極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

こんな夜はモーツァルト

2014年05月17日 | WE商品開発

 

  


●無線タグが光るネールアートに変身?

タカラトミーアートが光るネールアート『ルミデコネイル』を発売したという。LED(有機エレ
クトロルミネッセンス素子)を内蔵した薄型のネイルシールという無線タグである。厚さ約 0.5ミ
リメートルと一般的なネイルシールとほぼ変わらない薄さで、爪に貼って使う。勿論、一番の特徴
は“光る”こと。国際基準の近距離無線通信「NFC(=Near field communication )」電波をキャ
ッチすると、シールの中のLEDがキラッと光りる。「NFC」電波に反応する回路を薄いネイル
シール状にする世界初の特殊技術を採用しており、国際特許も出願しているという。また電池不要
なので「NFC」電波をキャッチする限りずっと光り続けます。と、いうキャッチフレーズだが、
ネールアート商品だから耐久性はクリアされというわけだから上手いこと考えたものだ。

原理はブログ『限界加齢運転に挑戦』に掲載したことがある無線タグ。「NFC」は身近な場所に
広く使われています。交通系ICカードを使う自動改札機や電子マネーのICカードを使う店頭や
飲料の自動販売機のリーダー機、社員証のIDカードのリーダー機に採用している。また、スマート
フォンに搭載されているいわゆる“おサイフケータイ”と言われるFelica機能も「NFC」
を利用して実績済みだ。
『ルミデコネイル』は、これら身近な「NFC」電波にすべて反応できる
という。電車の自動改札機にタ
ッチするとき、オフィスに入館・退出するとき、スマートフォンの
操作をしているときも、
様々なシーンで、自分の指先がキラッと光るという。以前、といっても、
十数年は経っているが、有機エレクトロルミネッセンス事業のd&Rを開始したとき、格安の"光る
イアリング"事業の世界展開をスケッチしたことがあったがそれと同じ(このときはソーラー素子
との組み合わせだったが)、無線タグ方式ならNFCをキャッチすれば"ネオコンバーテック技術"
で埋め込まれた回路が発光させてくれるというわけだ。

●従来、データ伝送には有線による通信、無線を用いた通信、赤外線を用いた通信等の様々な方式
通信技術があり、このような通信技術を利用した玩具も多々存在する。例えば、有線による通信、
無線通信、赤外線通信をそれぞれ利用したリモコン玩具等が存在する。また、RFIDRadio Frequen-
cy IDentification
:無線タグ)を埋め込んだ玩具を、電磁界や電波などを用いた近距離の無線通信によ
って無線タグに書き込まれている情報を読み出す機能(無線タグリーダと呼ぶ。)を有する玩具に
近接させ、玩具に埋め込まれた無線タグの情報を読み出して、こ読み出した情報に対応する動作を
させる玩具が提案・実現されている。

さらに、無線タグと、電磁界や電波などを用いた近距離の無線通信によって無線タグの情報を読み
出す、或いは、情報を書き込む機能(無線タグリーダライタ)を併せ持つ携帯端末を複数備えてネ
ットワークを構成して、或る携帯端末の無線タグリーダライタが、他の携帯端末の無線タグに情報
を書き込み、無線タグに書き込まれた情報を読み出してさらに他の携帯端末の無線タグに順次書き
込んで行くことにより情報を伝送させるネットワークシステム(データ伝送装置)が提案・実現さ
れている。

処理能力の低い制御手段を用いて、相互に情報交換を行なうことが可能なデータ伝送装置及びこれ
を用いた玩具を提供する。近接した2つの装置間でデータ伝送を行なうデータ伝送装置であって、
装置は、無線タグと、無線タグに情報を書き込み、若しくは、無線タグから情報を読み出す無線タ
グリーダライタ部と、データの送信指示及び受信指示を入力する入力部と、装置全体を制御する制
御部とを備え、送信側の制御部は、送信指示があった場合、無線タグリーダライタ部を制御して送
信対象データを自己の無線タグに書き込み、受信側の制御部は、受信指示があった場合、無線タグ
リーダライタ部を制御して自己の無線タグ以外の近接する無線タグの送信対象データを読み出す。



●半導体工場が植物工場に変身? 

