映画音楽やジョン・デンバー、ビーチ・ボーイズ等の洋楽ポップスを好んでいた中学の頃、レコード店に飾ってある派手な化粧の外人グループのポスターが気になった。まだポップスとロックとジャズの区別もつかなかった頃。初めて買った「ミュージック・ライフ」の表紙はもじゃもじゃ髪を振り乱し絶叫してギターを振り上げるプロレスラー風のゴツい男。本誌に掲載されたミュージシャンは、ポートレイトでは派手で奇妙な服を着てニコニコしてるのに、演奏写真では豹変して鬼気迫った様子で楽器を弾くというよりは楽器で喧嘩している。ショッカーの怪人みたいな化粧で火を噴いたり血を吐いたりしている人や、蛇を首に巻いた人や、いつもジャンプしている人や、竹馬みたいなブーツで股間から一物を出している人までいる。もし街で会ったらこの人ヤヴァい、近寄らんどこ、と避けるに違いないが、純朴な中坊はこの気違いじみた写真にコロッと騙され魅了されてしまった。
丁度ギターを練習し始め、「シクラメンのかほり」と「神田川」が弾けるようになったので、今度はロックをお手本にすることにした。残念ながらクラシック・ギターだったが、力一杯弦を叩けばズゴーンと音がする。自宅で火を噴いたり、血を吐くのは無理なので、ひたすらジャンプを真似た。勉強部屋でギターを持ってドタバタ飛び回り、騒音を鳴らす息子を見て、両親が何と思ったかは知らないが、少なくともチ○ポを出す練習じゃなくて良かった。ジャンプ氏は、別の写真では腕をあらぬ方向に振り上げ、挙げ句の果てにギターを破壊していた。忠実な弟子ならば、勉強机にクラシック・ギターを叩きつけて粉々にしていただろうが、そこまでの勇気はなかった。コードやスケールよりもジャンプの練習が私のロック事始めだったのである。
形からロック道へ入ったガキンチョのレコードを買う基準は、当然カッコいいかどうかである。ロック衝動そのものである喧嘩腰の激しいアクションとサウンド。レコード・ジャケットで選べば、カッコいいのは圧倒的に実況録音盤だった。当時住んでいた地方都市には、外タレはポール・モーリアとカーペンターズとベンチャーズしか来なかったこともあり、雑誌のグラビアを眺めながら、滅多に経験できないロック・コンサートを擬似体験できるライヴ盤に心酔した。
●ディープ・パープル『ライヴ・イン・ジャパン』
ロック少年の基本のキ。「ハイウェイ・スター」「チャイルド・イン・タイム」「スモーク・オン・ザ・ウォーター」の流れが素晴らしい。しかし1曲が長いぞ。D面の「スペース・トラッキン」は滅多に聴かなかった。ジャケを観ては武道館に行く日を夢みた。よく見るとリッチーはギターを壊そうとしている。フィルムコンサートで初めてギター破壊を観たときは大ショックだった。鬼の形相で何度も執拗にギターを叩き付けるリッチーが悪魔に見えて、二度とロックなんか聴くもんか、と決心した。帰りに冨田勲の『火の鳥』を買った。シンセに憧れた結果、プログレ経由でロックに逆戻り。
●キッス『アライヴ!~地獄の狂獣』
ガキの心をトキメかすハードロッカーといえばキッスで決まり。テレビの仮面ライダーやキカイダーから飛び出してきた地獄の軍団。血や焔や煙などこけ脅しを駆使した魅せるステージ演出は最高のエンターテインメント。邦題の地獄シリーズも秀逸。ディスコ路線へ走ったり、仮面を外したりでガッカリさせたが、開き直って仮面に戻り人気復活、10月に大々的に来日。中の人が昔と同じかどうかは関係ないロック伝統芸能。
●グランド・ファンク・レイルロード『ライヴ・アルバム』
コレがロックだ!という激ジャケNo.1。ブレてて顔が判らないくらいの激しいステージングをパチリ。常軌を逸したファズギター、ソウルフルな暴走ビート、観客の狂乱。ジャケットに偽りなしの激烈ライヴの記録。使っているギターが特注モデルだと知り無性に欲しくなった。後に日本製のコピーモデルが発売されたが、使ってる人を観たことはない。
