浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】大野晋『日本人の神』(河出文庫)

2014-02-02 22:46:07 | 読書
 今日届いた本であるが、一日で読んでしまった。大野晋は国語学者、岩波書店の『古語辞典』の編纂者でもある。ボクはこの辞典が発売された時購入し、他の古語辞典は捨てた。大野晋の岩波新書などの本をいろいろ読み、大野学説に親近感を抱いたからだ。他の古語辞典は終止形で語が掲載されているが、大野の辞典は連用形である。

 さて本書は、日本のカミに関わる歴史的な変遷を、大野の豊富な古典文学の知識を背景にして追究したものだ。

 カミについての歴史的説明で、近世の国学の意義がよく理解できた。国学者の中でも本居宣長がやはり秀逸であったようだ。もちろん時代的制約もあり、「天皇家の統治の正当性を主張しようと整理し編集された『古事記』の内容を、彼はそのまま事実と受け取り、弥陀のの本願に帰依するように、それを信じてそれに従い、それを守ろうとした」(99頁)。

 『古事記』の成立に関する歴史研究は、津田左右吉の登場があってなし遂げられたのだが、本居はその認識に到達できなかった。仕方ないことである。

 しかしその本居が切り開いた説が、この後政治的な変動と直結するようになる。

 ところで、本書で大野はカミという語が指し示すものは何かを調べて明らかにしたのだが、そのカミという語は「輸入語」であるというのだ。上代仮名遣いでは、上のカミや鏡のカガミの「ミ」と、神の「ミ」とは語源が異なり、「カミの語源を日本語の内部に求めることは不可能」(13頁)とし、大野はインド南部のタミール語にそれを求める。このタミール語説はにわかには信じられないが、本書に書かれている内容は、日本の神に関して基本的な知識を与えてくれる。

 ボクにとっては、とても参考になった。
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「国富流出」?

2014-02-02 09:37:07 | 政治
 『毎日新聞』の論説。鋭く切り込んでいるので、読んでいただきたい。

社説:視点…「国富流出」の議論=論説委員・中村秀明
毎日新聞 2014年02月02日 02時30分

 ◇再稼働に絡ませるな
 「原発を止めたせいで巨額の国富が流出した」。過去最大になった貿易赤字の拡大と原発再稼働への思惑を絡ませるかのような主張が、政府や経済界などから繰り返されている。だが、それは乱暴な論法ではないか。貿易赤字と原発再稼働の是非は、切り離して多面的に議論すべき問題である。

 2013年の貿易赤字は11兆4745億円で過去最大となった。この赤字のうち4兆円近くは、東日本大震災後、原発の代わりに火力発電をフル稼働するため天然ガスや原油の輸入を増やしたせいだ、という。

 安倍晋三首相も先月29日の参院代表質問で「昨年、原発がないことで化石燃料の輸入に3.6兆円も多く支払った」と答えた。「だから早く再稼働を」と言いたいのかもしれないが、それは筋が違う。

 大震災前で原発が稼働中だった10年と13年を比べると、天然ガス輸入量は25%増えたが、原油輸入量は微減だった。ただし金額では天然ガスが倍増して約7兆円、原油は1.5倍の約14兆2000億円となった。輸入量がそんなに増えていないのは、「原発停止」に直面して節電意識が広がり電力需要が減ったことによる。

 一方、量の増加に比べ額の増え方が大きいのは、天然ガスと原油の国際価格上昇に加え、アベノミクスによる円安で円建て価格がふくらんだからだ。増加額のすべてを原発停止に絡めるのは短絡的だ。もともと日本の天然ガス輸入価格は欧米に比べ割高である。足元を見られている面もあるが、コスト意識の低い購入契約に問題がある。

 貿易赤字拡大は、天然ガスと原油の輸入増以上に、電子部品やスマートフォン、衣類などの輸入が増える一方で、円安が追い風になるはずの日本企業の製品輸出が伸びなかったためだ。国別では中国向けの赤字が5兆円超で、巨額の国富が中国に流れたとも言える。

 そもそも貿易赤字を「国富流出」といった表現で問題視するのがおかしい。国の成熟に伴って貿易赤字が増え、それを海外投資などの貿易外の黒字でまかなう構造に変わるのは自然なことだ。対中赤字も経済的な相互依存の深さを物語る。

 そして原発再稼働問題は、こうした議論とは切り離すべきだ。福島第1原発の事故は、国土の一部を人が住めなくなる状態に汚し回復の見通しもない。それはお金にかえられない国富の消失だった。再稼働の是非は徹底した安全性の議論が何より優先される。ソロバン片手に、前のめりになる話ではない。
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2014-02-02 09:14:05 | 日記
 今日の『毎日新聞』のコラム欄、「余録」に小笠原諸島にやってくるアオウミガメの話が書かれていた。そこに、


一つの巣に産みつけられる卵は約100個。夏から秋にかけ、ふ化したカメたちは砂からはい出し、海へ去っていく。ELNA(NPO法人エバーラスティング・ネイチャー)の分析では昨年ざっと8万頭が父島列島から海に入り、生き残って40年後に戻ってくるのは160頭ほどだという。

 8万頭のうち戻ってこられるのは160頭、ということは帰還率0・2%ということになる。オスは戻っては来ないだろうから、この帰還率は正確ではないが、しかしそれでも小笠原諸島で誕生した多くのアオウミガメの帰還数はきわめて少ないといえるだろう。

 このウミガメ、浜松市の海岸にも産卵する。しかし、海岸部は砂利に覆われている。帰ってきても上陸できない、上陸できても産卵場所がない、そういう状態になっている。

 帰ってきたアオウミガメは、40年前との違いに驚いていることだろう。

 人間は自然を破壊していく。浜松の海岸破壊は公共事業である。海岸侵食を防ぐという名目で天竜川から採取した砂利をまき散らしている。

 人間は、「公共」という名の下に自然を破壊する。その自然に人間は生かされているはずだが、それを顧みない奢りとともに生きる。

 辺野古の米軍新基地建設計画も同根だ。

 自然は、仕返しをするのではないか。

 でも、いつも思うのは、自然による仕返しは、弱い者に集中するということだ。自然も富裕層に優しいようなのだ。
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