都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「もののあはれと日本の美」 サントリー美術館
サントリー美術館
「もののあはれと日本の美」
4/17-6/16
サントリー美術館で開催中の「もののあはれと日本の美」へ行ってきました。
人生の機微や四季のうつろいに感じる情趣を意味する「もののあはれ」。「あはれ」が「哀れ」にも当てはめられることから、どこか物悲しいイメージも思い起こさせますが、本来は賞賛や愛情を含めての情感を意味していた言葉。少なくとも何らかの形で日本の美意識の根底に通じていることは間違いありません。
そうした「もののあはれ」を廻る諸相を美術の観点から紹介。屏風絵、絵巻、漆工、陶磁器に日本画など。いずれも趣き深く、またしみじみと心に染み入る。そうした作品が一堂に会していました。
[展覧会の構成]
第1章 「もののあはれ」の源流 貴族の生活と雅びの心
第2章 「もののあはれ」という言葉 本居宣長を中心に
第3章 古典にみる「もののあはれ」 『源氏物語』をめぐって
第4章 和歌の伝統と「もののあはれ」 歌仙たちの世界
第5章 「もののあはれ」と月光の表現 新月から有明の月まで
第6章 「もののあはれ」と花鳥風月 移り変わる日本の四季
第7章 秋草にみる「もののあはれ」 抒情のリズムと調和の美
第8章 暮らしの中の「もののあはれ」 近世から近現代へ
ともすると漠然とした感を受ける「もののあはれ」。上記の通り章立てもかなり細かく分かれています。江戸時代に「もののあはれ」を考察した本居宣長を基点に「源氏物語」、そして和歌の世界、さらには月明かりや秋草の表現、はたまた移ろう四季に花鳥風月など、いくつかのポイントをピックアップ。そこから「もののあはれ」とは何ぞやを見る展開となっていました。
本居宣長「紫文要領 稿本」(部分)重要文化財 江戸時代/1763年 本居宣長記念館 *全期間展示
さて初めは本居宣長。彼の著作でもある「紫文要領」(*通期展示)などを展示。「もののあはれ」を知ることこそ、人生を深く享受することにつながると説いた思想。それはまた時代を大きく超えて小林秀雄らにも影響を与えます。彼が記した色紙、その名も「物のあはれ」には、「物のあはれを知ることの深きにすぐるという事はなきものなり。」と書きました。
「源氏物語図屏風 須磨・橋姫」江戸時代/17世紀 サントリー美術館 *展示期間:4/17~5/20
そして源氏物語へ。屏風、画巻、画帖に軸画と様々な源氏絵を紹介。宣長も源氏こそ「もののあはれ」だと述べていたとか。うち酒井抱一の「紫式部石山寺観月図」(*展示期間:5/8-5/27)も美しい一枚。石山寺から琵琶湖の水面にうつる十五夜の満月を紫式部が眺めたというエピソードを一幅の画面へ。紫式部のいる楼閣に眼下の湖、そして浮かぶ満月。鮮やかな紅葉の色彩も目につくところです。
「佐竹本三十六歌仙絵 源順」重要文化財 鎌倉時代/13世紀 サントリー美術館 *展示期間:5/22~6/16
ちなみに琳派ファンの観点からして見逃せないのが鈴木其一の「四季歌意図巻」(*会期中巻替えあり)。春は業平の「交野の桜」、夏は人麻呂の「明石の浦」と、4面の場面に歌にまつわる春夏秋冬の光景が描かれた図巻。私は現会期に展示中の秋と冬を見ましたが、これが秀逸です。小さな画面ながらも背後に連なる雄大な空間。秋では彼方に富士山を望み、実に抒情的な景色が広がっています。
また本企画で特徴的なのは月と秋草という具体的なモチーフに「もののあはれ」を見出しているところ。それに関する作品がいくつか登場しています。
月では長沢蘆雪の「月夜山水図」(*展示期間:5/22-6/16)が優品です。下方から岩山が迫り出し、上部には満月が。山から生えた松が月の中で影絵のようなシルエットを。墨の濃淡を駆使し、見事なまでに美しくまたどこか儚い満月の夜を描ききっています。
秋草では光琳の「秋草図屏風」(*展示期間:5/15-6/16)が目立っていたのではないでしょうか。絵具を盛ったデコラティブな菊が光琳流。もちろんここは秋の景色を描かせたら天下一品、抱一の「月に秋草図屏風」や「夏秋草図屏風」があれば、とは思いましたが、それはあまりにも贅沢というものかもしれません。
北野恒富「星」昭和14(1939)年 大阪市立美術館 *展示期間:5/15~6/16
その他には鍋島に浮世絵なども。盛りだくさんです。また近代日本画では北野恒富の「星」(*展示期間:5/15-6/16)も忘れられません。濃紺の夜空をバックにバルコニーで佇む和装の清楚な女性。夕涼みしながら何を想っているのか。実に魅惑的でした。
土佐光起「春秋花鳥図屏風」江戸時代/17世紀 頴川美術館 *展示期間:5/22~6/16
なお展示はいつものサントリー流。怒濤の展示替えです。出品作が各会期毎で大きく変化します。率直なところ、とても追いかけられませんが、出品リストと睨めっこが必要かもしれません。
「もののあはれ」と日本の美 作品リスト(PDF)
「色絵龍田川文皿」江戸時代/17-18世紀 サントリー美術館 *全期間展示
6月16日までの開催です。
「もののあはれと日本の美」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:4月17日(水)~6月16日(日)
休館:火曜日。但し4月30日(火)は開館。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00) *4月28日(日)、5月2日(木)、5月5日(日・祝)は20時まで開館。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*ホームページ限定割引券、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