●ジョニー・ウィンター『狂乱のライヴ』
マイ萌えジャケNo.1。白い長髪をなびかせてギターを弾きまくるジョニーには心底惚れた。お年玉を貯めて最初に買ったエレキギターはグレコのファイアーバード・モデル。35年前で定価98,000円。今なら本物が買える値段。バランスが悪いのでネックが下がってきて弾きにくいことこの上ない。パンク勃発でオールドウェイヴな変形ギターはダサいとされたが、セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズがファイアーバードを弾いていたので安心した。エクスプローラーだったら、チープ・トリックしか許されなかっただろう。
●テッド・ニュージェント『絶叫のライヴ・ゴンゾー』
例の表紙のプロレスラーがこの人。余りの轟音に飛んでいた鳥が落ちたとか、ステージで野牛の生肉を喰いちぎるとか、自宅の庭でライフルを撃ちまくるとか、野獣ぶりが喧伝された。アメリカらしい力でねじ伏せる傍若無人ハードロックは、繊細な日本人の好みに合わなかったようで、現在日本盤CDはベスト盤1枚しか流通していない。
●ZZトップ『ファンダンゴ!』
テキサスといえば西部劇の本場なので、ウェスタン好きには憧れの地。カウボーイにはカントリーだと思ったら、ZZトップがゴリゴリのブギをやっていて驚いた。バッファローやライオンの檻をステージに飾って演奏するという話もワイルドでいい。真似て友達と同じポーズをキメるのが「ZZトップごっこ」と呼ばれプチ流行った。まさか全米No.1を連発するスーパーバンドになるとは思わなかったが、トラック野郎の絶大な支持を集めるというのが自動車大国ならでは。歳をとってもヒゲの量と長さが同じなのが不思議である。
●レッド・ツェッペリン「永遠の詩(狂熱のライヴ)』
激ジャケではないが、発売と同時に映画『レッド・ツェッペリン狂熱のライヴ』が公開されたので、動く姿を確認できた貴重な作品。残念ながら地方都市では未公開。テレビ番組でさわりを偶然目にしただけだが、雑誌の写真とは比べ物にならないくらい想像力を刺激された。ジミー・ペイジにはギターの持ち方で多大な影響を受けた。誰よりも低い位置にギターを構えることがプライドだった。
●エアロスミス『ライヴ・ブートレッグ』
キッスと並ぶハードロック少年のアイドルのエアロのライヴ盤が出た時には、パンク熱に冒されていたので闇夜に葬ってしまった。海賊盤を模したジャケはザ・フー以来の伝統だろう。80年代の迷走直前に華やかに開いた最後の打ち上げ花火と言えるかもしれない。
●ザ・フー『熱狂のステージ(ライヴ・アット・リーズ)』
海賊盤ジャケの本家本元、ギターのお手本ピート・タウンゼンドの最高傑作ライヴ盤。付録のポスターや写真がレコ好きには堪えられない。ジャンプして振り回して壊しての不死身のハードロック満載かと思ったら、A面はポップソングのハードロック化でカッコいいが、B面が2曲の長尺トラックで、ギターソロやドラムソロがあるわけでもなくちょっと肩透かし。しかしピート先生のことだから組曲でもジャンプしてるに違いない、とアルペジオしながら飛び跳ねるという至難の業に挑んだのが懐かしい。
因みにアルバム全曲一緒に弾けるのはこのアルバムと、ソリッド・センダーズ『電光石火』(ウィルコも飛ぶ)と、ハートブレイカーズ『L.A.M.F』と、ラジエイターズ・フロム・スペースの1stである。
形から
入れば魂は
後からついてくる
私のライヴフェチは35年前に運命づけられていたのだろう。
【特報!】
『伝説のヤング・ミュージック・ショー~KISS~』放送予定
2013年9月24日(火)
[NHK-BSプレミアム] 午後11時45分~翌午前0時44分
【収録】1977年4月2日 日本武道館
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