「日常/ワケあり」 神奈川県民ホールギャラリー

神奈川県民ホールギャラリー
「日常/ワケあり」
10/18-11/19



神奈川県民ホールギャラリーで開催中の「日常/ワケあり」展へ行ってきました。

伝統のあるホールとして様々なコンサートが行われてきた神奈川県民ホールですが、その一角にて今、インスタレーションをメインとした現代アートの展覧会が開催されています。

それが「日常/ワケあり」展です。そもそも会場のギャラリーは当初、いわゆる美術展のスペースとして開設されたわけではなく、あくまでもホールの施設の一部に過ぎませんでしたが、今回はそうした言わば『ワケあり』の空間にアートを持ち込みました。

出品作家は以下の三名です。

江口悟(1973~)
田口一枝(1975~)
播磨みどり(1976~)


1970年代生まれの比較的若い世代のアーティストです。いずれも現在、ニューヨークで活動しているとのことでした。


江口悟「TWINS」2011年

さてトップバッターを飾るのが江口悟です。入った瞬間、柱の並ぶ中、机や椅子、それにリュックサックなどの既製品を意味ありげに展開したインスタレーションかと思いましたが、よくよく近づいて見るとそれらの殆どが意外なもの出来ていることがわかりました。



ずばりこれらは江口が紙や紙粘土で制作したオブジェです。植木鉢やパン、それにリュックはおろか、何と柱までの全てが『それらしきもの』に過ぎません。



一見、日用品に見えるものが半ばフェイクであると分かった時、何とも痛快なまでの『やられた』という意識に襲われました。



しかしながらこれらのオブジェ、さらに注意すると一部、本物も混じっていることが見て取れます。植木鉢の乗る二つの机は下が本物です。



また天井などに出現したフェイクのコンセントを見ていると、室内にある本物のコンセントまでがそうしたものに見えてきました。



それに2つの展示室の置かれたモノの微妙にずれた位置関係も見逃せません。フェイクと本物、そして2つの空間の間にあるブレやズレこそが、作品全体の大きな魅力でした。

さて一転、暗室にて壮大なインスタレーションを展開したのが田口一枝です。


田口一枝「Llum/Stream」2011年

その美しさは写真からも伝わるのではないでしょうか。天井から螺旋状に吊るした何本ものシルバー・フィルムに光を当て、あたかも瞬く星々の浮かぶ宇宙のような空間を作り上げています。



光り輝き時に闇に沈むテープはどこか有機的とも言えるかもしれません。絡み合いまとまりつくテープ同士は官能的ですらありました。



またここでは影にも要注目です。移ろいゆく光の波紋全体に体が包まれる体験はとても心地よいものがありました。


田口一枝「Llum/Surface」2011年

なお田口はもう一つの展示室で今春、銀座の「ポーラアネックス展」にも出品のあった作品のシリーズも展開しています。



こちらも光と影の織りなす淡いコントラストが美しい作品でした。

さてこうしたきらびやかな田口の作品とは異なり、寡黙でかつ内省的なインスタレーションを手がけたのが播磨みどりでした。


播磨みどり「Passengers」2011年

二つのスクリーンに挟まれた長細い空間には鳥や犬、それに人などの動物のオブジェが置かれています。



前後のスクリーンにはベイブリッジを望む横浜港など、横浜の風景が写されています。そしてこの廊下へ迷いこんで逃れられなくなってしまったような動物たちはまるで亡骸のように表情がありません。それに動物の表面に貼られた様々な画像も奇妙な雰囲気を醸し出していました。


播磨みどり「NEGATIVESCAPE(House)」2011年

この奇異な感覚は播磨のラストの作品「NEGATIVESCAPE(House)」で頂点に達します。暗室に突如、巨大な家が登場しますが、そこには人の気配も生活の匂いもまるでありません。例えれば森の奥深くの廃墟と化した家に辿り着いたかのような薄気味悪さを感じました。

実はこの作品は家が投影されたものに過ぎず、しかも家が本来的に持つ機能すら備えていません。入口をくぐった先は再び外の世界でした。



家に写る自分の影がまるで幻のように見えるかもしれません。日常を通り越し、非日常との合間を彷徨いながら辿り着いた先に待ち構えていたのは、このような実在感の極めて希薄な、どこか冥界とも言える空間でした。

空間からすると出品数は決して多いとは言えませんが、日常の感覚を揺さぶってくるような展示にはなかなか感心させられました。

なお会場は全て撮影が可能です。有り難くも入口には「ブログ等にどうぞご活用下さい。」との掲示までありました。

11月19日まで開催されています。

「日常/ワケあり」 神奈川県民ホールギャラリー(@kanaken_gallery
会期:10月18日(火)~11月19日(土)
休館:会期中無休
時間:10:00~18:00 *11/5、12、19の各土曜日は19時まで。
住所:横浜市中区山下町3‐1
交通:みなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩約6分。JR線関内、石川町両駅より徒歩約15分。横浜市営地下鉄関内1番出口より徒歩約15分。
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