5月8日。新天皇陛下が即位され、元号も改まって最初となる、第107回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)をmass×mass関内フューチャーセンターにて開催いたしました。会場がほぼ満席となる、大勢の方にご参加いただき、厚く御礼申し上げます。
今回の講師は、横浜市金沢区でしいたけ農家を営む、㈱永島農縁の永島太一郎様。実は永島さんのお名前はYMSにも二度ほど登壇いただいている、パーソナルブランド・コンサルタントの山本秀行先生からずいぶん前にお名前を伺っていたのですが、この度ご縁がありYMSに来ていただくことができました。
永島農園さんは、横浜市金沢区で500年続く農家。横浜というと連想するのは港、あまり農業のイメージがありませんが、第21回YMSでもご紹介しました通り、実は県内有数の農業生産地なのです。神奈川県内に占める面積がそもそも大きいということもありますが、現在でも耕地面積県内1位、戸数1位、容易に想像できる通り典型的な都市型近郊農業です。
実は永島さんは農園がご実家ではありません。元は外資系の銀行員だったのですが、結婚を機に千葉県の農業法人で修業、東日本大震災を機に農園の後継者となりました。当時は先代からお花を栽培していたそうですが、2012年からしいたけ栽培を始め、14年からは温暖でも育つきくらげの栽培を始めました。
さて、ご承知の通り、日本の農業は全体としては衰退の一途です。1990年に480万人いた農業人口は480万人から181万人(2017年)、農地面積は524万ha→450万ha(2014年)、生産額は11.5兆円→8.4兆円(2014年)、平均年齢59.1歳→66.6歳(2015年)、家族経営体数297.1万体→134.4万体(2015年)等々。労働生産性は1,486円/時で、年換算で250万円でしかありません。
唯一著しく増加しているのは法人経営体数で、2,902体からなんと23,000体(2015年)と急激に増加しています。これは必ずしも悪いことではありませんが、日本の農業の様変わりを物語っています。なお日本最大の農業経営法人は、イオンアグリ創造株式会社だそうです。
農業は天候に左右されるため、需給調整が難しく相場が安定しません。食料自給率が低いことで有名な日本ですが、輸入があるため基本的には供給過剰、価格は低い相場で推移し続けている産業と言えます。加えてサプライチェーンが長く多数の中間マージンが介在すること、価格決定権が小売業側にあることなども生産者の収入が伸びない原因となっています。
それでも大規模農家は外国ほどではないにせよ、販売先さえ確保できればスケールメリットを生かした拡大の余地があるだろうということです。先のイオンアグリ創造さんはその例でしょう。しかし、小規模農家は同じ戦略という訳にはいきません。
そこで永島さんが進めてこられたのが、「志と地域貢献による農業経営」。具体的には第一次産業とされてきた農業の六次産業化。六次産業とは生産だけでなく、加工、流通販売も取り込む(一次+二次+三次=六次)ことで、小規模ながら付加価値を高めていくこと。お話しの中で表されたシンプルなメッセージは、「生産性だけ追求しても面白くない」、「経営として成り立つ農業をしているのか?」ということでした。こうした視点は、永島さんが元々全く「畑違い」の仕事をされていたという経歴とも無関係ではないように思います。
これを実現するため、都市型近郊農業という特性を活かし、市内の優良個人店と共存共栄を図り出口を広げること、しいたけを使ったビールやラーメンなど既存概念にとらわれない商品開発で、生産物の用途拡大に伴う食文化・地域文化を創造すること。同業者や関係業者との連携による体制の強化。地域の様々な団体との交流によりブランド価値を高めることなど、永島さんは実に多様な活動に取り組んでおられます。「~のため」というのは理由の一部かもしれません、「それが好きだから」ということも大いに関係しているように感じました。いかなる分野に属していようと、形は違っても永島さんは何かをされるのだと思います。
「衣・食・住」といわれるように、この世の中に「食」と無関係な人はいません。ゆえに農業はあらゆる分野と連携し、その可能性を広げる潜在能力を持っていると言います。既に取り組まれている一例としては、土いじりのような情操教育から大学との連携による地域づくりといった高等教育に至るまでの教育分野。地道な作業が大切、土に触れ身体を動かすことがもたらす癒しの効果という農業の特性を活かした、福祉分野。無農薬で子供たちが毎年ホタルを見られる畑づくりを目指す、地域創造分野。まだまだ健康分野や観光分野など多くの可能性が考えられると言います。スポーツだってあるかもしれません。
一方で、因習的体質や長期的に衰退してきた諦め感、他の産業との感覚の相違など課題も多くあるようです。お話し全体を通じて感じたことですが、衣類のリサイクルが持つ可能性・課題と共通する部分が数多くあるように思いました。
追伸:今回でYMSの累計参加者数が、西暦と同じ2019名となりました。
過去のセミナーレポートはこちら。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした