都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ジェームズ・アンソール展」 損保ジャパン東郷青児美術館
損保ジャパン東郷青児美術館
「ジェームズ・アンソール 写実と幻想の系譜」
9/8-11/11
損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「ジェームズ・アンソール 写実と幻想の系譜」へ行ってきました。
ベルギーの近代美術を代表するシュルレアリスムの画家、ジェームズ・アンソール(1860-1949)。まさにチラシ表紙のような仮面や骸骨のモチーフを多用したことでも知られているかもしれません。
ところがこの展覧会、そうした奇怪なアンソールを求めて出かけると、かなり面食らいます。
ジェームズ・アンソール「牡蠣を食べる女」1882年
まず全出品作100点のうちアンソールは50点のみ。しかもその多くは仮面に至る前、初期の比較的写実的な作品ばかりです。
何故にアンソールの作品が全体の半分にとどまり、また初期作が多いのか。結論からすると実はその点こそが本展の最も重要なポイントというわけでした。
さてその要点をいくつか簡単に紐解いていきましょう。
ペーテル・パウル・ルーベンス「ミネルヴァ」1630年
展示は何とルーベンスから始まりますが、それはアンソールがアカデミスム時代に学んでいた歴史画に他なりません。
後にアンソールはアカデミスムに背を向け、次第に写実主義を目指し、一例としてクールベ画を理想とします。
ギュスターヴ・クールベ「オルナンの岩」1855-65年
実は初期アンソールとクールベにはかなり親和性が。ここではクールベの「オルナンの岩」(1855-65年)とアンソールの「灰色の海の風景」(1880年)を見比べると一目瞭然、確かにあの物質感ある筆致など、クールベの画風にかなり近いことが見て取れます。
ジェームズ・アンソール「白い雲」1884年
また当時のベルギーで力を持ちつつあった外光主義との関連も重要。同時代の外光主義の画家とアンソールを見比べても作風はさほど乖離していません。
ペリクレス・パンタジス「浜辺にて」1880-84年
結論から言えば、このように他の画家の作品を多数引用することで、アンソールの画業の変遷を際立たせるというのが、本展の主旨というわけでした。
さてアンソールに影響を与えたもう一つの絵画を引用してみます。
それが何とも意外なことに17世紀のオランダの画家たち。
ヤコブ・フォッペンス・ヴァン・エス「牡蠣のある静物」1635-60年
ヤコブ・フォッペンス・ヴァン・エスの「牡蠣のある静物」とアンソールの「牡蠣(または光の研究)」の例を挙げてもご覧の通り、アンソールはこうした身近なモチーフによる静物画をオランダの画家に倣って描いています。
ジェームズ・アンソール「牡蠣(または光の研究)」1882年
アンソール展でまさか出てくるとは思わないオランダの静物画、しかしながら確かにアンソールの創造の一つの原点でもあったのです。
さて後半はアンソールがどのように骸骨や仮面を獲得していったのかが解き明かされます。
まずはシノワズリー、日本や中国などの東洋美術への関心です。
ジェームズ・アンソール「シノワズリー」1880年
アンソールは当時、ヨーロッパを席巻していた東洋美術品から能面や歌舞伎に「奇怪さ」を見出し、絵のモチーフとして取り入れるようになりました。
ピーテル・ブリューゲル(子)「七つの善行」1616年以前
またもう一つ面白いのが、15~16世紀の初期フランドル絵画です。例えば悪魔も登場するブリューゲルにも大いに感化されます。
また14~15世紀の死の舞踏のモチーフ、さらには16~17世紀のイタリアで流行した仮面演劇も。またルドンにも影響されたそうですが、ともかくアンソールは洋の東西を問わず、様々な芸術から、仮面や骸骨のモチーフを確立していったわけなのです。
ジェームズ・アンソール「陰謀」1890年
ラストを飾る大作の「陰謀」も、そうしたアンソールの辿った道を踏まえると、また新鮮に写るもの。さらに最後にはアンソールが音楽を好み、作曲を手がけていたことにも触れています。
骸骨や仮面だけでないアンソールの世界、実に多面的な視点から画業を捉えています。好企画でした。
11月11日まで開催されています。おすすめします。(図版は全てアントワープ王立美術館蔵)
「アントワープ王立美術館所蔵 ジェームズ・アンソール 写実と幻想の系譜」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:9月8日(土)~11月11日(日)
休館:月曜。但し9月17日、10月1日、8日は開館。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日は20時まで。(入館は閉館30分前まで)
料金:一般100円(800)円、大・高校生600(500)円、65歳以上800円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
