソーラの出現」)ではないが“二丁銃の
カーボーイとコンピュータ仕掛けの禿鷹や大儀なきティーパーティー”が
それを易々と許すはずもないだろう。しかし、オバマはそこでも演説する
だろう。“公正に競い合うことは正しい。しかし、いかなる競合も結果に
責任をもたなければ未来はない”と。


 

【日本の財政危機とはなにか】

 

ところで、日本の国家財政を英米資本主義的側面からはどのように評価さ
れているのだろうか。フィナンシャルタイムズ紙は、日本はギリシャのよ
うに債務不履行にならないとして、日本の問題は依然貯蓄の過剰にあり、
日本の銀行には預金がじゃぶじゃぶしていて、投資先が必要になっている。
しばらくの間は、日本政府が国債の安定した買い手を探すことにはならな
い。日本の財政赤字問題は、お家の都合で解消されうるものだと以下のよ
うに指摘している(2010年2月8日付のフィナンシャルタイムズ紙)。

  1.債務の全体が誤解されやすい。日本国の債務は、国の保有分
    を相殺すれば、GDPの100%以下になる。
  2.日本の国債償還費は低く、GDPの約1.3%。対する米国は1.8%、
    英国は2.3%、イタリアは5.3%。
  3.日本の財政には遊びの余地がある。消費税はわずか5%にす
    ぎない。
  4.日本の債務の95%は国内で消化されている。外国人が気まぐ
    れに影響を与えることはできない。

※同じく「日本は財政危機ではない」(EJ No.3118)では「日銀、仕事を
しろよ。日銀は国債買い上げをして、その分市場に貨幣供給ができるのだ。
日本の財政状況は見た目ほどには悪 くはないのだから、もうちょっと名
目成長率を上げれば、全体の見た目も大きく改善できる」とフィナンシャ
ルタイムズの社説を紹介している。

BOJ ‘Too Little, Too Late’, Former Board Member Says 

また、米国債の格付が下げられたが、そもそも格付け機関はいい加減だと
岸博幸は『クリエイティブ国富論』(vol.151,2011月9月9日,ダイヤモンド
オンライン)で指摘している。それによると「米国のS&Pは米国債の格付け
をトリプルAから1段階引き下げましたが、その一方で、今年に入って1万4
千もの新たな証券化商品(合計360億ドル)にトリプルAを与えています。
リーマンショックの原因となった証券化商品と同じように、住宅や自動車
ローンなど様々なものが混ぜこぜになっているにもかかわらず、です。米
国では『徴税能力を担保とした債務の格付けが特段の追加収入の当てもな
い証券より低く格付けされるのは意味不明
』という批判が根強く言われて
います。また、欧米での財政危機と金融危機を受け、日本の債務は欧米よ
りも格段に多い、だから早く消費税を増税しないと日本でも国債の金利が
跳ね上がって国家破綻に追い込まれかねない、といったトーンの報道ばか
りが目立つのも、ある意味でillusionではないでしょうか。英国のエコノ
ミスト誌が9月5日付けでの2年物国債の金利を比較しています(下図参照)
が、日本は債務が世界最高水準であるにもかかわらず、国債の金利は世界
最低水準です。市場が合理的な判断をした結果がこの数字であり、なぜそ
うなるかを考えることも必要なはずです
。同時に、欧米と日本で置かれて
いる状況がだいぶ違います。欧米の経済はマクロの問題(財政赤字)とミ
クロの問題(不良債権処理とバランスシート調整)の両方を抱えています
が、日本は不良債権処理を終えており、課題はマクロの問題だけです。加
えて言えば、欧米の経済はどこもデフレになっていませんが、日本は10年
以上にも及ぶデフレから脱却できずにいます。もちろん、日本が膨大な債
務を抱え財政再建が不可欠であることは事実ですが、様々なillusionの下
で、そのためには増税が最優先と思い込んでしまうのは早計ではないでし
ょうか」と。蓋し、正論だ。

 

