伶楽舎 第7回雅楽演奏会 「武満徹:秋庭歌一具」 10/2

伶楽舎第7回雅楽演奏会(伶楽舎創立20周年記念/武満徹生誕75年記念)

芝祐靖 瑞霞苑
武満徹 秋庭歌一具

演奏 伶楽舎

2005/10/2 14:00 サントリーホール大ホール

先月に聴いた、サントリー音楽賞コンサートでの伶楽舎の雅楽演奏。その時の音色が忘れられず、今度は伶楽舎の定期公演へ行ってきました。いわゆる現代音楽家の武満徹の曲が演奏されるとは言え、雅楽のみのコンサートを聴くのは今回が初めてです。

一曲目の「瑞霞苑」は、伶楽舎の音楽監督であり、また龍笛の奏者でもある芝祐靖氏が作曲した音楽です。曲の冒頭部分の参入音声(まいりおんじょう)では、奏者自身が歌声を響かせながらステージへ入場してくるわけですが、そのゆったりとした足取りと高らかな声は、ホールの空間を、日常の喧噪からは離れた「異次元」へと変換させます。雅楽の生み出す独特な「場」の誕生です。「瑞霞苑・道行」(ずいかえん・みちゆき)からは管弦楽が開始され、笙や篳篥(ひちりき)の音が、深い呼吸の元に大きく広がっていき、また静かに収斂していきます。そしてステージ上には、左右から次々と舞人が登場し、この「場」の空気と戯れるような、穏やかな舞いが披露されます。この「瑞霞苑」は、皇居の紅葉山から道灌山へ至る小径の、「深山幽谷」のような有様を描いた作品だそうですが、ゆっくり目を閉じて雅楽の音に耳をはせると、まるで鬱蒼とした森の中で、木々から湧き立つ湿り気を肌に吸い取りながら、その美しい音に酔っているような気持ちにさせられます。ホールの強い残響が、雅楽の生み出す音と相容れないようにも思いましたが、まさに美しい自然が目の裏に浮かぶような音楽です。

そして二曲目は、伶楽舎が得意としている武満徹の「秋庭歌一具」です。こちらの曲は、「瑞霞苑」よりも、やはり西洋音楽的とでも言うのか、曲の構成や音の組み立てに配慮がなされているようで、笙などはそれこそオルガンのように響くのですが、舞台中央や左右に配された奏者が作り出す響きは、透明感と瑞々しさに溢れています。独立して演奏される機会の多い、この曲の中心部分の「秋庭歌」は、ひんやりとした冷気を音に纏わせながら、葉も落ち、生き物は冬ごもりを始め、光は弱く柔らかくなっていくような、一抹の寂しさを伴う秋特有の美しさを巧みに表現しています。「秋庭歌」から、笛と木鉦が交錯する「吹渡二段」、そしてこれまでの全ての響きを吸収するかのように、素朴に訥々と木鉦が鳴る終結部の「退出音声」。龍笛と太鼓が温かく絡み合い、笙が大きな「場」を作る。「聴く」というよりも「浸る」という世界でしょうか。

キャパシティが大き過ぎたのか、会場にはかなりの空席が目立ちましたが、大地や空と共鳴し合っているかのような雅楽の響きは、耳に体に、時には険しくも優しく響いてきます。伶楽舎のコンサートは、これからもチェックしていきたいです。
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