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「多賀新 線描の魔術師」 市川市芳澤ガーデンギャラリー

市川市芳澤ガーデンギャラリー
「多賀新 線描の魔術師」
11/3-12/16



市川市芳澤ガーデンギャラリーで開催中の「多賀新 線描の魔術師」へ行って来ました。

1946年に北海道で生まれ、現在は市川市在住、緻密な線描を駆使して幻想的な銅版画を制作する多賀新。春陽堂「江戸川乱歩シリーズ」の表紙の仕事をご存知の方もおられるかもしれません。

本展ではそうした初期の銅版から最新の鉛筆画、約70点にて、多賀新の画業を紹介します。

構成は以下の通りでした。

1.江戸川乱歩の世界
2.変容と幻想
3.エロスから聖なる世界へ
4.そして浄土へ


冒頭は多賀を世に知らしめた70年代、春陽堂「江戸川乱歩シリーズ」。その装丁の銅版です。


「虚飾」1981年 エッチング

同シリーズ全部で30点ありますが、うち14点を多賀が担当。闇に光を操ってまさに妖艶、一目で頭に焼きつく強烈なイメージの作品を展開しました。

ちなみにこの一連のシリーズ、必ずしも表紙のために描かれたわけではなく、元々書き溜めていたものだとか。

そもそも多賀は少年時代から乱歩にシンパシーを抱いていたそうです。時に猟奇的なまでの多賀のモチーフ、その源泉にはやはり乱歩がいたのかもしれません。


「女と止揚」1974年 エッチング

さて若い頃から人体、また解剖図に興味を持っていたという多賀。次第に人の肉体と動植物を融合させた独特のイメージを確立します。

そもそも彼はデューラーに触発されドイツへ渡り、その後インドへ。そこでインドの死生観、また仏教に強く影響を受けたという異色の経歴を持っています。


「食傷」1978年 エッチング

脚を生やし、生々しい鱗をまとった腹から卵とも眼球ともつかぬ物体を晒す「食傷」(1978)からは、多賀ならではの奇怪で時にグロテスクな表現を見て取れるのではないでしょうか。


「夢魂」1994年 エッチング

また艶かしいエロスを精神的な世界と融合させようとしたのも多賀の試み。長い髪を振り乱しながら、白い裸体を露わにした女性を描く「夢魂」(1993)も、どこか深海へ沈み込んで瞑想をするかのような独特の静けさをたたえています。

魑魅魍魎なまでに映る多賀の夢幻世界、そのイメージはまさに多種多様。乱歩はもとより、頻出する仏教的なイメージ、はたまたピアズリーの妖しさやルドンの闇をも喚起させます。

線の物理的な密度しかり、複雑怪奇なモチーフしかり、銅版の小画面ながらも、ともかく一点一点に大変な迫力がありました。

さてそうした多賀に一大転機が。52歳で食道ガンを患い、闘病生活を経た彼は、より仏教的な世界への傾斜を強めていきます。


「馬頭観音」2011年 鉛筆

近作に至るまで、展示後半に並ぶのはそれこそ仏画。どこか妖艶ながらも、正面から端正に捉えた菩薩像の数々です。

図版で見ても一目瞭然、表現は大きく変化。怪奇性は消え去り、ゆとりある空間にて緩やかな線描が展開。当然ながら作品も優美でかつ温和な表情をとっています。


「仏涅槃図」2012年 鉛筆

ラストは制作中の「仏涅槃図」が。魔界を見つめ続けた多賀は、いつしか聖なる世界を志向していました。

「ペテン師と空気男/江戸川乱歩文庫/春陽堂書店」

なお会場では銅版の原板や道具、また彼の手掛けた松本零士著の「ニーベルングの指輪」の装丁なども紹介されています。それにミュージアムショップでは春陽堂の乱歩シリーズ文庫版の販売も。これが何と全てサイン入りです。早速、私も購入しました。

「人間椅子/江戸川乱歩文庫/春陽堂書店」

決して大きなスペースではありませんが、多賀の今と昔の仕事、そして変化を知ることの出来る充実した回顧展と言えるのではないでしょうか。



12月16日まで開催されています。

「多賀新 線描の魔術師」 市川市芳澤ガーデンギャラリー
会期:11月3日(土)~12月16日(日)
休館:月曜日
時間:9:30~16:30
料金:一般500円、中学生以下無料。
住所:千葉県市川市真間5-1-18
交通:JR線市川駅より徒歩16分、京成線市川真間駅より徒歩12分。*市川駅北口に「市営無料レンタサイクル」(市川第6駐輪場)あり。
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