奈良のお土産で、蘇(酥)をもらいました。蘇というのは、古代、牛乳を煮詰めて造られた乳製品のことで、奈良時代の貴族の間では滋養の珍味として珍重されました。この蘇をさらに加工して作られたものを醍醐といい、物事の深い味わいをあらわす「醍醐味」はこれに由来すると言われています。
説明書きによれば、日本最古の医術書である「医心方」には、蘇が五臓の気を補給し、大腸を良くし、口中の潰瘍を治療するとあります。さらに「朝早く空腹の時に温めた酒に上等の蘇を溶かして飲む」と陰萎縮(インポテンツ)の治療に良いとあり、まさに滋養強壮の薬でもあったことが分かります。
尤も、奈良時代に比べればはるかに栄養過多の状態にある現代日本人に同様の効能が見られるかは疑問です。
さて、中身ですが、こんな感じです。煮詰める過程で乳脂肪が焦げたのか、褐色をしており、カチカチに固まっています。もっと柔らかい感じを想像していたので、これは意外でした。味はチーズが一番近いですね。甘味料に乏しかった古代であればいざ知らず、美味甘味に溢れた現代の我々にとっては、お世辞にも美味しいとは言えません。ただ、紅茶に合わせるとチーズケーキのようでよく合いましたので、イチゴと一緒に食べるとか、ジャムを添えるなど、一工夫すれば美味しく食べられるかもしれません。
蘇というと、連想することが二つあります。一つは「三国志」がお好きな方ならご存知、楊修の「一合酥」のエピソード。もう一つは白隠禅師が伝えたとされる「軟酥の法」です。
ある時、魏の曹操は、辺境から送られてきた酥の箱に「一合酥」と記して、机の上に置いておきました。そこに入ってきた、頭脳明晰で知られた楊修は、勝手に皆で曹操の酥を食べてしまいました。後で曹操が勝手に食べた理由を尋ねたところ、楊修は「箱に一合酥(分解すると一人一口酥と読める)と書いてありましたので、丞相(曹操)の命に背くこともできず、食べてしまいました」と答えたそうです。楊修はこうした小賢しさが災いし、後に「鶏肋」の故事で有名な、漢中からの曹操軍の撤退を独断で陣中に触れ回ったかどで曹操により処刑されてしまいます。
もう一つ、「軟酥の法」ですが、これは何年か前に某ホテルの社長によって有名になった「内観の法」と共に、江戸時代の禅僧、白隠禅師が『夜船閑話』で伝えた、いわば精神療法です。
頭の上にとびきり上等の柔らかい酥がのっていると想像します。その酥が溶けて、頭のてっぺんから次第にその素晴らしい香りや味わいと共に、じわじわと身体の中にしみこんでいくところをイメージします。酥が溶けて身体を伝っていく様が実感を伴っていることが大切です。やがて酥は身体を温めながら四肢に至り、土踏まずのところで止まります。こうしたイメージトレーニングを繰り返すことで、身体を緊張から解きほぐし、自然治癒力を高めます。これが「軟酥の法」です。ヨガの瞑想や気功法と同じですね。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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