「オディロン・ルドンー夢の起源」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館
「オディロン・ルドン」
4/20-6/23



損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「オディロン・ルドンー夢の起源」へ行って来ました。

比較的国内でも見る機会の多いルドン。ルドンの展示と言えば、2012年の三菱一号館の「ルドンとその周辺展」。大作グランブーケを筆頭に、黒と色彩のルドンの作品がずらり。同時代の画家を踏まえての時代の潮流を追うような企画。とても見応えがありました。


オディロン・ルドン「花」1905-10年頃 油彩・画布 岐阜県美術館

それから一年と少し。もちろん異なる美術館といえ、何故に再びルドンなのか。そんなことを思った方もおられるやもしれません。

では単刀直入に今回のルドン展は何が特徴的なのか。それはルドンの生地ボルドーです。青年ルドンがボルドーで何を学び、関心を持ち、それが後に如何なる展開を遂げていくのか。そうしたことに主眼が置かれています。

[展覧会の構成]
第一部 幻想のふるさとボルドー 夢と自然の発見
第二部 「黒」の画家 怪物たちの誕生
第三部 色彩のファンタジー


よって言ってしまえば、冒頭こそハイライト。ここでは若かりしルドンに影響を与えたゴランやクラヴォー、そしてブレスダンの作品を紹介。それをルドンと参照することで、彼の創作の原点を知ることが出来ます。

少しだけ細かく見ていきましょう。1840年にボルドーで生まれたルドンは、間もなくワインの産地として有名なメドック地方のペイルルバード、つまりぶどう園に送られ、そこで育ちます。


オディロン・ルドン「ペイルルバードのポプラ」 油彩・厚紙 岐阜県美術館

ルドンは大人になってからもこの地を愛し、夏は必ず過ごしたとか。特徴的な砂地と松の並ぶ風景。それはルドンの自然観にも影響を与えたに違いありません。


スタニスラス・ゴラン「ランドの農場」 水彩・紙 ボルドー国立科学・文芸・美術アカデミー

絵の勉強を本格的に始めたのは15歳の時。当地の画家、スタニスラス・ゴランの美術教室に通います。最初の師ゴランから学んだのは、敬愛していたドラクロワらのロマン主義。ルドンにもドラクロワ画の模写を進めました。


アルマン・クラヴォー「植物学素描」 黒インク・紙 ボルドー美術館

次の出会いはアルマン・クラヴォー。植物学者です。彼は顕微鏡でしか見えない微生物をルドンに紹介。精緻なスケッチによる藻の球体。後のルドンに特徴的な目玉のイメージと重なります。

そして三人目はロドルフ・ブレスダン。言うまでもなく版画家。独自の幻想的な風景で人気を集めた人物です。ルドンは24歳の時にパリへ出るも、翌年にはボルドーへ帰還。そこでブレスダンから版画を学びます。


ロドルフ・ブレスダン「死の喜劇」1854年 石版画 ボルドー美術館

ブレスダンといえば魑魅魍魎、骸骨たちが闊歩する「死の喜劇」。実に精緻な描写ですが、ルドンも負けじと版画を制作。


オディロン・ルドン「浅瀬(小さな騎馬兵のいる)」1865年 銅版画 岐阜県美術館

「浅瀬(小さな騎馬兵のいる)」はサロンへの出品作。大きな岩を背景にして浅瀬からこちらへと進み行く騎馬兵。これがかなり緻密に表現されています。

以上、ルドンに影響を与えた3名の芸術家たち。彼が世に知られるのは1879年、石版画集「夢のなかで」、39歳のことです。ここに早くも「黒」のルドンが確立していますが、それもボルドーでの経験と学習があってからこそなのかもしれません。


オディロン・ルドン「夢のなかで 幻視」1879年 石版画 岐阜県美術館

さて展覧会中盤から後半にかけてはいつもの黒と色彩のルドン。三菱一号館の時にも出ていた岐阜県美のコレクションが中心ということもあり、既視感があるのも事実ですが、それでも見どころはいくつも。1886年の石版画集「夜」では、冒頭にブレスダンの肖像を描いています。


オディロン・ルドン「エドガー・ポーに 目は奇妙な気球のように無限に向かう」1882年 石版画 岐阜県美術館

ルドンが面白いのは、どこか神秘的でありながらも、自然科学への眼差しが強く垣間見られること。例えば「聖アントワーヌの誘惑」。海にまつわる奇怪な生き物が描かれていますが、これは当時、深海調査が進んだ一つの成果の現れ。

ルドンは気球に電球、また宇宙、そして生物、さらには進化論などへ大きな関心を寄せているのです。単なる幻想とはちょっと違います。


オディロン・ルドン「神秘的な騎士」1894年頃 木炭・パステルで加筆 ボルドー美術館

ラストは色彩のルドン。充実した岐阜県美のコレクションに加え、ボルドー美術館からもやって来た作品がいくつか。展示に花を添えます。


オディロン・ルドン「聖母」1916年 油彩・画布 ボルドー美術館

最晩年、76歳の時に描かれた「聖母」が心を打ちます。彼が死んだ時にイーゼルに残されていたという絶筆。胸に手をあてて目をつむる様はそれこそルドンへの祈りです。幻想と科学とを行き来したルドン。最後に到達したのは安らかなる祈りの境地でした。

「もっと知りたいルドン/山本敦子/東京美術」

初期ルドンにウエイトを置いた好企画。率直に面白かったと思います。

6月23日まで開催されています。

「オディロン・ルドンー夢の起源」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:4月20日(土)~6月23日(日)
休館:月曜。但し4月29日、5月6日は開館。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日は20時まで。(入館は閉館30分前まで)
料金:一般1000円(800)円、大・高校生600(500)円、65歳以上800円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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