東芝が、グループの広範囲な技術を融合してヘルスケア事業として、食、水、空気などの生活環境
を整備する健康増進分野へも注力し、ほぼ無菌状態を実現する閉鎖型の植物工場で、長期保存でき
る無農薬の野菜生産を事業化する公表。具体的には、神奈川県横須賀市の当社所有建屋を活用し、
レタス、ベビーリーフ、ホウレンソウ、ミズナなどを栽培する植物工場に転用し、今年度上期中に
は出荷を開始し、年間3億円の売り上げを見込んでいるという。『植物工場とは何か』では批判的
な、小塩海の『誰が植物工場を必要としているのか』(『世界』2014.04号)を紹介したが、"光
るネールアート"で記載したようにこの事業構想も既に十数年前にスケッチしたことがある。つまり、
老朽化した半導体工場をまるごと植物工場に転換するというものだが、消費者(顧客)開拓という
領域をどうするかが最大課題(何のために、何をつくり、誰に届けるのか)だ。その意味では、太
陽光発電システムが生かせる中東・アフリカ・インドなどの高温・乾燥地域の市場は食糧安全保障
事業として魅力的だが、ここでも、高生産性と高付加価値商品の併せ持つ農産物市場定着の成功如
何次第となる。



●地球のミルク事業を担う”カッパ”?!

再生可能エネルギーの1つである水力発電の最新話題。大人2人で持ち運べる重さで、災害時に用
水などの水流に沈めるだけでプロペラが回り発電できるポータブル小水力発電機「カッパ」の1号
機の「進水式」が只見町は只見用水であったことが報じられた。
モーターなどの開発製造をしてい
る茨城製作所が、東日本大震災後に立ち上げた自然エネルギープロジェクトの第1弾として開発。
「自然からエネルギーを借りる」という発想で「軽水力 Cappa(カッパ)」を昨年、完成させ、同
年のグッドデザイン賞中小企業庁長官賞を受賞。ダムのような大規模工事で自然を破壊する必要が
なく、新技術で流水のエネルギーを引き出す点などが評価された。川や用水路等の流れの運動エネ
ルギーを、効果的に集水増速させ大幅な出力向上を可能とし、ダムや導水管等の工事が不要で設置
が容易な、低コストかつ環境に優しい流体機械および流体プラント。相対流れのある流体中に配さ
れ、吸入口に対し排出口の幅方向を大きくした形状のディフューザケーシングと、このディフュー
ザケーシング内側に配した動力発生装置とを具備する流体機械(カッパは平均流速が毎秒1.75メー
トル、水路幅1.9メートル、水深60センチメートルのモデル水路で約160ワットの出力る。携帯電話
約30台分の充電が可能。装置の寸法は幅832ミリ×奥行き770
ミリ×高さ665ミリメートル、重量は
約57キログラム)。流れがあるところなら、携帯電話30台分の充電とはいえ、年間5百万キロワッ
トアワの電力が発電(要蓄電装置)可能だ!これを筏のように配置すれば、世界展開が可能な事業
となるだろう。

 

●日本文化の褐色色素メラノイジン事業が花咲く!?

日本の伝統食品である味噌の色素が注目されている。これは緑茶ポリフェノールのグリーン色素に
次ぐ世界的展開可能な事業を予感させるものだ。さて、関連する最近注目情報が公表された。大き
な糖化たんぱく質「メラノイジン」が花粉症などのアレルギー症状を抑える仕組みが、近畿大学と
バイオバンクの共同研究で明らかにされた。アレルギー反応が持続していく上で必須となるたんぱ
く質「Rac」の活性を阻む働きがあるという。メラノイジンを多く含むサプリメントや食品を摂
取すれば、アレルギー症状が和らぐ可能性があるというもの。アレルギー症状は、(1)原因物質
のア
レルゲンによる刺激で抗体ができる、(2)抗体がのどや鼻の粘膜にある肥満細胞と結合する
ことでアレルゲンに対する免疫反応を記憶し(3)アレルゲンが再び侵入すると抗体が反応し、こ
れと結合した肥満細胞がヒスタミンなどの化学物質を含む顆粒状の物質を放出―という経路で起き
るが、
顆粒の放出にはカルシウムが不可欠とされ、、アレルギー反応が起きた際には肥満細胞の外か
らカルシウムを補充する仕組みが働く。カルシウムの搬入口となる「カルシウムチャネル」の開閉
を制御する活性酸素種の生成に必要なたんぱくの一つが Racで、その活性をメラノイジンが抑える
という



