『アイデン&ティティ』は、1992年に刊行されたみうらじゅんの漫画、またこれを原作とし2003年に公開された日本映画。映画では、田口トモロヲが映画監督に初挑戦し、宮藤官九郎が脚本を担当し、音楽には白井良明、遠藤賢司と並んで大友良英のクレジットがある。『あまちゃん』の種が10年前に撒かれていた、などと妄言を吐くつもりはないが、そもそも宮藤と大友は同じ世界の住人だったということ。バンドブームをテーマにみうらが描いたストーリーは、20年後の現代はアイドルシーンに舞台を移すのが自然。そう考えれば、アイデン&ティティとあまちゃんは時代を隔てた兄妹と言えるだろう。
あまちゃんが後半のハイライトを迎えた真夏に狙いを定めたように、自己同一性(Identity)を追求する個性派女子アーティストの新作が出揃ったのは、偶然ではなかろう。一方で個性を追い求めるうちに部族化し、アウトサイダー転じてオフサイドと成らぬようお気をつけ願いたい。そんな危険を侵すことを厭わない勇気ある女流冒険家を見てみよう。
●相対性理論
クールな脱力感でゼロ世代の重心を(関)西から(関)東へ遷都させた相対性理論=theory of relativityが、3年3ヶ月ぶりのスタジオ・アルバムをリリース。彼等を初めて聴いた時は愛想の無さとフラットな演奏が好みではなかった。しかし春に出たやくしまるえつこのソロアルバム『RADIO ONSEN EUTOPIA』を聴いてガラッと印象が変わった。大友良英、木暮晋也、永井聖一、吉田匡、山口元輝らのセッションで聴くやくしまるの歌は、驚くほど表情豊かで人間味に溢れており、一発で惚れてしまった。過去作品を聴き返し彼女のヴォーカルが最初から魅力的だったことに気付く。存在感の希薄さは否めないが、その非在性故にテン年代オルタナ・ポップカルチャーのセンターになったのだから面白い。メンバーチェンジを経てもレアな空気は変わらない。やくしまるの無表情の奥から漏れるヒューマニズムが暖かい。
●パスピエ
「21世紀流超高性能個人電腦破壊行歌曲」を自称する理論派バンド。東京藝術大学でクラシックを学んだ成田ハネダが夏フェス経由でドロップアウト、大胡田なつきをヴォーカルに2009年に結成。印象派を意味するバンド名、メディアに顔を晒さない戦略が功を奏して話題を撒き、今年6月『演出家出演』というお茶漬け海苔的アルバムでメジャーデビュー。大胡田が手掛けるイラストも相まって、ポスト相対性理論のイメージがないわけではないが、ボッサな要素を備えた抑揚に富んだスタイルは、フォロワーの誹りを退ける独自性を発散する。
●赤い公園
2010年結成の4人組。ハードコア/プログレ/ポストロック/歌謡曲など様々なジャンルをスクイーズしたごった煮サウンドは、単なるミクスチャーを超越した作為と含蓄に満ち、4人別々の方向に走り出すように目まぐるしい。「のぞいちゃいな!」と言われて恐々覗いた穴の向こうに白装束の妖精が舞っていた。半信半疑で再度目を凝らすと、実は物干し竿に掛かった4体の藁人形だったという謎。ヴォーカルがありがちな絶叫・恫喝系ではなく、伸びやかな歌のお姉さんなのが逆に怖い。SMAPに曲を提供するという罪を犯したため、お茶の間にも侵入する貞子のようなオカルト趣味。
●SEBASTIAN X
2008年結成の男女4人組ギターレス・ロックバンド。永原真夏の意気のいいヴォーカルに渡辺美里や中村あゆみを思い出す。最新作『POWER OF NOISE』も弾けるハッピーオーラと120%の元気が爆発する爽快作。ギターがいない分、キーボードとベースとドラムが三つ巴で絡み合う演奏は瞬発力に富み、ライヴでは飛距離の分からない未知のパワーが内包されている。80年代J-POPが持っていた明るい希望を取り戻すポジティヴノイズが火花を散らす。
●Silent Siren
アイデンティティの確立のためには、別に奇人変人である必要はない、ということを証明するHARAJUKU KAWAii!!4人組。読モの夢が現実に転じたので、カメラ映えの見事さは流石デルモンテ。奇を衒わないまっすぐな純情が、この時代には逆に個性的。今でも"ハピルン"が合言葉かは分からないが、フロント3人が手を挙げてシンガロングする天心爛漫な女子力は「あなた方の心の中に黒く色どられていない処があったらすぐ電話をして下さい」と訴えているかの様。
愛のため
遺伝父に
恋せよ乙女
I LOVE I-DeN & TiTi.