都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ファインバーグ・コレクション展」 江戸東京博物館
江戸東京博物館
「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」
5/21-7/15
江戸東京博物館で開催中の「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」のプレスプレビューに参加してきました。
「開眼式」になぞらえて「私の目を開いてくれたものは日本の江戸絵画。」とまでコメントするアメリカの実業家、ロバート&ベッツィーファインバーグ夫妻。
ファインバーグ夫妻が江戸絵画と初めて接点を持ったのは1970年代。それは何とメトロポリタン美術館で見たという南蛮図屏風のポスター。以来40年、江戸絵画の蒐集と研究を重ねた夫妻は、類い稀なコレクション形成。その質と量は既に良く知られています。
「ファインバーグ・コレクション展」会場風景
ずばり里帰りです。ファインバーグ夫妻の江戸絵画コレクションが江戸東京博物館へとやってきました。
第1章 日本美のふるさと 琳派
第2章 中国文化へのあこがれ 文人画
第3章 写生と装飾の融合 円山四条派
第4章 大胆な発想と型破りな造形 奇想派
第5章 都市生活の美化、理想化 浮世絵
さてコレクションの特徴としてまず第一に挙げられるのは、いわゆる狩野派や土佐派などの官画派の作品が殆どないこと。つまり民間の文人画や琳派、それに円山派などが中心となっていることです。また若冲、盧雪、蕭白らのいわゆる奇想の絵師も。さらに浮世絵が入っているのもポイントです。
またチラシに記載もあるように「全体として上品な雰囲気を持っていることも大きな特徴。」。確かに温和でかつ優美な作品が目につきます。
しかしながらあえて申し上げます。もちろん上品でありながらも、実は迫力があり、またさり気なく個性的。さらにどこか異様な表情を持つ作品があるのも見逃せないところです。もちろんいずれも優品ではありますが、例えば単に「美しい」や「綺麗」で終わってしまうには勿体ない作品も少なくありません。
池大雅「孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風」(右隻)江戸時代/18世紀
というわけでまずはこちらから。池大雅の「孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風」。中国の高士二人の帽子や笠にまつわる故事を描いたとされる屏風絵。右隻の高士しかり、微笑ましいまでののびのびとした表現は、優美と言うよりもユーモラス。空間構成も大胆です。
右:紀梅亭「蘭亭曲水図」江戸時代/文化2(1805)年
ではもう一枚。紀梅亭の「蘭亭曲水図」です。写真では一見、地味に見えるかもしれませんが、ともかく細部の緻密な描写に注目。いわゆる中国の理想の宴である蘭亭曲水の様子を、これでもかという程に墨の細かな筆致で埋め尽くしています。まさに濃密極まりない点描世界。
右:渡辺玄対「武陵桃源図」江戸時代/寛政4(1792)年
左:山本梅逸「畳泉密竹図」江戸時代/弘化2(1845)年
さらに渡辺玄対の「武陵桃源図」はどうでしょうか。のどかな理想郷を表した一枚。それにしても山肌を覆うドギツイまでの青み。確かに田園に家屋などの細部は端正ですが、色彩のコントラストはあまりにも大胆。言わばカラリスト玄対。目に焼き付きます。
右:福田古道人「桃渓山水図」昭和2(1927)年
左:岡本秋暉「蓮鷺図」江戸時代/19世紀 *作品の展示期間はいずれも5/21-6/16
そして岡本秋暉の「蓮鷺図」です。これも写真では何ともお伝えしにくいのですが、7羽の鷺を象る鋭利な筆致。枯れた蓮の葉や茎はどこか爛れておどろおどろしくもあり、また下方の波も何やら執拗までに細かくうねる描写が。思わずゾッとしてしまいます。
実は本展、今挙げた第2章の文人画が充実しています。ここは思いの外に見入りました。
右:長沢蘆雪「梅・薔薇に群鳥図」江戸時代/18世紀
中央:長沢蘆雪「藤に群雀図」江戸時代/18世紀
左:長沢蘆雪「西王母図」江戸時代/18世紀 *作品の展示期間はいずれも5/21-6/16
