「ボストン美術館 日本美術の至宝展」記者発表会

「東洋美術の殿堂」ともうたわれるボストン美術館の日本美術コレクションが一堂に会します。「ボストン美術館 日本美術の至宝展」記者発表会に参加してきました。



明治時代、東京美術学校の設立にも尽力したアーネスト・フェノロサをはじめ、コレクターのビゲローなど、日本美術に造形の深い人物が事業に関わっていたことでも有名なボストン美術館ですが、来春、いよいよその彼らの眼によって蒐集された極上の日本美術コレクションが里帰りしてきます。


「ボストン美術館 日本美術の至宝展」記者発表会にて解説を行う、東京国立博物館絵画・彫刻室長田沢裕賀氏。

それが2012年3月の東京国立博物館を皮切りに、名古屋ボストン美術館、九州国立博物館、そして大阪市立美術館へと巡回する「ボストン美術館 日本美術の至宝展」です。



かつて1983年に東京国立博物館で「ボストン美術館所蔵 日本絵画名品展」が開催されたことがありましたが、以来おおよそ20年、再びまとまった形にてコレクションが公開されることになりました。

総出品数は計92点、うち初出品作は27点です。うち染織(10点)と刀剣が含まれますが、それは東京会場のみで公開されます。(他会場は絵画のみの展示。)なお出品数は1983年展を上回ります。まさに過去最大の「ボストン美術館日本美術コレクション展」というわけでした。



さて既にインパクト絶大の早チラシでご存知の方も多いかもしれませんが、今回の展覧会の最大の目玉が鬼才、曾我蕭白の「雲龍図」に他なりません。

実はボストン美術館では数年前よりビゲロー寄贈100周年を記念して、館蔵品の大規模な修復作業が行われてきました。


雲龍図(部分) 曽我蕭白筆 江戸時代・宝暦13年

今回も絵画が16点、染織が10点ほどの作品が修復を終えて公開されることになりますが、その最大の注目作こそが「雲龍図」です。



そもそも「雲龍図」は1911年にボストン美術館に収蔵された時には襖から剥がれた状態、つまりはめくりの状態で収蔵されてきました。


「雲龍図」修復の様子

それに絵具の剥離、紙自体の損傷の他、蕭白以降の何者かによる補筆が行われているなど、作品の状態はお世辞にも良いものではありませんでした。


「雲龍図」修復の様子

その「雲龍図」をボストン美術館ではおおよそ5年前から修復に取り組んでいます。実は修復は今も進行中であり、まだ完全に終わっていませんが、その目処のつく予定の来春、とうとう日本で展示されることになりました。


ボストン美術館アジア修復部フィリップ・メレディス氏

なお作品の出自はあまり明らかではありませんが、蕭白が34歳の時、おそらくは寺院の襖のために描いたとされているそうです。その後もどういう経緯で襖から剥がされたのかは不明ですが、最終的にはビゲローの眼にとまって、ボストン美術館へと収められました。

当然ながら世界初公開です。図版画像でもこれほどのインパクトです。実物を見たらそれこそ度肝を抜かれるかもしれません。

さて今回の展覧会では「雲龍図」と並んで、またさらに重要な作品が日本で公開されます。


吉備大臣入唐絵巻 (部分) 平安時代・12世紀

それが「吉備大臣入唐絵巻」と「平治物語絵巻」です。吉備真備の遣唐使での活躍をユーモラスな視点で描く「吉備大臣入唐絵巻」と、平治の乱を時に激しいタッチで示した「平時物語絵巻」は、全く性格もコンセプトも異なる作品ですが、ともに日本国内にあれば国宝級の傑作絵巻として知られてきました。

これらは「雲龍図」のように世界はもちろん、日本で初めて公開されるわけではありませんが、その公開の程度が極めて重要です。

というのも例えば「吉備大臣入唐絵巻」は奈良国立博物館で開催された「大遣唐使展」でも出ましたが、その際はボストン美術館側の要請もあり、約1メートルほどしか展示されていませんでした。