ところが、メラノイジンという化合物の構造はアモルファス(非晶質)でよくわかっていないが、
メラノイジンは、このようにアミノ化合物と糖との反応によってできる物質で、胃がんを誘発する
といわれるニトロソアミンの生成を抑制することや活性酸素を除去する抗酸化作用、コレステロー
ル低下作用、血圧降下作用及び血糖値抑制効果など有用な効果を有することが知られており、日本
の伝統的食品である味噌も褐色を呈しているのは、このメラノイジンによるもので、発酵すること
によってはじめて生成される。伊那食品工業株式会社の新規考案「特開2007-325518 大豆発酵物及
びその製造方法」によると、味噌の発酵を進めて長熟すると、メラノイジンは、増加するものの味
噌特有の発酵臭が強く風味劣化を起こし、酸味もきつくなり好ましくなく、保存食として13から
15%程度の食塩が本来含有されており、メラノイジンが持つ血圧降下作用と相反するため、豆や
その加工品を水とともに加熱し、食塩5%以下の条件で真菌によって発酵処理をした後、糖を加え
た状態で加熱処理を行うことで、味噌としての強い発酵臭や酸味が弱く、塩分が少ないが、メラ
イジンが多く含まれた大豆発酵物
が得ることを発見し、発酵臭や酸味が弱く、塩分が少ないが、メ
ラノイジンが多く含まれた大豆発酵物の製造方法を提案している。つまり、味噌料理レシピの世界
化することで過剰な医療費の抑制を実行しようという夢あるビジョンが描けるのではないか。




植物発酵エキス(植物発酵エキス OM -X)のⅠ型アレルギー抑制作用)のⅠ型アレルギー抑制作
 用 )、日本薬学会第1341年会 (熊本) 2014.03.28

花粉症や気管支ぜんそくの新たな治療法に!~野菜や果実の発酵エキスがアレルギー抑制に役立
 つことを発見!、2014.03.25

Removal of Melanoidin from Wastewater of Sugar Factories by Continuous Foam Fractionation Column,
   2003.10.22
 

 

 

  木樽の歌う奇妙な歌詞の『イエスタデイ』を僕が初めて耳にしたのは、田園調布にある彼の
 自宅(それは彼が自分で言うほどうらぶれた地域でもなかったし、うらぶれた家でもなかった。
 ごく普通の地域にある、ごく普通の家だ。古いけれど、僕の芦屋の家よりは大きい。とくに立
 派ではないというだけのことだ。ちなみに置いてある車は、ひとつ前のモデルの紺色のゴルフ
 だった)の風呂場だった。彼は家に帰ると何はさておきまず風呂に入った。そしてI度人った
 らなかなか出てこなかった。だから僕はよく脱衣場に小さな丸椅子を持ち込んで、そこに座っ
 て戸の隙間から彼と話をした。そこに逃げ込まないことには、彼の母親の長話(ほとんどが身
 「それがなあ」と木樽は言った。そして半ばため息のような、半ば唸り声のようなものを喉の
 奥からしぼり出した。「話し出すと長い話になるねんけど、おれの中には分裂みたいなものが
 あるんや」



  木像には小学校のときからつきあっている女の子がいた。幼馴染みのガールフレンドという
 ところだ。同じ学年だが、彼女の方は現役で上智大学に入学していた。仏文科でテニス同好会
 に入っている。写真を見せてもらったが、思わず口笛を吹きたくなるくらいきれいな女の子だ
 った。スタイルもよく、表情が生き生きしている。しかし今はあまり顔を合わせていない。二
 人で話し合って、木像が大学に合格するまで、勉強の邪魔にならないように男女としての交際
 は控えた方がいいだろうということになったのだ。それを提案したのは木像の方だった。彼女
 は「まあ、あなたがそう言うのなら」ということで同意した。電話ではよく話をするが、実際
 に会うのはせいぜい週に一度で、それもデートというよりは、むしろ「面会」に近いものだっ
 た。二人は一緒にお茶を飲んで、それぞれの近況を語り合う。手は握り合う。軽いキスはする。
 でもそれ以上には進まないようにする。かなり古風だ。