続いていわゆる奇想派へ。ここでまず嬉しいのは盧雪3点、「梅・薔薇に群鳥図」、「藤に群雀図」、「西王母図」のそろい踏みです。中でも可愛らしいのは中央の雀たち。その数17羽です。雀を描かせて盧雪の右に出るものはいませんが、それこそチュンチュンという鳴き声が聞こえてきそうなほど生き生きと。また藤の花の流れに雀の列という上から下への構図も巧妙。ともに輪郭線はありません。小品ながらも盧雪の画力を堪能出来る作品でした。
右:酒井抱一「遊女立姿図」江戸時代/19世紀
左:歌川豊春「遊女と禿図」江戸時代/18世紀
さて文人画の次に充実しているのが第5章の浮世絵。これがまた魅惑的なラインナップです。上の写真は歌川豊春の「遊女と禿図」と酒井抱一の「遊女立姿図」の取り合わせ。琳派の絵師抱一も20代の頃は浮世絵の手習いを。師はこの豊春。いわば師弟の二幅。顔の表情などは確かに豊春を吸収しています。
右:祇園井特「化粧美人図」江戸時代/18-19世紀
左:三畠上龍「舞姿美人図」江戸時代/19世紀
また京都の絵師、祇園井特の「化粧美人図」も目につく一枚。濃い眉に大きな鼻をした出立ち。重ねて塗ると玉虫色になったという口紅。下唇は緑色に染まり、一種異様な印象も。それこそデロリです。
曾我蕭白「宇治川合戦図屏風」江戸時代/18世紀
さらに順は前後しますが、曾我蕭白の「宇治川合戦図屏風」などもインパクトのある作品。またファインバーグ氏が狩野派で唯一、コレクションしたのが山雪というのもポイント。出品作の「訪戴安道・題李かん幽居図屏風」は全体の雰囲気こそ落ち着いていますが、やはり随所に山雪特有のうねりのある筆致が。一筋縄ではいきません。
酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」江戸時代/19世紀
その他には若冲に応挙に蕪村に其一らも。そうそう重要な作品を忘れていました。酒井抱一の「十二ヶ月花鳥図」の全12幅が一挙公開。しかも展示替えなしの通期展示。会期中ずっと楽しめます。
右:酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」から九月
左:酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」から十月 ともに江戸時代/19世紀
折しも東北三県巡回中の「若冲が来てくれました」展にも「十二ヶ月花鳥図」が出ていますが、そちらはプライス・バージョン。抱一の同セットは現在5組が確認されています。ちなみに本展で公開中のファインバーグ・バージョンは他のセットと共通する図柄が少ないとか。とりわけ10月の栴檀は他にはないモチーフが取り入れられています。
会期中展示替えが行われます。
[ファインバーグ・コレクション展出品リスト](PDF)
前期:5月21日~6月16日
後期:6月18日~7月15日
なお前期出品中の鈴木松年や福田古道人、そして後期の竹内栖鳳など、明治以降の作品が含まれているのも面白いところです。民間の絵師を中心に琳派から文人画、浮世絵までを幅広く網羅するファインバーグ・コレクション。ここは上品云々を抜きにして、「あなたに意外な印象を与える一枚」を見つけては如何でしょうか。
右:酒井抱一「宇津の細道図屏風」江戸時代/19世紀 *展示期間:5/21-6/16
左:鈴木其一「群鶴図屏風」江戸時代/19世紀
7月15日までの開催です。もちろん後期も追っかけます。
「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」 江戸東京博物館(@edohakugibochan)
会期:5月21日(火)~7月15日(日)
休館:月曜日。但し7月15日は開館。
時間:9:30~17:30 *毎週土曜日は19:30まで。
料金:一般1300(1040)円、大学・専門学校生1040(830)円、小・中・高校生・65歳以上650(520)円
*( )内は20名以上の団体料金。常設展との共通券あり。
場所:墨田区横網1-4-1
交通:JR総武線両国駅西口徒歩3分、都営地下鉄大江戸線両国駅A4出口徒歩1分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。また掲載作品は全てファインバーグ・コレクションです。
