どのチャンネルか忘れたが、スタイリッシュな老眼鏡の紹介が記憶に残っていたので調べてみた。
メーカは、特産品の眼鏡枠、漆器を含む製造業、染色団地があり繊維産業も盛んで、2000年の国
勢調査までは第二次産業人口が過半数となる工業主体の都市で、21世紀に入り第三次産業への転
換が急速に進み、メガネフレームの国内シェアは96%で世界シェアでも約20%を占め、就業
者の6人に1人はメガネ産業に従事し、また、マリンバなどの打楽器製造会社の拠点にもなって
いる鯖江市の株式会社西村金属。ところで、メガネには色々な形態があり、また多種多様なデザ
イン・装飾が施されているが、機能面では長時間にわたって着用していても疲れを感じることが
ないように、チタンなどの材質が使用されて軽くなっている。また、フロント部にリムを備える
ことなく、両レンズを連結部材で直接ネジ止めし、レンズ外側にはヨロイをネジ止めした縁なし
メガネも多用されている。
上図は一般的なメガネを示しているが、このメガネはフロント部(イ)の両側にツル(ロ)、
(ロ)を折畳み出来るように取付けている。そしてフロント部(イ)は両リム(ハ)、(ハ)を
連結部材(ニ)にて連結すると共に、両リム(ハ)、(ハ)の外側にはヨロイ(ホ)、(ホ)が
ロウ付けされて構成し、該ヨロイ(ホ)、(ホ)に上記ツル(ロ)、(ロ)が蝶番(ヘ)、(ヘ)
を介して折畳み可能に連結している。そしてリム(ハ)、(ハ)にはレンズ(ト)、(ト)が嵌
っている。下図はメガネを外してツル(ロ)、(ロ)が折畳まれた場合であり、両ツル(ロ)、
(ロ)は互いに重なり合っている。そして同図から明らかなように、ツル(ロ)、(ロ)はフロ
ント部(イ)の裏側に折畳まれ、その厚さ寸法Mは比較的大きくなる。近眼用のメガネであるな
らば常に着用しているが、老眼鏡は仕事をする場合、新聞雑誌を読む場合などに着用する為に、
メガネケースに入れて常時持ち歩く。
そこでは、出来るだけコンパクトであることが必要で、フロント部の縦横寸法は顔に掛ける関係
上小さくするには限度があるが、折畳んだ状態の厚さ寸法Hを小さくすることで、収容するメガ
ネケースは薄くなるが、従来のメガネでは、フロント部両側に概略L型をしたヨロイ(ホ)、
(ホ)が設けられ、該ヨロイ(ホ)、(ホ)に取付けられたツル(ロ)、(ロ)がこのフロント
部の裏側に重なり合うように折畳まれる為に、厚さの縮小には限度があった。このように「薄型
メガネ」「折りたたみ式眼鏡」は、メガネフレームのフロント部上縁の左右端に垂直に枢支軸を
設け、この枢支軸によってテンプル(ツル)を枢支していて、コンパクトに折畳むことが出来、
場所を取らずに収納可能であり、持ち運びに便利で特に老眼鏡用として有効に、折りたたんだ状
態がカードのように薄く、ワイシャツや洋服などのポケットに入れてもポケットが膨らまず、財
布などの薄いスペースにも収納可能で携帯に便利なメガネや、また、レンズが嵌め込まれた薄板
状のフロントが中央でヒンジで連結されて折りたたみ可能であると共に、テンプルも前テンプル
と後テンプルからなって折りたたみ可能であり、テンプルを折りたたむと後テンプルがフロント
の上端縁に乗るようになる便利なメガネがある。
この”ペーパーグラス”という新しいメガネは、さらに、ツルを折畳んだ際の厚みが薄くなって、
胸ポケットに入れたり本に挟み込んで持ち運び出来ると共に、掛け心地が良好になるよう改良。
(1)フロント部の両側にツルを折畳み可能に取付けた形態であるが、折畳まれるツルはフロン
ト部の裏側に重なり合うことなく、フロント部の上側に配置され、折畳まれたツルとフロント部
は同一面に位置する。フロント部は一平面内に形成され、同じくツルも一平面内に形成される。
そして折畳まれたツルはフロント部と同じ平面内に収まり、さらに、(2)このツルは両リムの
