都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「藤田嗣治と愛書都市パリ」 渋谷区立松濤美術館
渋谷区立松濤美術館
「藤田嗣治と愛書都市パリ 花ひらく挿絵本の世紀」
7/31-9/9
渋谷区立松濤美術館で開催中の「藤田嗣治と愛書都市パリ 花ひらく挿絵本の世紀」へ行ってきました。
エコール・ド・パリを代表する画家、藤田嗣治。ともかく美しい乳白色による裸婦像、そして可愛らしい猫などに惹かれる方も多いかもしれません。
一言で申し上げましょう。この展覧会のポイントは「実は藤田嗣治は類い稀な挿絵画家でもあった。」ということです。
藤田が渡仏した1913年、既にヨーロッパでは印象派経由による新しい挿絵文化が花開き、多くの挿絵本が制作されていました。
藤田嗣治「『中毒ついて』より」1928年 ランス市立図書館
藤田もその中に飛び込みます。特に最も精力的だったのは1920年代のこと。10年間のうちに約30にも及ぶ挿絵本を手掛けました。
というわけで会場には油画の割にはあまり知られていない藤田の挿絵がずらりと並びます。
構成は以下の通りでした。
1「藤田嗣治の挿絵本」
1-1愛書都市パリ
1-2 記憶の中の日本
1-3 フランス文化との対話
2「エコール・ド・パリの挿絵本とその時代」
2-1 花開く挿絵本の時代
2-2 秩序への呼びかけ
冒頭は一回目の渡仏時代の挿絵本です。画壇で頭角を表した藤田は渡仏後6年、1919年に最初の挿絵本「詩数篇」を描きました。
また面白いのが最も多く描いた1920年代の挿絵本です。藤田はここで半ば戦略的に日本的なモチーフを挿絵本の中へ落とし込んでいきます。
「国民美術協会展における日本美術展」(アベイユ・ドール社)では何と十二単の女性を描いています。
それに日本の昔話を題材にした「日本昔噺」(アベイユ・ドール社)では、その情緒的な人物描写が、例えば月岡芳年の月百姿を連想させはしないでしょうか。
そして何と言っても素晴らしいのがコクトーの「海龍」(ジョルジュ・ギヨ社)の挿絵です。
藤田嗣治「『海龍』より」1955年 東京国立近代美術館
ここには和装の女性などが登場しますが、例えば艶やかなる髪の毛から指先のちょっとした皺などが、驚くほどに精緻でかつ緩急の付いた線で表現されています。
「面相筆の藤田」と言われるだけあり、元々藤田の作品は油絵でも線に大変な魅力がありますが、それは挿絵でも同じこと。
むしろ簡素な挿絵という表現を通して際立つ藤田の生き生きとした線描、その素晴らしさには思わず言葉を失ってしまいました。
さて藤田はその後、一時日本へと帰国。これまでとは打って変わっての色彩豊かな作品など、画業の更なる変化を見せていきますが、この帰国中、そして再びフランスへと渡った後も、挿絵本の制作をやめることはありませんでした。
藤田嗣治「『ラ・フォンテーヌ 20の寓話』より」1961年 東京国立近代美術館/ランス市立図書館
しかも面白いのが今までとは逆にフランスのモチーフを多く取り入れていることです。
コクトーとの共作「四十雀」(ピエール・ド・タルタス)ではフランスの風俗や生活を、晩年の藤田が得意とした子どもの絵で表しています。
また順序は前後しますが、藤田の65歳を記念して出版された「魅せられたる河」においては、石造りの建物の並ぶパリの街並みを質感溢れる表現しました。
あまりにも多種多様な藤田の挿絵本世界、改めて彼の才能に感心する他ありません。
さてこの展覧会、藤田だけで終わらないところがまた凄いところです。後半はエコール・ド・パリの画家たちによる挿絵本がいくつも紹介されているのです。
マルク・シャガール「フィレータースの果樹園 『ダフニスとクロエ』より」1957-60年 北海道立近代美術館
パスキン、シャガール、ドラン、ドレにグランヴィルやマティスなどが集います。
パブロ・ピカソ「『知られざる傑作』より」1931年 うらわ美術館
バルザックの「知られざる傑作」に付けたピカソの挿絵、そして二次大戦後の古典回帰の潮流にのって描かれた「ラ・フォンテーヌ 20の寓話」など、優れた挿絵本を楽しむことが出来ました。
エコール・ド・パリの「挿絵」に着目しながら、藤田の多芸な技を紹介する展覧会。しかも藤田の油彩も一部出品。期待以上の内容でした。
「藤田嗣治 本のしごと/林洋子/集英社新書」
9月9日まで開催されています。おすすめします。
「藤田嗣治と愛書都市パリ 花ひらく挿絵本の世紀」 渋谷区立松濤美術館
会期:7月31日(火)~9月9日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00 *毎週金曜は19時まで開館。
料金:一般300円(240円)、小中学生100円(80円)。
*( )内は団体10名以上。土曜日は小中学生無料。60歳以上は無料。
場所:渋谷区松濤2-14-14
交通:京王井の頭線神泉駅から徒歩5分。JR線・東急東横線・東京メトロ銀座線、半蔵門線渋谷駅より徒歩15~20分。