  木像自身もとくにハンサムというほどではないにせよ、顔立ちはいちおう上品に整っていた。
 背は高くないが細身で、髪型も服の好みもあっさりとして洒落ている。黙ってさえいれば、育
 ちの良い、感受性の細やかな都会の青年に見える。彼女と並べれば、お似合いのカップルとい
 うところだ。あえて欠点をあげるとすれば、顔の造作が全体的に華奢なせいで、「この男は個  
 性や主張にやや乏しいかもしれない」という印象を人に与えそうなところくらいだ。ところが
 いったん□を開くとそういう第一印象は、元気の良いラブラドール・リトリーバーに踏みつけ
 られた砂の城のように、あっけなく崩壊してしまう。その関西弁の達者なしゃべりと、よく通
 る甲高い声に、人々はあっけにとられた。なにしろ外見とのミスマッチが甚だしかった。その
 落差に僕も最初のうちはずいぶん戸惑ったものだ。



 
 「なあ、彼女がおらんと毎日が淋しいないか?」と木樽はある日僕に言った。
  淋しくなくはない、と僕は言った。
 「なあ、谷村、そしたらおれの彼女とつきおうてみる気はないか?」
  木樽が何を言おうとしているのかうまく理解できなかった。「つきあうってどういうことだ
 よ?」
 「ええ子やぞ。美人やし、性格も素直やし、頭もけっこうええし。それはおれが保証する。つ
 きおうて損はない」と彼は言った。
 「損をするとはべつに思ってないけど」と僕は話の筋がよく見えないまま言った。「しかしい
 ったいなんで、僕がおまえのガールフレンドとつきあわなくちゃならないんだよ。理屈がよく
 わからない」
 「おまえはなかなかええやつやからや」と木樽は言った。「そうやなかったら、こんなことわ
 ざわざ言い出すかい」
  何の説明にもなっていない。僕がいいやつであることと(もし本当にそうだとしてだが)、
  木樽の彼女と僕とがつきあうことの間に、いったいどのような因果関係があるのだろう。
 「えりか(というのが彼女の名前だ)とおれとは同じ地元の小学校から、同じ中学校と高校に
 進んだんや」と木樽は言った。「要するに、これまでの人生のほとんどを一緒に過ごしてきた
 みたいなもんや。自然に男女のカップルみたいになって、おれらの仲はまわりのみんなに公認
 されていた。友だちにも親にも教師にもな。こんな風に二人ぴったし隙間なく、仲良くくっつ
 いていたわけや」

 
  木樽は自分の左右の手のひらをぴったりと合わせた。

 
 「それで、そのまま二人仲良く大学にすんなり進学できたら、人生何の破綻もなし、万事めで
 たしめでたしやったんやけど、おれは大学受験にみごと失敗して、ごらんのとおりや。どこで
 どうなってしもたのかは知らんけど、いろんなことがちょっとずつうまくいかんようになって
 きた。もちろんそういうのは誰のせいでもなく、みんなおれ自身のせいやねんけどな」
  僕は黙って話を聞いていた。
 「それでおれは、言うなれば自己を二つに切り裂かれたわけや」と木樽は言った。そして合わ
 せていた手のひらを離した。

  自己を二つに切り裂かれた? 「どんな風に?」と僕は尋ねた。

  木樽はしばらく自分の両手の掌をじっと眺めていた。それから言った。「つまりやな、一方
 のおれはやきもき心配してるわけや。おれがしょうもない予備校に通って、しょうもない受験
 勉強してるあいだ、えりかは大学生活を満喫している。ぽこぽことテニスをやったり、なんや
 かやしてな。新しい友だちもできて、たぶん他の男とデートしたりもしてるんやないか。そう
 いうことを考え出すと、自分だけがあとに取り残されていくみたいで、頭がもやもやする。そ
 の気持ちはわかるやろ?」