外側に設けたブローチに継手を介して取付けられるが、ブローチはリムの外側であると共に下側
に位置し、ブローチに取付けた継手から湾曲して立ち上がり、その後はほぼ真っ直ぐに延びて先
端部は耳に係止出来るように湾曲したモダンを形成していることを特徴としている。
従って、この新しいメガネでは、ツルを折畳んだ場合、フロント部と同一面に収まる為に折畳み
状態の厚さが薄くなる。つまり、メガネケースの厚さも薄くなって、胸ポケットに入れて持ち歩
くことが出来のみならず、本に挟むことができるシオリとして機能する。すなわち、読み終えた
箇所にこの薄型メガネを外して挟み込み、再度読み始める際にはシオリとして挟んだ薄型メガネ
を顔に掛けることが出来る。そのため、ツルが折畳まれた状態ではフロント部と同一面に収まるこ
とから、踏み付けても破損することはないという。
上図はこの薄型メガネを表す例であり、フロント部1の両側にはツル2,2が折畳まれて取付け
られている。フロント部1は両リム3,3が山形に湾曲した連結部材4にて連結され、リム外側
にはブローチ5が設けられて、該ブローチ5のネジを弛めてリムの周長を拡大することでレンズ
の着脱を可能にしている。そして該ブローチ5には継手6が取付けられて、ツル2は継手6を介
して折畳み出来るように連結している。ところで、この図ブローチ5の構造、及びブローチ5に
設けた継手6の構造は限定しないことにする。例えば、一般的な蝶番を継手6として採用するこ
とも可能である。ツル2の基部は上記継手6に固定されて延びているが、継手6から上方へ湾曲
して立ち上がり、その後、ほぼ真っ直ぐに延び、先端部は滑らかに湾曲してモダン10を形成し、
このモダン先端には概略楕円形の係止片7を設けている。ここで、係止片7の厚さはツル2の
太さに相当した薄い楕円形板である。
そして、このブローチ5の位置はリム3の外側であるが、下側に位置している。リム3の中心O
から水平に延びる基線8に対して、角度θだけ下方へ傾斜した傾斜線9がリム3と交わる位置に
ブローチ5を設けている。ツル2が折畳み可能に連結する継手6の軸はこの位置におけるリム3
の接線と平行を成し、その結果、ツル2を開いた状態では外方向へ傾斜する。ここで、リム3の
中心Oは縦・横寸法の中間とする。継手6に取着されたツル2はフロント部1のリム3に沿って
上方へ湾曲して立ち上がる形状と成っている為に、このツル2が折畳まれた状態ではフロント部
1と同一面に収まる。そして、フロント部1は湾曲せずに平坦であり、ツル2,2も該フロント
部1と同じく平坦面に収まる。しかし、ツル2を開いた状態では傾斜し、後頭部が抱きかかえる
構造となっている。
さらに、上図はこの薄型メガネのツル2を開いた場合の片側半分を表している正面図であり、ツ
ル2は同図に示すように外方向へ角度αにて傾斜している。これは継手6の軸が鉛直方向に対し
て角度αだけ傾斜している為である。そして、ツル先端部のモダン10は下方へ湾曲すると共に、
内側へ傾斜して延びている。従って、メガネを掛けた場合には、モダンは耳に掛かると共に、後
頭部を抱かかえるようになじむことが出来、着用したメガネは安定し、外れ落ちることはない。
また下図は、ツル2を開いた状態の側面図を表している。継手6がリム3の外下側に設けられて
いることで、ツル2を開くことでフロント部1は同図に示すように傾斜する。勿論、普通のメガ
ネの場合もフロント部は多少傾斜しているが、本発明の薄型メガネを構成するフロント部1の傾
斜角度は大きく成っている。フロント部1の傾斜は従来のメガネに比較して大きいが、老眼鏡と
して新聞・雑誌を読むにはむしろ適している。このメガネのフロント部1には鼻当てパットが備
わっておらず、山形に湾曲した連結部材4が鼻の甲に当って支えられるために、フロント部1は
比較的下側に位置して支持される。その為にも、フロント部1の傾きが大きい方が新聞・雑誌が
