「ザ・ベスト・オブ・山種コレクション」(前期) 山種美術館

山種美術館
「ザ・ベスト・オブ・山種コレクション 前期展示 江戸絵画から近代日本画へ」
11/12-12/25(前期) *後期:2012/1/3-2/5



山種美術館で開催中の「ザ・ベスト・オブ・山種コレクション 前期展示」のプレスプレビューに参加してきました。

広尾移転から早くも2年を経過し、ますます意欲的な展覧会を続ける山種美術館ですが、約半世紀に渡る長い歴史の間に蒐集されてきた日本画の名品は全く色あせることはありません。

今回、開館45周年にあわせ、同館顧問の山下裕二氏をして「蔵が深い。」と言わしめる1800点もの日本画コレクションのうち、選りすぐりの約80点が一同に展示されることになりました。

展覧会は作品総入替による完全2期制です。現会期の前期(11/12-12/25)のテーマは「江戸絵画から近代日本画へ」です。春信、写楽らの浮世絵にはじまり、抱一、又兵衛らの江戸絵画、そして大観や映丘、さらには栖鳳に松園などの近代日本画の名品、約40点が登場していました。(出品リスト


左、岩佐又兵衛「官女観菊図」(17世紀前半)。右、池大雅「指頭山水図」(1745年)

冒頭は2010年、重文指定を受け、お披露目展もあった岩佐又兵衛の「官女観菊図」がお出迎えです。繊細な線描、および白絵ならではの品のある画風は、ここ新山種の巧みなライティング効果などによって、さらにより際立って見えること間違いありません。その幽玄かつどこか妖艶な描写を目と鼻の先で楽しむことが出来ました。

また又兵衛の隣に展示された池大雅の「指頭山水図」も忘れられません。指頭ということで、筆ではなく指によって描かれた山水の光景は、その桃色にも滲む色彩の効果もあってか、どこか西洋の印象派絵画を思わせるような面があるのではないでしょうか。その長閑でかつ叙情的な風景にしばし見入りました。


左、酒井抱一「秋草鶉図」(19世紀前半)。右、伝俵屋宗達「槙楓図」(17世紀前半)

千葉市美の抱一展からあまり期間をあけることなく抱一と再会です。抱一からは2点、「飛雪白鷺図」と「秋草鶉図」が展示されています。リズミカルな秋草と戯れる鶉は何やら微笑ましい情景を生み出してはいないでしょうか。琳派の祖、宗達作とも伝えられる「槙楓図」と並べてある展示もまた好印象でした。


右、下村観山「老松白藤」(1921年)

私として今回、是非とも一推しにしたいのが下村観山の「老松白藤」です。六曲一双の金地の大画面に、まるで人が両手を左右に振ったかのように枝を伸ばす老松が力強く描かれています。対比的に柔らかなタッチによる藤との絡み合いも魅惑的ですが、この老松から発せられる迫力はそれこそ巨木様式の狩野派の絵画を連想させるものがありました。


菱田春草「月四題」(1909-10年頃)

かの速水御舟と並び、私が近代日本画家の中で特にひかれているのが菱田春草ですが、その春草からは一点、「月四題」が4幅揃いのセットで展示されています。朧月にともる桜、またどこかか弱くともる冬の月の下での老木など、その情景描写からはどことない儚さを感じてなりません。

あくまでも控えめな光はまさに抱一の銀屏風さながらの微光感覚に共通します。実のところ私が春草を初めて意識したのが、旧三番町の時の山種で見たこの作品でした。

そう言えば半蔵門から足繁く通った三番町の山種美術館は、私にとって日本画の魅力を最初に教えてくれた場所でもありました。こうした名品展に際し、改めてその作品との出会いの時を思い出していくのも、鑑賞の一つの醍醐味なのかもしれません。


右、松岡映丘「春光春衣」(1917年)

極上の松岡映丘がお待ちかねです。「春光春衣」の輝かしい色彩には思わず目を奪われた方も多いのではないでしょうか。藤原時代の貴女に取材したという本作は、まさに映丘の古典回帰の真骨頂ではありますが、その衣の装飾的な描写をはじめ、風に舞って散る桜吹雪などの動きのある構図感は、どこか前衛的とも称せるかもしれません。練馬の映丘展の記憶も甦ります。色に構図に衝撃の一枚でした。


速水御舟「名樹散椿」(1929年)

展示の締めは偏愛の御舟から「名樹散椿」です。こちらは第二会場、暗室での展示でしたが、照明の効果もあるのか、蒔かれた金砂子や椿の色がいつもよりさらに際立って映ります。なお御舟はもはや山種美術館の顔とさえ言える存在ですが、前期ではこの1点、後期には一挙7点ほど出品されるそうです。そちらも楽しみです。

さて今回、45周年記念展ということで、関連のグッズも充実しています。


カフェ椿「特製和菓子」各種

まずはお馴染みカフェ椿から特製和菓子です。このコレクション展にあわせ、前期後期あわせて10点の和菓子がメニューに加わりました。


「ほうれんそう」のポットパイ

またちょっと面白いのが、このほうれんそうのポットパイです。何故にここで「ほうれんそう」と思われるかもしれませんが、実はビジネス用語としても知られる「報告・連絡・相談」の「ほうれんそう」の用語は、山崎富治名誉館長が考案した言葉なのだそうです。それをパパスカフェが今回、パイに仕上げました。中のソースも濃厚です。じっくり楽しみたい一品でした。


速水御舟はがきセット

グッズで断然一推しは京都の老舗「鈴木松風堂」による紙箱です。実はこれは同館の速水御舟絵葉書25枚とセットで販売されていますが、箱のみでも購入(1000円)が出来ます。


「鈴木松風堂」紙箱各種

カラーバリエーションも梅やあやめ、からしなどと豊富です。葉書入れだけではなく、小物などに入れるのにも重宝するのではないでしょうか。松園の着物をイメージしたという紋様も極めて上質感があります。是非お手にとってご覧ください。

図録に思わぬサプライズ記事がありました。山種美術館では今回の記念展にあわせ、同館と縁の深い方々に「私が選ぶ山種コレクションベスト3」というアンケートを依頼しています。その回答(回答者84名)が集計、図録に一覧となって掲示されているわけです。一位は速水御舟の「炎舞」、二位は村上華岳の「裸婦図」、三位は竹内栖鳳の「班猫」でした。

それにしてもこの回答された方々が各方面にわたっているのには驚かされます。まさか森美術館の南條氏や玉蟲先生のベストが載っているとは思いませんでした。ここは要チェックです。

なお初めにも触れましたが、本展は途中一度の展示替えを挟んでの完全二期制です。

「ザ・ベスト・オブ・山種コレクション」講演会・特別鑑賞会
講演会タイトル:「山種コレクションの魅力-画家との交流を中心として」
日時:2012年1月14日(土)17:15~18:30
講師:山崎妙子(山種美術館館長) *申込はWEBサイトを参照。

前期展示は12月25日まで開催されています。

「ザ・ベスト・オブ・山種コレクション」 山種美術
会期:前期:11月12日(土)~12月25日(日) 後期:2012年1月3日(火)~2月5日(日)
休館:月曜日。但し1/9は開館。12月26日(月)~1月2日(月)、1月10日(火)
時間:10:00~17:00
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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