【増税は五番目の仕事】

デフレ脱却を叫ばれて20年が経つにもかかわらず出来ていないにもかかわ
らず、いままた復興増税が計画されている現状を見るにつけある意味“け
じめをつけなければ”という思いに駆られるのはわたしだけではないだろ
う。‘成長’するためには、まず ‘成長’の質転換が、内容が変わってい
ることが問われ、例えば、‘長寿’は社会的な‘成長’であり、いわゆる
「単なるハコモノ・スジモノ」(ハード思考)でなく「いかなるハコモノ・
スジモノ」(ソフト思考)なのか問われる‘成長’であり、それが、バリ
アフリー社会であり持続可能な社会のための‘成長’つまりは、‘生活第
一’とはなにかを熟考した上で‘高次化のための成長政策’を「マニフェ
スト」に落とし込んだはずではなかったのか。



その上で、こんかいの復興を考えるとき、高橋洋一著『日本は財政危機で
はない!』の「増税は五番目の仕事」を思い返す。すなわち、財政再建を
目指すのであれば、経済成長のための具体的な政策を提案し→財政再建へ
の順番を周知徹底した上で、一番バッターを「デフレ脱却」、二番バッタ
ーを「政府資産の圧縮」、三番バッターを「歳出削減」、四番バッターを
「制度改革」、最後の五番バッター「増税」を遂行という中川秀直元幹事
長案の出て来た経緯の場面だ(「もっとも好ましいのは、四番バッターま
でで、試合の勝敗が決まり、最後の五番バッターの出番がなくなることだ
ろう」一番バッターの「デフレ脱却」で経済が好転し、税の自然増収で増
税をしなくて済むならこれが、ベスト。次に、話題になった「埋蔵金」な
どの政府資産のなかで、使える隠し資産があれば出し、売れるものがあれ
ば売って財政の穴埋めに回す。そのうえで、歳出カットを徹底的に行う。
これまで補助金をもらっていたところがかを上げ、これならまだ増税のほ
うがましだというところまで徹底して。四番目は制度改革。地方分権を視
野に入れながら、公務員制度の改革など・・・」と高橋は付け加えている)。


  その典型例は、復興財源、即ち10兆円超となる第三次補正予算の
  財源を巡る議論です。まずは復興国債を発行して対応するけれど、
  政府はその償還財源について所得税や法人税の臨時増税で対応し
  ようとしています。そのための理屈が、「将来世代にツケを回さ
  ない」という非常にもっともらしい主張です。しかし、被災地に
  道路など新たなインフラを建設し、また住民の居住地域が高台に
  移った場合、当然ながら現世代のみならず将来世代もその便益を
  享受することになります。それなのに、なぜそのための国費の負
  担は現世代だけで賄わないといけないのでしょうか。

                岸博幸『クリエイティブ国富論』
                          ダイヤモンドオンライン 2011/9/9


「9.11」「3.11」を切り結ぶ新しい地平の模索がテレビなどで特集されて
いるが、旧態依然とした手法で乗り越えようとしても、わたし(たち)の
眼には結果は明らかに失敗に終わると確信している。



さて、「復興増税論」はひとまず終えて、つぎに「社会保障と税制の一体
改革」に話を移すことにしよう。社会保障は、憲法25条にかかわる重要案
件であることは周知のことだが、前提として社会構造変化があり、超格差
社会の進行をこのまま放置するのかしないのかの議論がいる。中国などの
新興国のように「先富主義」(小平路線)や英米流金融資本主義などの
格差放置路線を前提とするなら、いま考えている「消費税補填」で対応す
るならこれは中谷巌などがいうように、低所得者層を考慮した「戻し税補
完型消費税」を念頭に入れるのか、直間比率を見直た、つまり高度成長期
時代の所得税中心型に戻すという2つのどちらかを選択するのかの決断が
切迫する。最近は、デフレと成長率を見ながら期限付きで後者の方に傾頭
しつつあるのだが・・・。^^;

 

                          この項つづく

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