「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」
5/21-7/15
江戸東京博物館で開催中の「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」のプレスプレビューに参加してきました。
「開眼式」になぞらえて「私の目を開いてくれたものは日本の江戸絵画。」とまでコメントするアメリカの実業家、ロバート&ベッツィーファインバーグ夫妻。
ファインバーグ夫妻が江戸絵画と初めて接点を持ったのは1970年代。それは何とメトロポリタン美術館で見たという南蛮図屏風のポスター。以来40年、江戸絵画の蒐集と研究を重ねた夫妻は、類い稀なコレクション形成。その質と量は既に良く知られています。
「ファインバーグ・コレクション展」会場風景
ずばり里帰りです。ファインバーグ夫妻の江戸絵画コレクションが江戸東京博物館へとやってきました。
第1章 日本美のふるさと 琳派
第2章 中国文化へのあこがれ 文人画
第3章 写生と装飾の融合 円山四条派
第4章 大胆な発想と型破りな造形 奇想派
第5章 都市生活の美化、理想化 浮世絵
さてコレクションの特徴としてまず第一に挙げられるのは、いわゆる狩野派や土佐派などの官画派の作品が殆どないこと。つまり民間の文人画や琳派、それに円山派などが中心となっていることです。また若冲、盧雪、蕭白らのいわゆる奇想の絵師も。さらに浮世絵が入っているのもポイントです。
またチラシに記載もあるように「全体として上品な雰囲気を持っていることも大きな特徴。」。確かに温和でかつ優美な作品が目につきます。
しかしながらあえて申し上げます。もちろん上品でありながらも、実は迫力があり、またさり気なく個性的。さらにどこか異様な表情を持つ作品があるのも見逃せないところです。もちろんいずれも優品ではありますが、例えば単に「美しい」や「綺麗」で終わってしまうには勿体ない作品も少なくありません。
池大雅「孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風」(右隻)江戸時代/18世紀
というわけでまずはこちらから。池大雅の「孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風」。中国の高士二人の帽子や笠にまつわる故事を描いたとされる屏風絵。右隻の高士しかり、微笑ましいまでののびのびとした表現は、優美と言うよりもユーモラス。空間構成も大胆です。
右:紀梅亭「蘭亭曲水図」江戸時代/文化2(1805)年
ではもう一枚。紀梅亭の「蘭亭曲水図」です。写真では一見、地味に見えるかもしれませんが、ともかく細部の緻密な描写に注目。いわゆる中国の理想の宴である蘭亭曲水の様子を、これでもかという程に墨の細かな筆致で埋め尽くしています。まさに濃密極まりない点描世界。
右:渡辺玄対「武陵桃源図」江戸時代/寛政4(1792)年
左:山本梅逸「畳泉密竹図」江戸時代/弘化2(1845)年
さらに渡辺玄対の「武陵桃源図」はどうでしょうか。のどかな理想郷を表した一枚。それにしても山肌を覆うドギツイまでの青み。確かに田園に家屋などの細部は端正ですが、色彩のコントラストはあまりにも大胆。言わばカラリスト玄対。目に焼き付きます。
右:福田古道人「桃渓山水図」昭和2(1927)年
左:岡本秋暉「蓮鷺図」江戸時代/19世紀 *作品の展示期間はいずれも5/21-6/16
そして岡本秋暉の「蓮鷺図」です。これも写真では何ともお伝えしにくいのですが、7羽の鷺を象る鋭利な筆致。枯れた蓮の葉や茎はどこか爛れておどろおどろしくもあり、また下方の波も何やら執拗までに細かくうねる描写が。思わずゾッとしてしまいます。
実は本展、今挙げた第2章の文人画が充実しています。ここは思いの外に見入りました。
右:長沢蘆雪「梅・薔薇に群鳥図」江戸時代/18世紀
中央:長沢蘆雪「藤に群雀図」江戸時代/18世紀
左:長沢蘆雪「西王母図」江戸時代/18世紀 *作品の展示期間はいずれも5/21-6/16
