都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「長谷川等伯と狩野派」 出光美術館
出光美術館
「長谷川等伯と狩野派」
10/29-12/18
出光美術館で開催中の「長谷川等伯と狩野派」へ行って来ました。
つい2年前、東京国立博物館で行われた長谷川等伯展をご記憶の方も多いかもしれません。
今回はその長谷川等伯を筆頭とする長谷川派の系譜を、当時の画壇を席巻した狩野派との関連に注意しながら辿っています。
展示は屏風、しかも六曲一双の大きな作品がメインです。「正信」印にはじまる一連の狩野派から長谷川等伯、そして等伯の系譜を継いだ長谷川派の屏風がずらりと並ぶ様子はなかなか壮観でした。
展覧会の構成は以下の通りです。
第一章 狩野派全盛
第二章 等伯の芸術
第三章 長谷川派と狩野派-親近する表現
第四章 やまと絵への傾倒
冒頭は狩野派です。華麗な屏風が気持ちを高めてくれます。
桃と桜、さらには海棠までを贅沢にあしらった狩野長信の「桜・桃・海棠図屏風」を見ていると、なかなか同じ時期では叶わない三者三様のお花見を一緒に楽しんでいるような気持ちにさせられました。
初期狩野派にとっては扇絵は重要な収入源だったそうです。狩野松栄、秀頼合作の「扇面貼付屏風」には、様々な名所絵などが描かれています。
後に扇絵は宗達に代表されるような俵屋に流行が移りますが、様々な需要に応えた狩野派ならではの作品と言えるかもしれません。
「竹虎図屏風」(右隻) 長谷川等伯 桃山時代 出光美術館
ちらしの表紙を飾った等伯の「竹虎図屏風」もさすがの貫禄です。
前屈みになった人なっこい表情の虎にも惹かれますが、やはりここで魅力的なのは巧みに取り入れた大気、とりわけ風の表現です。
松林図の例をあげるまでもなく、等伯の大気と光の表現は非常に優れたものがありますが、ここでも斜めに吹く風の描写が屏風の空間全体に動きを与えています。
またこの作品では探幽の認めた印にも要注目です。
これは探幽がこの作品を補筆、鑑定した時に記したものですが、そこには中国の周文の作であるとされています。
現在でこそ筆致などから、等伯の真筆で間違いないということですが、等伯と狩野派の関わりを知る一つの例でもあるのかもしれません。
さて今回の展示で私がとても嬉しかったのは、等伯が学んだという中国の牧谿が二点ほど出ているということです。
それこそ等伯は得意とする大気の描写などをこうした画家らから吸収しましたが、中でも「平沙落雁図」の深淵な美しさは松林図に匹敵するとしても過言ではありません。
点々と連なる小さな雁と眼下の葦の茂み、そして墨のぼかしによる茫洋たる空が無限に広がる様はいつ見てもぐっと心を掴まれます。
実は私自身、この作品は墨画の風景画の中でも蕪村の夜色楼台図と並んで大好きなのですが、久しぶりに見られて感激もひとしおでした。
さて等伯の大気と光の表現を楽しめる作品は何も『竹に虎』だけではありません。
『竹に鶴』を組み合わせた「竹鶴図屏風」においても、等伯の硬軟使い分けた巧みな筆さばきを味わうことができます。
比較的精緻に描かれた鶴に対し、背景の竹の描写は大胆で、ぼかしによろ光の表現、そして跳ねるようなタッチによる落葉など、こうも筆が変幻自在に操られるものかと強く感心させられました。
さて何かと対比的に捉えられる長谷川派と狩野派ですが、むしろ両者の類似性に注目しているのが今回の面白いところです。
その最たる例が長谷川派と狩野常信によるほぼ同じ主題の「波濤図屏風」でした。
もちろん波の色遣いなど、細部の描写こそかなり異なりますが、中央に奇岩を配し、そこへ粘り気を帯びた波が襲う構図などは、一見するとかなり似ています。
狩野派にだけ水鳥が舞っていた点と、長谷川派作品の方が奥行き感を強調していたのは興味深いところでしたが、こうも似通った作品がまさか両派にあるとは思いもよりませんでした。
展示の最後を締めるのは、当時大いに流行したという「柳橋水車図屏風」です。
元々は長谷川派が草案し、狩野派の画家も多く描いたという作品ですが、派手な金彩や図像的な柳など、全体としめはかなりデコラティブであるという印象を受けました。
「桜・桃・海棠図屏風」(部分) 狩野長信 桃山時代 出光美術館
それにしても出品作の全てが館蔵品であることには、改めての出光美術館の懐の深さを思いしらされます。
作品自体にはさほど新鮮味はないかもしれませんが、細かな解説パネルなど、丁寧な構成にも好感が持てました。また図録も用意されています。
「もっと知りたい長谷川等伯/東京美術」
12月18日までの開催です。
「長谷川等伯と狩野派」 出光美術館
会期:10月29日(土)~12月18日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~17:00 毎週金曜日は19時まで開館。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ日比谷線・千代田線、都営三田線日比谷駅、東京メトロ有楽町線有楽町駅、帝劇方面出口より徒歩5分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