読み易くなるという。
ただし、この新しいメガネの考案は、必ずしも老眼鏡に限定するものではなく、ブローチの位置
を多少上方に変更することで近眼用のメガネにも適用できる。また、フロント部を鼻に載せて支
える手段として上記連結部材を用いることなく、鼻当てパットを取付けることもある。ただし、
鼻当てパットはあくまでもフロント部と同一面に収まる形態としなくてはならない。ところで、
前図、ツルが折畳まれた状態の正面図に示した薄型メガネはリム3,3を備えた形態であるが、
上側半分のハーフリム、または下側半分のハーフリムを備えたフロント部として構成することも
ある。さらに、リムを持たないフロント部とすることも出来る。リムを持たないフロント部1で
はブローチを必要としない為に、継手6をレンズに直接ネジ止めする。勿論、この場合の継手の
位置はレンズ外下側であり、図に示す位置関係となる。
まぁ~、特許での説明はそうなっているが、まだ購入発注していないが、老眼だけでなく、これ
ほど細かな加工が行き届いた商品はここならではのもので世界の各地から注文のオファーが続い
ているとか。少々高くとも、是非買ってみたくなる商品であることは太鼓判だろう。
【アベノミクス第三の矢 僕ならこうするぞ!】
●里山資本主義異論
今回も「第3章 グローバル経済からの奴隷解放」 から。「52%、1.5年、39%の数字が
語る事実」の節は興味深い考察がなされている。これはわたし(たち)が主張している「デジタ
ル革命渦論」を背景とした「高度消費資本主義社会」の反映した社会経済現象であることを具体
的に語られている。さらに、地方経済の「域際収支」の分析を介し、高知県の事例研究では、赤
字を解消するには、電気・ガスなどのエネルギー分野の地産地消することを強調。「里山資本主
義は、こうした赤字部門の産業を育てることによって、外に出て行くお金を減らし、地元で回す
ことができる経済モデルであることを示してきた」と述べているが、これは至極真っ当な経済的
動機付けであり、「アベノミクス第三の矢」の核心でもあるはずだ。
52%、1・5年、39%の数字が語る事実
これに対して、「オールドノーマル」とは「成長が是」とする認識だ。戦後、日本企業の
売り上げは確かに仲びてきたが、実は利益はそれほど増えていない。つまり、売り上げの成
長が利益に直結してこなかったのだ。日本企業は縮小する市場のなかで、猛烈な勢いで成長
するアジアのメーカーと、消耗戦を繰り広げてきたのが実情なのである。阿部氏は、その結
果生じた現象を、象徴的な数字とともに、三つ挙げている。
まず、「52%」。これは、発売から二年以内に消えるヒット商品の割合。なんと世に新
たに登場した商品の半分以上が発売から二年を待たずに消滅しているのだ(中小企業研究所「
製造業販売活動実態調査」2004年)。1990年代までは、たったの8%だったという。
逆に言うと、九割以上の商品が発売後二年以上、市場に残り続けていたのだ。
次の数字が、「1・5年」。これは新しく発売された商品が利益を得られる期間(経済産業
省「研究開発促進税制の経済波及効果にかかる調査」2004年)。一つ目とも絡んでくる
が、このご時世、短命な商品のいかに多いことか。一方で、研究開発には何年もかかる。つ
まり、いくら頑張って間発しても、あっという間に利益が得られなくなる現象が起きている
のだ。1970年代までは、開発後、25年ぐらいはもったという。当時は、開発者として
一つヒット商品を生み出せば、定年まで食べていくことができたのだ。
こうして、近年の日本企業は新商品の乱発競争をしてきたが、それが、組織・人材の疲弊
につながっている。それを示すのが三番目の数字。
仕事の満足度「39%」(労働政策研究・研修機構 調査シリーズ No.51「従業員の意識
と人材マネジメントの課題に関する調査」2007年)。ただし、これは震災前の2007