 「わかると思う」と僕は言った。

 「けどな、もう一方のおれはそれで逆に、ちょっとほっとしてもいるわけや。つまりこのまま
 おれらが何の問題もなく破綻もなく、仲良しのカップルとしてするするとお気楽に人生を進め
 ていったら、この先いったいどうなってしまうんやろうと。それよりいっぺんこのへんで別々
 の道を歩んでみて、それでやっぱりお互いが必要やとわかったら、その時点でまた一緒になっ
 たらええやないか。そういう選択肢もありなんやないかと思たりもするわけや。それはわかる
 か?」
 「わかるような気もするし、よくわからないような気もする」と僕は言った。
 「つまりやな、大学を出て、どっかの会社に就職して、そのままえりかと結婚して、みんなに
 祝福されてお似合いの夫婦になって、子供が二人ほどできて、お馴染みの大田区立田園調布小
 学校に入れて、日曜日にはみんなで多摩川べりに行って遊んで、オブラディ・オブラダ……も
 ちろんそういう人生もぜんぜん悪うないと思うよ。しかし人生とはそんなつるっとした、ひっ
 かかりのない、心地よいものであってええのんか、みたいな不安もおれの中になくはない」
 「自然で円滑で心地よいことが、ここでは問題にされている。そういうこと?」

 「まあ、そういうことや」

  自然で円滑で心地よいことのどこが問題になるのか、僕にはもうひとつよくわからなかった
 が、話が長くなりそうなので、その問題は追及しないことにした。
 「でもそれはそれとして、どうしてこの僕とおまえの彼女がつきあわなくちゃならないん
 だ?」と僕は尋ねた。
 「どうせ他の男とつきあうんやったら、相手がおまえの方がええやないか。おまえのことやっ
 たら、おれもよう知ってるしな。それにおまえから彼女の近況を聞くこともできる」
  それは筋の通った話とはとても思えなかったが、本俸の恋人に会ってみること自体には興味
 があった。写真で見る彼女は人目を惹く美人だったし、そんな女の子がどうして水槽みたいな
 風変わりな男と好んでつきあうのか知りたかったということもある。僕は昔から人見知りする
 くせに、好奇心だけはけっこう旺盛なのだ。

 「それで彼女とはどのへんまでいってるんだ?」と僕は尋ねてみた。
 「セックスのことか?」と本俸は言った。
 「そうだよ。最後までいったの?」

  木樽は首を振った。「それが、あかんねん。子供の頃からよう知ってるからな、服を脱がせ 
 たり、身体を撫でたり触ったり、あらためてそういうことをするのが、なんか決まり悪いんや。
  他の女の子が相手やったら、そんなことないと思うんやけど、パンツの中に手を入れるとか、
 彼女を相手にそういうことを想像すること自体が、よろしくないことに思えてくる。それはわ
 かるやろ?」

  僕にはよくわからなかった。

  木樽は言った。「もちろんキスはしてるし、手も握ってる。服の上から胸を触ることもある。
 けど、そういうのもなんか冗談半分、遊び半分みたいな具合やねん。いちおう盛り上がっても、
 そこから先に進んでいこうかとか、そういう気配がないのんや」
 「気配も何も、そういう流れって、ある程度こっちからがんばって作っていくものじゃないの
 か?」と僕は言った。人はそれを性欲と呼ぶ。
 「いや、それが違うねん。おれらの場合はなかなかそういう風にはいかへんねん。うまいこと
 言えんけどな」と木樽は言った。「たとえばマスターベーションするときに、誰か具体的な女
 の子のことを思い浮かべたりするやろ?」
  それはまあ、と僕は言った。
 「でもな、おれはえりかを思い浮かべることがどうしてもできへんねん。そんなことしたらあ
 かんという気がするんや。そやからそういうときは他の女の子のことを考える。そんなに好き
 でもない子
のことをな。それについてどう思う?」
  僕は少し考えてみたが、結論みたいなものは出てこなかった。他人のマスターベーションの
 ことまではなかなかわからない。自分のことだってもうひとつわかりづらい部分はある。
 「いずれにせよ、一回ためしに三人で会うてみよやないか」と木樽は言った。「それからゆっ
 くり考えてみたらええやろ」

               村上春樹 著『イエスタデイ』/『文藝春秋』2014年1月号



 

●こんな夜はモーツァルト



Mozart - Sonata for Two Pianos in D major, K. 448

二回目の歯の治療で疲れたのかよく分からないが、夜の作業は早めに切り上げることに。 

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