「長谷川等伯と狩野派」
10/29-12/18
出光美術館で開催中の「長谷川等伯と狩野派」へ行って来ました。
つい2年前、東京国立博物館で行われた長谷川等伯展をご記憶の方も多いかもしれません。
今回はその長谷川等伯を筆頭とする長谷川派の系譜を、当時の画壇を席巻した狩野派との関連に注意しながら辿っています。
展示は屏風、しかも六曲一双の大きな作品がメインです。「正信」印にはじまる一連の狩野派から長谷川等伯、そして等伯の系譜を継いだ長谷川派の屏風がずらりと並ぶ様子はなかなか壮観でした。
展覧会の構成は以下の通りです。
第一章 狩野派全盛
第二章 等伯の芸術
第三章 長谷川派と狩野派-親近する表現
第四章 やまと絵への傾倒
冒頭は狩野派です。華麗な屏風が気持ちを高めてくれます。
桃と桜、さらには海棠までを贅沢にあしらった狩野長信の「桜・桃・海棠図屏風」を見ていると、なかなか同じ時期では叶わない三者三様のお花見を一緒に楽しんでいるような気持ちにさせられました。
初期狩野派にとっては扇絵は重要な収入源だったそうです。狩野松栄、秀頼合作の「扇面貼付屏風」には、様々な名所絵などが描かれています。
後に扇絵は宗達に代表されるような俵屋に流行が移りますが、様々な需要に応えた狩野派ならではの作品と言えるかもしれません。
「竹虎図屏風」(右隻) 長谷川等伯 桃山時代 出光美術館
ちらしの表紙を飾った等伯の「竹虎図屏風」もさすがの貫禄です。
前屈みになった人なっこい表情の虎にも惹かれますが、やはりここで魅力的なのは巧みに取り入れた大気、とりわけ風の表現です。
松林図の例をあげるまでもなく、等伯の大気と光の表現は非常に優れたものがありますが、ここでも斜めに吹く風の描写が屏風の空間全体に動きを与えています。
またこの作品では探幽の認めた印にも要注目です。
これは探幽がこの作品を補筆、鑑定した時に記したものですが、そこには中国の周文の作であるとされています。
現在でこそ筆致などから、等伯の真筆で間違いないということですが、等伯と狩野派の関わりを知る一つの例でもあるのかもしれません。
さて今回の展示で私がとても嬉しかったのは、等伯が学んだという中国の牧谿が二点ほど出ているということです。
それこそ等伯は得意とする大気の描写などをこうした画家らから吸収しましたが、中でも「平沙落雁図」の深淵な美しさは松林図に匹敵するとしても過言ではありません。
点々と連なる小さな雁と眼下の葦の茂み、そして墨のぼかしによる茫洋たる空が無限に広がる様はいつ見てもぐっと心を掴まれます。
実は私自身、この作品は墨画の風景画の中でも蕪村の夜色楼台図と並んで大好きなのですが、久しぶりに見られて感激もひとしおでした。
さて等伯の大気と光の表現を楽しめる作品は何も『竹に虎』だけではありません。
『竹に鶴』を組み合わせた「竹鶴図屏風」においても、等伯の硬軟使い分けた巧みな筆さばきを味わうことができます。
比較的精緻に描かれた鶴に対し、背景の竹の描写は大胆で、ぼかしによろ光の表現、そして跳ねるようなタッチによる落葉など、こうも筆が変幻自在に操られるものかと強く感心させられました。
さて何かと対比的に捉えられる長谷川派と狩野派ですが、むしろ両者の類似性に注目しているのが今回の面白いところです。
その最たる例が長谷川派と狩野常信によるほぼ同じ主題の「波濤図屏風」でした。
もちろん波の色遣いなど、細部の描写こそかなり異なりますが、中央に奇岩を配し、そこへ粘り気を帯びた波が襲う構図などは、一見するとかなり似ています。
狩野派にだけ水鳥が舞っていた点と、長谷川派作品の方が奥行き感を強調していたのは興味深いところでしたが、こうも似通った作品がまさか両派にあるとは思いもよりませんでした。
展示の最後を締めるのは、当時大いに流行したという「柳橋水車図屏風」です。
元々は長谷川派が草案し、狩野派の画家も多く描いたという作品ですが、派手な金彩や図像的な柳など、全体としめはかなりデコラティブであるという印象を受けました。
「桜・桃・海棠図屏風」(部分) 狩野長信 桃山時代 出光美術館
それにしても出品作の全てが館蔵品であることには、改めての出光美術館の懐の深さを思いしらされます。
作品自体にはさほど新鮮味はないかもしれませんが、細かな解説パネルなど、丁寧な構成にも好感が持てました。また図録も用意されています。
「もっと知りたい長谷川等伯/東京美術」
12月18日までの開催です。
「長谷川等伯と狩野派」 出光美術館
会期:10月29日(土)~12月18日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~17:00 毎週金曜日は19時まで開館。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ日比谷線・千代田線、都営三田線日比谷駅、東京メトロ有楽町線有楽町駅、帝劇方面出口より徒歩5分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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