年の調査。今はもっと下がっていると見られている。
「2008年初頭、小林多喜二の『蟹工船』がベストセラーになった。『蟹工船』の冒頭、
主人公は、『おい地獄さ行ぐんだで!』と言うが、それは、今の若者たちの就職時の心情と
深くマッチしているのではないだろうか。忘れてはならないのは、近年急増している、若者
のうつ病である。背景には組織・人材の疲弊があるのではないか」と阿部氏は指摘している。
企業の売り上げを仲ばすためではなく、地域や社会とのつながりを感じられる商品を人々
は欲し始めている。作り手の側からも、そうした商品を提供したいと考える人たちが現れる
のは、当然のことである。
田舎には田舎の発展の仕方がある!
過疎と高齢化が進んだ地域。そこには、アイディアさえあれば、とっておきの宝物がまだ
まだ眠っている。リスクも少ない。土地代や人件費など、元手もほとんどかからないため、
スタートから多額の借金を抱える必要もなければ、もちろん、生産過剰による在庫を心配す
る必要もないのだから。そしてなにより、若者が帰ってきた。それだけで地域の人たちから
感謝される。「地域」は今や、若者たちを惹きつける新たな就職先である。
しかし、いくら若者が過疎地を目指すとなっても、そこは見知らぬ土地。困難も多い。田
舎にはよそ者に対し警戒心をもつ風潮も残っていて、残念ながら、ときにトラブルに発展す
ることもある。
周防大島では、受け入れ態勢のさらなる拡充を目指す動きが次々立ち上がっている。松嶋
さんたちは、Iターン、Uターンの若者たちによるネットワークを結成。「島くらす」と名
付けた。まず、島の情報を起業希望者に提供し、便宜を図る。ときには、地元の人との仲立
ちも行う。さらに、既に成功している会社へのインターン事業を行ったり、起業してからの
安定収入のためにアルバイト先を提供したりする。先人たちが切り拓いた道。それに続く人
たちが同じ様な壁にぶち当たることなく、スムーズに島に定着して欲しい。こうした活動に
は、松嶋さんたちのそんな願いが込められている。
こうした若者たちの動きに、自治体も応えた。2011年4月、若い起業家に事業用のス
ペースを貸し出す、いわゆるチャレンジショップを始めた。都市部の商店街などではよく見
られるようになった取り組みだが、過疎の島にあるのは珍しい。2~3坪という少々手狭な
敷地ながら、賃料は月1万円。しかも、年間28万人が訪れる「道の駅」の口の前にあるだ
けあって、集客力は抜群。蜂蜜を販売する笠原隆史さんも、ここに店を出し、リピーターを
増やしている。
周防大島町長の惟木巧さんにも話を聞いた。
「私は行政のなかにいる人間ですが、一番不足しているのは、やる気があってもアイディア
が薄い点。自分でも反省しているのですが、外のまったく違うタイプの方々のアイディアを
いただけたら、もっと面白いものができるのではないかと期待しています」
2012年4月からは、島内のあちこちに増えていた空き家を、移住を希望する人に破格
の家賃で貸し出す取り組みも始めている。これも各地で始まっている取り組みではあるが、
多くは行政が単独で行っているケースが多く、若者がなかなか情報にアクセスしづらい。と
ころが、周防大島では、「島くらす」と連携し、情報共有を図ることで効率よく借り于が見
つけられる。
加速する周防大島の取り組み。惟木町長は、かつて、島でも大企業誘致などに取り組み、
失敗した経験を反省する。
「都会と同じように考えて発展させるのは無理があると思うんですね。私たちの田舎は、田
舎のような発展、地域にあった幸せ度、発展を考えなければいけないと思います」
私たちが松嶋さんたちを取材した番組が放送されたのは、2012年3月。放送後、松嶋
さんの元には、その理念に感銘を受けた人々による訪問や便りが相次いだ。
山口県岩国市から来たという50代の男性は、店に入って来るなり「会いたかったよ!
