浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

『世界』2月号

2020-01-21 08:48:23 | メディア
 『世界』2月号を昨日から読み始めた。「フィクション化する政治」という特集名に違和感を感じたことからなかなか読み出さなかった。

 特集の鏡に、「真実と虚構の境界線が、もはや意味を失いつつある」とあるが、岩波書店もそういう書籍を発行しているではないかという突っ込みをいれたくなる。しかしその文を読むと、フィクションに期待を寄せているようなのである。なるほど栗原康の歴史的事実をねつ造している「伊藤野枝伝」、『村に火をつけ、白痴になれ』は、そうした視点から刊行したのかと思ってしまう。しかし、実在の人物について「伝」とする以上、きちんとした事実の上に立たなければ、「伝」ではなく、著者の主観的著作物(フィクション)になってしまう。岩波はそうしたフィクションに期待をするのだろうか。ならばその場合、これはフィクションである、これは史実に基づいているものである、という「峻別」がなされるべきである。栗原のその本は、言うまでもなくフィクションである。
 特集において、斉藤美奈子氏は「抵抗するフィクションを探して」において、日本文学の中に、果敢に現実に挑む作品を紹介している。長い間、日本文学は、とりわけ純文学というものは、社会問題をネグレクトし、ひたすら自分自身のことをあーでもない、こーでもないなどとこねくり回してきた。そうした状況に切り込んだプロレタリア文学があったけれども、弾圧によって息の根をとめられてしまった。
 しかし戦後、社会問題を正面からとりあげたよい作品がでていることは私が指摘するまでもない。大岡昇平、五味川純平、小田実、野上弥生子・・・・・
 斉藤は、近年刊行された小説の中に、「抵抗」が描かれたものを紹介する。沖縄、アイヌをテーマにした作品群である。いずれも読みたくなる。斉藤は、「権力の横暴に抗って、虐げられた民衆が立ち上がる」という作品は、「人を動かす力があるのだよ、フィクションには」と記す。そうだろうと思う。
 斉藤美奈子氏の文は、できるかぎり読んでいる。小気味よく、批判精神旺盛で、内容がある。
 だが、栗原の先の本は、伊藤野枝という人間を誤った理解に誘うものだ。斉藤が紹介した本と、まったく異なる。岩波が、よくもこんな本を出したものだという評価をする人は多い。

 この『世界』2月号には、高木博志氏の「近代天皇制と「史実と神話」」という重要な論考がある。その結論は、史実と神話とを峻別せよ、というものだ。私も近代天皇制について調べたことがあるが、近代天皇制は神話と明治初期につくりだされた虚構によってなりたっている。近代天皇制のそうした本質は、戦後の歴史学が解き明かしてきたが、その際の手法として神話と史実とを峻別することであった。しかし近年、史実ではなく、神話を強調する流れがでてきている。神話の土俵でものごとが進んでいく。そのことに警鐘を鳴らしたものが、この高木氏の文である。

 昨日読んだのは、澤地久枝氏の「痛哭の記」。中村哲氏に対するテロ、それによる死について記したものだ。素晴らしい文章である。「メディア批評」も中村さんの死に言及している。それを取り上げた各社新聞社説の比較があるが、中村さんの非戦の願いをきちんととりあげたのが東京新聞、次いで毎日新聞、朝日新聞は「何とも曖昧」とする。朝日新聞らしい。朝日新聞は、いつでも曖昧にして逃げをつくる。朝日新聞は、ずるい書き方をする。それは昔からだ。むろん、読売、産経は言及する価値なし。

 そのほか、オリンピックの問題をとりあげた文、コンビニの問題を扱ったものを読んだ。

 今月号の『世界』はよい文が並んでいる。
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「国益」が削がれる?

2020-01-21 07:42:37 | 政治
 私は「国益」ということばが好きではない。「国益」といった場合、誰にとっての「国益」なのか。その多くは、支配層にとってのものであることがほとんどであるからだ。多くの場合、庶民にとって無関係な「国益」であることだ。

 さて韓国徴用工裁判で、戦争責任、植民地責任にほおかむりし、戦後補償を無視してきた自民党や安倍政権は、韓国に対して経済制裁を行った。制裁というか、いじめである。その所業は、上から目線で、韓国を東アジア経済の重要なパートナーであることに目をつむったものであった。

 確かに韓国にとって、大きな衝撃であった。しかし、韓国だって負けてはいない。何とその経済制裁を逆手にとってきちんと対応策をたててきた。要するに、日本に依存しない経済体制の構築である。

 ということは、安倍政権は、明確に「国益」を損なう政策を行った、ということである。

古賀茂明「安倍政権が甘くみた韓国の脱日本路線」
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