「藤田嗣治と愛書都市パリ 花ひらく挿絵本の世紀」
7/31-9/9
渋谷区立松濤美術館で開催中の「藤田嗣治と愛書都市パリ 花ひらく挿絵本の世紀」へ行ってきました。
エコール・ド・パリを代表する画家、藤田嗣治。ともかく美しい乳白色による裸婦像、そして可愛らしい猫などに惹かれる方も多いかもしれません。
一言で申し上げましょう。この展覧会のポイントは「実は藤田嗣治は類い稀な挿絵画家でもあった。」ということです。
藤田が渡仏した1913年、既にヨーロッパでは印象派経由による新しい挿絵文化が花開き、多くの挿絵本が制作されていました。
藤田嗣治「『中毒ついて』より」1928年 ランス市立図書館
藤田もその中に飛び込みます。特に最も精力的だったのは1920年代のこと。10年間のうちに約30にも及ぶ挿絵本を手掛けました。
というわけで会場には油画の割にはあまり知られていない藤田の挿絵がずらりと並びます。
構成は以下の通りでした。
1「藤田嗣治の挿絵本」
1-1愛書都市パリ
1-2 記憶の中の日本
1-3 フランス文化との対話
2「エコール・ド・パリの挿絵本とその時代」
2-1 花開く挿絵本の時代
2-2 秩序への呼びかけ
冒頭は一回目の渡仏時代の挿絵本です。画壇で頭角を表した藤田は渡仏後6年、1919年に最初の挿絵本「詩数篇」を描きました。
また面白いのが最も多く描いた1920年代の挿絵本です。藤田はここで半ば戦略的に日本的なモチーフを挿絵本の中へ落とし込んでいきます。
「国民美術協会展における日本美術展」(アベイユ・ドール社)では何と十二単の女性を描いています。
それに日本の昔話を題材にした「日本昔噺」(アベイユ・ドール社)では、その情緒的な人物描写が、例えば月岡芳年の月百姿を連想させはしないでしょうか。
そして何と言っても素晴らしいのがコクトーの「海龍」(ジョルジュ・ギヨ社)の挿絵です。
藤田嗣治「『海龍』より」1955年 東京国立近代美術館
ここには和装の女性などが登場しますが、例えば艶やかなる髪の毛から指先のちょっとした皺などが、驚くほどに精緻でかつ緩急の付いた線で表現されています。
「面相筆の藤田」と言われるだけあり、元々藤田の作品は油絵でも線に大変な魅力がありますが、それは挿絵でも同じこと。
むしろ簡素な挿絵という表現を通して際立つ藤田の生き生きとした線描、その素晴らしさには思わず言葉を失ってしまいました。
さて藤田はその後、一時日本へと帰国。これまでとは打って変わっての色彩豊かな作品など、画業の更なる変化を見せていきますが、この帰国中、そして再びフランスへと渡った後も、挿絵本の制作をやめることはありませんでした。
藤田嗣治「『ラ・フォンテーヌ 20の寓話』より」1961年 東京国立近代美術館/ランス市立図書館
しかも面白いのが今までとは逆にフランスのモチーフを多く取り入れていることです。
コクトーとの共作「四十雀」(ピエール・ド・タルタス)ではフランスの風俗や生活を、晩年の藤田が得意とした子どもの絵で表しています。
また順序は前後しますが、藤田の65歳を記念して出版された「魅せられたる河」においては、石造りの建物の並ぶパリの街並みを質感溢れる表現しました。
あまりにも多種多様な藤田の挿絵本世界、改めて彼の才能に感心する他ありません。
さてこの展覧会、藤田だけで終わらないところがまた凄いところです。後半はエコール・ド・パリの画家たちによる挿絵本がいくつも紹介されているのです。
マルク・シャガール「フィレータースの果樹園 『ダフニスとクロエ』より」1957-60年 北海道立近代美術館
パスキン、シャガール、ドラン、ドレにグランヴィルやマティスなどが集います。
パブロ・ピカソ「『知られざる傑作』より」1931年 うらわ美術館
バルザックの「知られざる傑作」に付けたピカソの挿絵、そして二次大戦後の古典回帰の潮流にのって描かれた「ラ・フォンテーヌ 20の寓話」など、優れた挿絵本を楽しむことが出来ました。
エコール・ド・パリの「挿絵」に着目しながら、藤田の多芸な技を紹介する展覧会。しかも藤田の油彩も一部出品。期待以上の内容でした。
「藤田嗣治 本のしごと/林洋子/集英社新書」
9月9日まで開催されています。おすすめします。
「藤田嗣治と愛書都市パリ 花ひらく挿絵本の世紀」 渋谷区立松濤美術館
会期:7月31日(火)~9月9日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00 *毎週金曜は19時まで開館。
料金:一般300円(240円)、小中学生100円(80円)。
*( )内は団体10名以上。土曜日は小中学生無料。60歳以上は無料。
場所:渋谷区松濤2-14-14
交通:京王井の頭線神泉駅から徒歩5分。JR線・東急東横線・東京メトロ銀座線、半蔵門線渋谷駅より徒歩15~20分。
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