「ジェームズ・アンソール 写実と幻想の系譜」
9/8-11/11
損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「ジェームズ・アンソール 写実と幻想の系譜」へ行ってきました。
ベルギーの近代美術を代表するシュルレアリスムの画家、ジェームズ・アンソール(1860-1949)。まさにチラシ表紙のような仮面や骸骨のモチーフを多用したことでも知られているかもしれません。
ところがこの展覧会、そうした奇怪なアンソールを求めて出かけると、かなり面食らいます。
ジェームズ・アンソール「牡蠣を食べる女」1882年
まず全出品作100点のうちアンソールは50点のみ。しかもその多くは仮面に至る前、初期の比較的写実的な作品ばかりです。
何故にアンソールの作品が全体の半分にとどまり、また初期作が多いのか。結論からすると実はその点こそが本展の最も重要なポイントというわけでした。
さてその要点をいくつか簡単に紐解いていきましょう。
ペーテル・パウル・ルーベンス「ミネルヴァ」1630年
展示は何とルーベンスから始まりますが、それはアンソールがアカデミスム時代に学んでいた歴史画に他なりません。
後にアンソールはアカデミスムに背を向け、次第に写実主義を目指し、一例としてクールベ画を理想とします。
ギュスターヴ・クールベ「オルナンの岩」1855-65年
実は初期アンソールとクールベにはかなり親和性が。ここではクールベの「オルナンの岩」(1855-65年)とアンソールの「灰色の海の風景」(1880年)を見比べると一目瞭然、確かにあの物質感ある筆致など、クールベの画風にかなり近いことが見て取れます。
ジェームズ・アンソール「白い雲」1884年
また当時のベルギーで力を持ちつつあった外光主義との関連も重要。同時代の外光主義の画家とアンソールを見比べても作風はさほど乖離していません。
ペリクレス・パンタジス「浜辺にて」1880-84年
結論から言えば、このように他の画家の作品を多数引用することで、アンソールの画業の変遷を際立たせるというのが、本展の主旨というわけでした。
さてアンソールに影響を与えたもう一つの絵画を引用してみます。
それが何とも意外なことに17世紀のオランダの画家たち。
ヤコブ・フォッペンス・ヴァン・エス「牡蠣のある静物」1635-60年
ヤコブ・フォッペンス・ヴァン・エスの「牡蠣のある静物」とアンソールの「牡蠣(または光の研究)」の例を挙げてもご覧の通り、アンソールはこうした身近なモチーフによる静物画をオランダの画家に倣って描いています。
ジェームズ・アンソール「牡蠣(または光の研究)」1882年
アンソール展でまさか出てくるとは思わないオランダの静物画、しかしながら確かにアンソールの創造の一つの原点でもあったのです。
さて後半はアンソールがどのように骸骨や仮面を獲得していったのかが解き明かされます。
まずはシノワズリー、日本や中国などの東洋美術への関心です。
ジェームズ・アンソール「シノワズリー」1880年
アンソールは当時、ヨーロッパを席巻していた東洋美術品から能面や歌舞伎に「奇怪さ」を見出し、絵のモチーフとして取り入れるようになりました。
ピーテル・ブリューゲル(子)「七つの善行」1616年以前
またもう一つ面白いのが、15~16世紀の初期フランドル絵画です。例えば悪魔も登場するブリューゲルにも大いに感化されます。
また14~15世紀の死の舞踏のモチーフ、さらには16~17世紀のイタリアで流行した仮面演劇も。またルドンにも影響されたそうですが、ともかくアンソールは洋の東西を問わず、様々な芸術から、仮面や骸骨のモチーフを確立していったわけなのです。
ジェームズ・アンソール「陰謀」1890年
ラストを飾る大作の「陰謀」も、そうしたアンソールの辿った道を踏まえると、また新鮮に写るもの。さらに最後にはアンソールが音楽を好み、作曲を手がけていたことにも触れています。
骸骨や仮面だけでないアンソールの世界、実に多面的な視点から画業を捉えています。好企画でした。
11月11日まで開催されています。おすすめします。(図版は全てアントワープ王立美術館蔵)
「アントワープ王立美術館所蔵 ジェームズ・アンソール 写実と幻想の系譜」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:9月8日(土)~11月11日(日)
休館:月曜。但し9月17日、10月1日、8日は開館。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日は20時まで。(入館は閉館30分前まで)
料金:一般100円(800)円、大・高校生600(500)円、65歳以上800円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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