ありがとう! ありがとう!」と松嶋さんに握手を求めたという。聞けば、東京に就職した
息子が都会暮らしや仕事になじめず、田舎に帰ってきたものの「田舎暮らしは面白くない」
と、就職活動もせず閉じこもっていた。それがたまたま見た番組に感動し、何回も繰り返し
て見るうちに、ついには田舎には田舎の素晴らしさがあり、田舎で頑張ることの意義を感じ
たのだという。就職活動にも前向きに取り組むようになったそうだ。
他にも、二年ほどうつ病で休職していた女性から、放送を見て、再び就職活動を始める決
心がついたという便りがくるなど、松嶋さん自身も勇気づけられるような話が続々と届けら
れている。
地域の赤字は「エネルギー」と「モノ」の購入代金
松嶋さんたちの取り組みを考察する上でとても重要な数字を次に紹介したい。「域際収支」
というものを都道府県別に示したグラフである(176頁)。域際収支とは、商品やサービ
スを地域外に売って得た金額と、逆に外から購入した金額の差を示した数字。国で言うとこ
ろの貿易黒字なのか、貿易赤字なのかを、都道府県別で示しているのである。
一目瞭然である。東京や大阪など、大都市回が軒並みプラスなのに対し、高知や奈良など
農漁村を多く抱える県は、流出額が巨大である。こうした地域がなぜ貧しいのか。それは、
働いても、働いても、お金が地域の外に出て行ってしまうからである。
かつてそれを穴埋めするために考え出されたのが、公共事業や工場の誘致、それに補助金
といった再分配の仕組みだった。何十年と、莫大なお金を地方に投人してなんとか底上げし
てきたが、結局は、一部は地方の人々の収入につながっているものの、それらのお金も最終
的に都会へと流れ込むだけだった。しかも、長期的な景気の低迷で、都市部も地方にそれだ
けのお金を流し込む余裕がなくなり、そうした仕組み自体が限界にきている。地域の衰退は
止められないのだろうか。
そうではない。次の図を見て欲しい。今度は、域際収支が最下位の高知県を品目別にどれ
が赤字でどれが黒字かをみたもの。いわば、お金の流れを健康診断した結果だ。
農業や漁業、林業など一次産業が黒字でとっても健康的であるのに対し、電子部品を除く、
二次産品が軒並み赤字となっている。なかでも圧倒的な赤字となっているのが、石油や電気、
ガスなどのエネルギー部門。
そして、意外なのが、飲食料品が赤字となっていることだ。農漁業などの一次産業は盛ん
なのに、それを加工した二次産品は外から買っているのである。これが、県全体の赤字額を
押し上げている。
里山資本主義は、こうした赤字部門の産業を育てることによって、外に出て行くお金を減
らし、地元で回すことができる経済モデルであることを示してきた。最近、はやりの「6次
産業化」という言葉も、生産から加工、販売までを地域で行うことによって、赤字となる品
目を減らそうという取り組みを指している。周防大島で松嶋さんたちがやっているのはまさ
に、都市部からの再配分に頼らない、新たな地域の底上げの方法なのである。
真庭モデルが高知で始まる
域際収支のグラフで全国最下位の高知県。よく見ると、林業は黒字なのに、それをベース
とした製材業は赤字になっていることが分かる。こうした状況を改善しつつ、エネルギー部
門の圧倒的な赤字を少しでも解消しようという動きが、知事の肝いりで始まっている。