平治物語絵巻「三条殿焼討巻」一巻 (部分) 鎌倉時代・13世紀

それが今回は全巻公開されるわけです。全4巻、あわせて24メートルの「吉備大臣入唐絵巻」の展示はさぞかし壮観なものになるのではないでしょうか。もちろん「平治物語絵巻」も同様です。なおこの「平治物語絵巻」は他に2巻(信西巻、六波羅行幸巻)が国内に所蔵(静嘉堂文庫、東京国立博物館)されていますが、そちらもほぼ同時期に東京国立博物館で公開されます。この展示も大きな話題となること間違いありません。

さてボストン美術館の日本美術コレクションは、さも日本美術史を俯瞰するかのような幅広い時代の作品を蒐集していることでもよく知られています。

[展覧会の構成]
第一章 仏のかたち 神のすがた
第二章 海を渡った二代絵巻
第三章 静寂と輝き(中世水墨画と初期狩野派)
第四章 華ひらく近世絵画
第四章 奇才 曾我蕭白
第五章 アメリカ人を魅了した日本のわざ(刀剣と染織) *東京展のみ


今回の出品作の一部が記者発表会でスライドにて紹介されました。その一部を下にあげておきます。


法華堂根本曼荼羅図 奈良時代・8世紀


普賢延命菩薩像 平安時代・12世紀中頃


弥勒菩薩立像 快慶作 鎌倉時代・文治五年


金山寺図扇面 伝狩野元信筆 景徐周麟賛 室町時代・16世紀前半


松に麝香猫図屏風 伝狩野雅楽助筆 室町時代・16世紀中頃


龍虎図屏風 長谷川等伯筆 江戸時代・慶長11年


四季花鳥図屏風 狩野永納筆 江戸時代・17世紀後半


松島図屏風 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀前半


ほう居士・霊昭女図屏風 曾我蕭白筆 江戸時代・宝暦9年


虎渓三笑図屏風 曽我蕭白筆 江戸時代・18世紀後半


小袖 白綸子地松葉梅唐草竹輪模様 江戸時代・18世紀


奈良時代の仏画にはじまり快慶の仏像、そして中世水墨画から初期狩野派、さらには宗達派、光琳と近世絵画へと続きます。また蕭白単独で一章用いられるのも重要です。来年は千葉市美術館でも曾我蕭白展が開催されることもあり、蕭白イヤーになるかもしれません。



それでは改めて展覧会の概要を整理します。

「ボストン美術館 日本美術の至宝展」
会期:2012年3月20日(火・祝)~6月10日(日)
会場:東京国立博物館 平成館
時間:午前9時30分~午後5時 *金曜日は午後8時、土日祝休日は午後6時まで開館
休館:月曜日 *但し4月30日(月・休)は開館
主催:東京国立博物館、ボストン美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
後援:外務省、アメリカ大使館
協賛:損保ジャパン、大日本印刷、トヨタ自動車、三井物産
協力:日本航空

巡回のスケジュールも発表されています。

名古屋ボストン美術館 2012年6月23日(土)~9月17日(月・祝)・2012年9月29日(土)~12月9日(日)
九州国立博物館 2013年1月1日(火・祝)~3月17日(日)
大阪市立美術館 2013年4月2日(火)~6月16日(日)

関連の講演会の情報です。

3月20日(火・祝) 10:30~ 「継続する歴史:ボストン美術館の日本美術コレクション」
 講師:アン・ニシムラ・モース(ボストン美術館日本美術課長)
4月21日(土) 13:30~ 「奇才・曾我蕭白を語る」
 講師:辻惟雄(MIHO MUSEUM館長)
5月12日(土) 13:30~ 「ボストン美術館の日本絵画」
 講師:田沢裕賀(東京国立博物館 絵画・彫刻室長)

公式サイトも大きくリニューアルされ、前売券も発売がはじまりました。またペアで2000円という早割ペア券がかなりお得です。こちらは来年の2月14日までオンラインでも購入可能とのことでした。

「ボストン美術館 日本美術の至宝展」公式サイト チケット情報(オンライン購入サイトへのリンクあり)


ミュージアムグッズ各種

グッズなども今から準備されています。この写真には出ていませんでしたが、雲龍図のiPhoneシールなども出るそうです。



それでは「日本美術史上最も強烈」とも呼ばれる蕭白の「雲龍図」が日本を舞って席巻する日を心待ちにしたいと思います。
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