「ジュンク堂×丸善 美術書カタログ2013 defrag」

これが無料とは太っ腹です。「ジュンク堂×丸善 美術書カタログ2013」を読んでみました。



大きな画集から分厚い専門書、そして一転してのハンディタイプの入門書と、多種多様な美術書。それこそ都心の丸善やジュンク堂の美術コーナーに行けば凄まじいボリュームでズラリと陳列。ペラペラと本をめくりながら見定めるだけでもすぐに時間が経過してしまいます。

もちろん本の出会いは一期一会。書店で一目惚れして買うことも少なくありませんが、何か指針のようなものがあればと思うことも事実。意外や意外、美術書を網羅的に紹介するガイドは殆どありませんでした。

ここに登場。その名も「defrag(デフラグ)」。ジュンク堂と丸善の美術書担当者による渾身の力作。カテゴリー別に美術書を紹介する全80頁の無料のカタログです。

さてこのカタログ、単に美術書を有りがちな括り、例えば日本美術や西洋美術、また現代美術などと整理して紹介しているわけではないのが大きなポイントです。



そこでタイトルの「defrag」(デフラグ)です。それは「断片化した情報を最適化・再配置する」という意味のコンピューター用語。翻って美術書をデフラグしてみる。よってカタログのカテゴリーは横断的です。

1.想像力
2.身体
3.コミュニケーション
4.物語
5.技術
6.知識
7.未来


これが7つのカテゴリー。各1つカテゴリーに40冊、計280冊の美術書が掲載。カテゴリーもアバウトではありますが、だからこそユニーク。「身体」に水墨画の入門書が紹介されたりしています。

少し中身をみましょう。各カテゴリー別に展開する美術書のラインナップからして相当に個性的ですが、まず嬉しいのは書店員の方が一冊ずつ丁寧にコメントを付けているところ。



またカテゴリー内にもいくつかのコピーが。これが例えば「アンチ断捨離!もう全部とっておく!」や「夢の狂演が、今はじまる」などかなりキャッチー。引き付けられるものばかりです。



さらに書店員の声といえば7名の方の「コラム」が。オススメの一冊を挙げながら、美術本との出会いや書店での陳列、POPでの裏話、また一冊の本にかける熱い思い等々。そして冒頭には小説家の福永信氏の寄稿も。さらに巻末には美術書出版会会長と、丸善、ジュンク堂の各美術書担当者による鼎談もあります。読み物としても面白い!

最後にそれぞれのカテゴリー毎に読んでみたいと思った本を一冊ずつ挙げてみます。(*が私のコメント)

1.想像力

「ポール・セザンヌ サント・ヴィクトワール山」 ゴットフリート・ベーム著 岩城見一・実渕洋次訳 三元社 2730円 2007年12月刊
 一枚の絵を徹底的に分析することで、従来のセザンヌ観、解釈を覆し真実を暴く、ちょっとしたアハ体験。(J三宮・小松)
 *いうまでもなくセザンヌの傑作。昨年の大回顧展の記憶も新しい。絵画の「真実」とは果たして。

2.身体

「本日の浮遊 Today's Levitation」 林ナツミ著 青幻舎 2310円 2012年7月刊
 この浮遊感は、平等院にある雲中供養菩薩像に通じる。「地に足がついてないもの」の神々しい自注さよ。(J吉祥寺・大内)
 *スパイラルでの個展も話題を集めた林ナツミの写真集。率直なところ彼女の作品は「分からない」のですが、雲中供養菩薩を引用されれば興味がわくもの。もう一度向き合いたい。

3.コミュニケーション

「美術の陰謀 消費社会と現代アート」 ジャン・ボードリヤール著 著塚原史訳 NTT出版 2520円 2011年10月刊
 「詐欺」としての現代アートと、その業界を取り巻く経済構造における裏取引的な「仕掛け」。美術が陥ってしまった隘路を、容赦無く暴く。(J池袋・下田)
 *詐欺に仕掛け。「挑発的現代アート論」に疑いかかりながらあえて挑発されてみたい。

4.物語

「ベックリーン 死の島」 フランツ・ツェルガー著 高阪一治訳 三元社 2310円 2008年8月刊
 ヒトラー、マクベス、原発。死の島に人々はなぜ惹きつけられるのか。壊滅を島という土地の物語に変換した画家の執念。(J池袋・松岡)
 *図版などでは見る機会が多いものの、なかなか実際の作品を前にすることが出来ないベックリン。「死の島」は代表作。死を象徴する糸杉が否応無しに胸に迫る。 

5.技術

「新井淳一 布・万華鏡」 森山明子著 美学出版 4410円 2012年3月刊
 世界から注目されるテキスタイルデザイナーに驚かされるすばらしい発想の数々に感動します。(J池袋・富塚)
 *今年、オペラシティで個展のあった新井淳一の評伝。布の迫力、布から広がる無限の世界観に圧倒。彼の布への探求の原点はどこにあるのか。展示から向かう作り手への関心。

6.知識

「影の歴史」 ヴィクトル・I・ストイキツァ著 岡田温司・西田兼訳 平凡社 4830円 2008年8月刊
 絵画の歴史とは切ってもきれない「影」という領域を美術の分野にとどまらず様々な学問を通して言及している(J大分・宮田)
 *何気ないようで重要な「影」。絵画を見る上でモチーフよりも影を見ていることもしばしば。様々な学問というのも興味あり。

7.未来

「こんにちは美術(全3巻)」 福永信著 岩崎書店 9450円 2012年2月刊
 かんのん・てんてん・おしびん・だんがん・びじゅつかん・もうじかん・ほん・いっしゅん・えいえん(J池袋・松岡)
 *もう松岡さんのコメントに惚れました!

入手先はいうまでもなく全国のジュンク堂と丸善の店舗で。私も地元、千葉県内の丸善でいただきました。なお発行が4月初旬ということで、一部では在庫僅少とか。あらかじめ店舗に問い合わせておくのも良いかもしれません。



「ジュンク堂×丸善 美術書カタログ2013 defrag」から美術書の森へ。楽しみが増えました。今年はこのカタログを手にしながら本と向き合おうと思います。

「ジュンク堂×丸善 美術書カタログ2013 defrag(デフラグ)」
2013年4月1日発行
発行 株式会社ジュンク堂書店/丸善書店株式会社
協力 美術書出版会
お問い合わせ ジュンク堂書店池袋本店 〒171-0022 豊島区南池袋2-15-5 03-5956-6111
デザイン MIKAN-DESIGN
印刷製本 シナノ印刷株式会社
丸善&ジュンク堂書店公式サイト「ネットストアHON」
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