「もののあはれと日本の美」
4/17-6/16
サントリー美術館で開催中の「もののあはれと日本の美」へ行ってきました。
人生の機微や四季のうつろいに感じる情趣を意味する「もののあはれ」。「あはれ」が「哀れ」にも当てはめられることから、どこか物悲しいイメージも思い起こさせますが、本来は賞賛や愛情を含めての情感を意味していた言葉。少なくとも何らかの形で日本の美意識の根底に通じていることは間違いありません。
そうした「もののあはれ」を廻る諸相を美術の観点から紹介。屏風絵、絵巻、漆工、陶磁器に日本画など。いずれも趣き深く、またしみじみと心に染み入る。そうした作品が一堂に会していました。
[展覧会の構成]
第1章 「もののあはれ」の源流 貴族の生活と雅びの心
第2章 「もののあはれ」という言葉 本居宣長を中心に
第3章 古典にみる「もののあはれ」 『源氏物語』をめぐって
第4章 和歌の伝統と「もののあはれ」 歌仙たちの世界
第5章 「もののあはれ」と月光の表現 新月から有明の月まで
第6章 「もののあはれ」と花鳥風月 移り変わる日本の四季
第7章 秋草にみる「もののあはれ」 抒情のリズムと調和の美
第8章 暮らしの中の「もののあはれ」 近世から近現代へ
ともすると漠然とした感を受ける「もののあはれ」。上記の通り章立てもかなり細かく分かれています。江戸時代に「もののあはれ」を考察した本居宣長を基点に「源氏物語」、そして和歌の世界、さらには月明かりや秋草の表現、はたまた移ろう四季に花鳥風月など、いくつかのポイントをピックアップ。そこから「もののあはれ」とは何ぞやを見る展開となっていました。
本居宣長「紫文要領 稿本」(部分)重要文化財 江戸時代/1763年 本居宣長記念館 *全期間展示
さて初めは本居宣長。彼の著作でもある「紫文要領」(*通期展示)などを展示。「もののあはれ」を知ることこそ、人生を深く享受することにつながると説いた思想。それはまた時代を大きく超えて小林秀雄らにも影響を与えます。彼が記した色紙、その名も「物のあはれ」には、「物のあはれを知ることの深きにすぐるという事はなきものなり。」と書きました。
「源氏物語図屏風 須磨・橋姫」江戸時代/17世紀 サントリー美術館 *展示期間:4/17~5/20
そして源氏物語へ。屏風、画巻、画帖に軸画と様々な源氏絵を紹介。宣長も源氏こそ「もののあはれ」だと述べていたとか。うち酒井抱一の「紫式部石山寺観月図」(*展示期間:5/8-5/27)も美しい一枚。石山寺から琵琶湖の水面にうつる十五夜の満月を紫式部が眺めたというエピソードを一幅の画面へ。紫式部のいる楼閣に眼下の湖、そして浮かぶ満月。鮮やかな紅葉の色彩も目につくところです。
「佐竹本三十六歌仙絵 源順」重要文化財 鎌倉時代/13世紀 サントリー美術館 *展示期間:5/22~6/16
ちなみに琳派ファンの観点からして見逃せないのが鈴木其一の「四季歌意図巻」(*会期中巻替えあり)。春は業平の「交野の桜」、夏は人麻呂の「明石の浦」と、4面の場面に歌にまつわる春夏秋冬の光景が描かれた図巻。私は現会期に展示中の秋と冬を見ましたが、これが秀逸です。小さな画面ながらも背後に連なる雄大な空間。秋では彼方に富士山を望み、実に抒情的な景色が広がっています。
また本企画で特徴的なのは月と秋草という具体的なモチーフに「もののあはれ」を見出しているところ。それに関する作品がいくつか登場しています。
月では長沢蘆雪の「月夜山水図」(*展示期間:5/22-6/16)が優品です。下方から岩山が迫り出し、上部には満月が。山から生えた松が月の中で影絵のようなシルエットを。墨の濃淡を駆使し、見事なまでに美しくまたどこか儚い満月の夜を描ききっています。
秋草では光琳の「秋草図屏風」(*展示期間:5/15-6/16)が目立っていたのではないでしょうか。絵具を盛ったデコラティブな菊が光琳流。もちろんここは秋の景色を描かせたら天下一品、抱一の「月に秋草図屏風」や「夏秋草図屏風」があれば、とは思いましたが、それはあまりにも贅沢というものかもしれません。
北野恒富「星」昭和14(1939)年 大阪市立美術館 *展示期間:5/15~6/16
その他には鍋島に浮世絵なども。盛りだくさんです。また近代日本画では北野恒富の「星」(*展示期間:5/15-6/16)も忘れられません。濃紺の夜空をバックにバルコニーで佇む和装の清楚な女性。夕涼みしながら何を想っているのか。実に魅惑的でした。
土佐光起「春秋花鳥図屏風」江戸時代/17世紀 頴川美術館 *展示期間:5/22~6/16
なお展示はいつものサントリー流。怒濤の展示替えです。出品作が各会期毎で大きく変化します。率直なところ、とても追いかけられませんが、出品リストと睨めっこが必要かもしれません。
「もののあはれ」と日本の美 作品リスト(PDF)
「色絵龍田川文皿」江戸時代/17-18世紀 サントリー美術館 *全期間展示
6月16日までの開催です。
「もののあはれと日本の美」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:4月17日(水)~6月16日(日)
休館:火曜日。但し4月30日(火)は開館。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00) *4月28日(日)、5月2日(木)、5月5日(日・祝)は20時まで開館。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*ホームページ限定割引券、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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