2011年9月、高知県庁で行われた、プロジェクトの発足式。そこに姿を見せたのが、
第一章で紹介した岡山県の建材メーカーの中島浩一郎さん。中島さんが築き上げた「真庭モ
デル」を高知にも導入しようと、尾崎正直知事自ら中島さんを二年がかりで口説き落とした
のである。知事は会見の席上、眠れる森林資源を活かすことが高知県の生き残る道だと力説
した。
「高知県は、森林面積割合が84%を占めていて、この84%ある森を元気にできるかどう
かは、高知県全体に関わってくる大きな問題となる。高知県の木をダイナミックにもっとも
っと動かしていけるようになりたい。山から木を切り出してきて、付加価値をつけて、県外
にも売り出していく」
その栄えある真庭モデル導入の地に決まったのが、高知県東北端、四国山地のど真ん中に
位置する大豊町。人口4662。タクシーの運転手が、「10年後にはこの町はなくなって
いるはずです」と自嘲気味に表現するほど過疎高齢化が進んだ町。「限界集落」という言葉
を最初に提唱した社会学者の大野晃氏が、日本で最初の「限界集落」として挙げたのが、こ
の大豊町だ。
「平らな上地が全然ないですからね」
町長の岩崎憲郎さんは、町最大の産業であるはずの林業が廃れていくことに、危機感を募
らせていた。
町の面積の九割は山林野、そのうち七割が人工林だ。戦後、宝になるとせっかく植林した
杉の本が青々と育っている。しかし、木材価格の暴落で、住民たちは山に本を残したまま、
集落を去っていた。残された山林は育ち過ぎ、やがて集落を飲み込んでいった。戦後、この
町に嫁ぎ、植林に携わってきたという80代の女性は、悲しみを町長に訴えていた。
「昔は、山と一緒に生活ができた。今はできない、ここでは収入がない。青い杉ばっかりで
きれいだけど……。私が死ぬまでになんとかして欲しい」
2012年7月、大豊町内の建設予定地で、施工式が執り行われた。跡継ぎがなく、前年
廃業した製材所の跡地など、四万平方メートルの土地。岩崎町長が用意した、町内で一番広
い平地だ。高知県知事を始め、高知県の木材関係団体のトップなど、大勢の関係者が見守っ
た。もちろん、中心にいるのは中島さんだ。
2013年4月、ここに大規模な製材所が建設された。生産量は、年間10万立方メート
ル。高知県全体の年間の木材生産量は40万立方メートル、その4分の1にもなる規模であ
る。労働力は地元から55人を採用する予定。もちろん、その経済効果は、川上の林業から、
川下の販売や運搬業にまで及ぶ。
合わせて、木くずを利用した発電所も建設する。中島さんは、可能であればさらに「大臣
認定」をとってCLT建築にも挑戦したいと考える。まずは社員の寮をCLTで建てたいと
考えている。実現すれば、日本で初めてのCLT建築となる。
大豊町での「真庭モデル」の実践は、地方の赤字体質を改善し、日本経済全体を底上げで
きるかどうかの試金石になっていくはずである。
知事自らの説得にもかかわらず、二年間、ずっと協力すべきか思い悩んでいたという中島
さん。やるからにはやる。吹っ切れていた。
「私の持論なのですが、日本人は、元来、木の使い方は非常に上手な民族というか、歴史も
持っている。今はたまたま下手くそになっているだけで、一時的に忘れていることを、もう
いっぺん見直して、現代風にアレンジしたらいい。小さい穴でも風穴を開けたいです」
藻谷浩介 著 『里山資本資本主義』
この項つづく