続いていわゆる奇想派へ。ここでまず嬉しいのは盧雪3点、「梅・薔薇に群鳥図」、「藤に群雀図」、「西王母図」のそろい踏みです。中でも可愛らしいのは中央の雀たち。その数17羽です。雀を描かせて盧雪の右に出るものはいませんが、それこそチュンチュンという鳴き声が聞こえてきそうなほど生き生きと。また藤の花の流れに雀の列という上から下への構図も巧妙。ともに輪郭線はありません。小品ながらも盧雪の画力を堪能出来る作品でした。
右:酒井抱一「遊女立姿図」江戸時代/19世紀
左:歌川豊春「遊女と禿図」江戸時代/18世紀
さて文人画の次に充実しているのが第5章の浮世絵。これがまた魅惑的なラインナップです。上の写真は歌川豊春の「遊女と禿図」と酒井抱一の「遊女立姿図」の取り合わせ。琳派の絵師抱一も20代の頃は浮世絵の手習いを。師はこの豊春。いわば師弟の二幅。顔の表情などは確かに豊春を吸収しています。
右:祇園井特「化粧美人図」江戸時代/18-19世紀
左:三畠上龍「舞姿美人図」江戸時代/19世紀
また京都の絵師、祇園井特の「化粧美人図」も目につく一枚。濃い眉に大きな鼻をした出立ち。重ねて塗ると玉虫色になったという口紅。下唇は緑色に染まり、一種異様な印象も。それこそデロリです。
曾我蕭白「宇治川合戦図屏風」江戸時代/18世紀
さらに順は前後しますが、曾我蕭白の「宇治川合戦図屏風」などもインパクトのある作品。またファインバーグ氏が狩野派で唯一、コレクションしたのが山雪というのもポイント。出品作の「訪戴安道・題李かん幽居図屏風」は全体の雰囲気こそ落ち着いていますが、やはり随所に山雪特有のうねりのある筆致が。一筋縄ではいきません。
酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」江戸時代/19世紀
その他には若冲に応挙に蕪村に其一らも。そうそう重要な作品を忘れていました。酒井抱一の「十二ヶ月花鳥図」の全12幅が一挙公開。しかも展示替えなしの通期展示。会期中ずっと楽しめます。
右:酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」から九月
左:酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」から十月 ともに江戸時代/19世紀
折しも東北三県巡回中の「若冲が来てくれました」展にも「十二ヶ月花鳥図」が出ていますが、そちらはプライス・バージョン。抱一の同セットは現在5組が確認されています。ちなみに本展で公開中のファインバーグ・バージョンは他のセットと共通する図柄が少ないとか。とりわけ10月の栴檀は他にはないモチーフが取り入れられています。
会期中展示替えが行われます。
[ファインバーグ・コレクション展出品リスト](PDF)
前期:5月21日~6月16日
後期:6月18日~7月15日
なお前期出品中の鈴木松年や福田古道人、そして後期の竹内栖鳳など、明治以降の作品が含まれているのも面白いところです。民間の絵師を中心に琳派から文人画、浮世絵までを幅広く網羅するファインバーグ・コレクション。ここは上品云々を抜きにして、「あなたに意外な印象を与える一枚」を見つけては如何でしょうか。
右:酒井抱一「宇津の細道図屏風」江戸時代/19世紀 *展示期間:5/21-6/16
左:鈴木其一「群鶴図屏風」江戸時代/19世紀
7月15日までの開催です。もちろん後期も追っかけます。
「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」 江戸東京博物館(@edohakugibochan)
会期:5月21日(火)~7月15日(日)
休館:月曜日。但し7月15日は開館。
時間:9:30~17:30 *毎週土曜日は19:30まで。
料金:一般1300(1040)円、大学・専門学校生1040(830)円、小・中・高校生・65歳以上650(520)円
*( )内は20名以上の団体料金。常設展との共通券あり。
場所:墨田区横網1-4-1
交通:JR総武線両国駅西口徒歩3分、都営地下鉄大江戸線両国駅A4出口徒歩1分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。また掲載作品は全てファインバーグ・コレクションです。
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