「貴婦人と一角獣」 国立新美術館

国立新美術館
「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」
4/24-7/15



国立新美術館で開催中の「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」のプレスプレビューに参加してきました。

中世ヨーロッパ美術の傑作とも名高いタピスリー「貴婦人と一角獣」。おそらくは1500年頃に制作され、長らくフランスの古城の調度品として扱われながら、19世紀になってメリメやサンドなどの文学者によって『発掘』。以来、クリュニー中世美術館に収められ、殆ど門外不出の至宝として大切に扱われてきました。

同美術館を出たのは過去一回だけ。1974年のアメリカのメトロポリタン美術館です。その作品が何と海を渡って日本へ。ここ国立新美術館で公開されています。

展示は6面タピスリー「貴婦人と一角獣」の他、同時代の美術品など全40点弱。おや国立新美にしては点数が少ないぞ、と思われる方もおられるかもしれませんが、そこはあえてタピスリーと関連のモチーフのみに集中。

同時代の工芸、染織などから「貴婦人と一角獣」のエッセンスを多面的に紹介。それらを交互に見比べることで、「貴婦人と一角獣」の魅力を存分に味わえるような構成となっています。


「貴婦人と一角獣展」会場風景

では早速、会場へ。いきなり広がるのがこの景色、堂々たる「貴婦人と一角獣」全6面です。いずれも高さは3メートルから4メートル弱。そして幅は2メートル90センチから4メートル70センチまで。それらが城の大広間を思わせる空間をぐるりと取り囲む姿。まさに天井高のある国立新美だからこそ可能なスケール感のある展示です。

さて引きで見ても良し、もちろん近くで見ても良し。細かな植物に樹木。いわゆる千花模様、ミル・フルールと呼ばれる美しき花園。そして猿や兎などの動物たち。さらには旗や幟を持つ獅子に一角獣。そして貴婦人に侍女。一体これらは何を意味するのか。

これらは既に知られているように、人間の感覚、つまりつまり触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚を表したもの。会場でも向かって左からその順番に。いくつか簡単に見ていきましょう。


タピスリー「貴婦人と一角獣『味覚』」1500年頃 羊毛、絹
フランス国立クリュニー中世美術館
RMN-Grand Palais / Franck Raux / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom


第二面の「味覚」。赤いミル・フルールを背景に立つのは樹木と紋章。そして下方にはバラの生垣に囲まれた円形状の空間。そこに貴婦人らが様々なポースを。貴婦人は侍女の持つ器から取り出した砂糖菓子をオウムに与えています。また手間への猿も何やら口に手を当てて食べるそぶりを。そういえば幟を持つ獅子も大きく口をあけて物欲しそうに。ようは味覚にまつわるシーンが描写されているわけです。


タピスリー「貴婦人と一角獣『視覚』」1500年頃 羊毛、絹
フランス国立クリュニー中世美術館
RMN-Grand Palais / Franck Raux / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom


また今度は第5面の「視覚」を。今度は鏡を持った貴婦人が座りながら一角獣をなだめるような姿が。鏡の中にははっきりと一角獣の様子が写り込み、確かに視覚が主題となっていることがわかります。

ちなみにお気づきかと思いますが、一連の連作、一定の様式に基づきながらも、細部や表現などにはかなり違いがあるのもポイントです。そもそも今挙げた「味覚」と「視覚」の貴婦人。表情から顔立ちからしてまるで別。

それに例えば「味覚」では紋章の盾を付けていた獅子と一角獣も、「視覚」では何も付けていません。また生垣の有無しかり、樹木の数、そしてもちろん登場する動物たちの数などもまるで違います。


「貴婦人と一角獣展」会場風景

そこに見る側の様々な解釈を生むわけですが、長くなってしまうのでここでは触れません。しかしながらさらに寓意に目を向けるとより深く作品世界へ入り込めるのではないでしょうか。例えばオウムは好色、猿は悪徳、またウサギは多産。犬や獅子は忠誠、そして一角獣は純潔などの意味が。その辺については会場でもパネルなどかなり細かく紹介されていました。

「アイテムで読み解く西洋名画/佐藤晃子/山川出版社」
*西洋画における様々な寓意を知るのに最適な一冊。「貴婦人と一角獣」についても言及があります。おすすめです!(紹介記事

さて触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚と続くタペスリー。あと一枚足りません。では最後に何が待ち構えているのか。それが第6面の「我が唯一の望み」。「貴婦人と一角獣」の中で最も大きなタピスリーです。


タピスリー「貴婦人と一角獣『我が唯一の望み』」1500年頃 羊毛、絹
フランス国立クリュニー中世美術館
RMN-Grand Palais / Franck Raux / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom


この「我が唯一の望み」とは6面中唯一、描かれた幕屋に記されたもの。5感を表してきたこれまでのタペスリーとは明らかに違う展開。どういうことなのでしょうか。

結論から述べると、本作に登場する紋章はルイ・ヴィスト家のもの。そしてここでは銘文がAとI、つまり注文主のアントワーヌ2世ルイ・ヴィストと、最初の妻ジャクリーヌのイニシャルに挟まれていることから、彼らの婚礼のために制作されたものではないかということです。よってタピスリー中、貴婦人が箱から取り出しているように見えるアクセサリーも、婚礼のための贈りものという解釈がなされています。つまりそれまでの感覚的なものから恋愛や結婚へと繋がる展開です。


「貴婦人と一角獣展」会場風景 *右:タピスリー「貴婦人と一角獣『我が唯一の望み』」

もちろんそれを箱から出しているのではなく、箱へ入れていると見るとどうなるのか。それに他で貴婦人がしている髪型をここでは何故か侍女がしていることなど、様々な議論の余地があるのも事実。その謎めいた点にも面白さがあります。ここは作品の前であれこれと思いを巡らせたいところです。


手前:「上祭服」15世紀末か16世紀初頭 絹、金糸他
フランス国立クリュニー中世美術館


さて後半は先にも触れた「貴婦人と一角獣」に関連する工芸品などがずらり。タピスリーにも出てきた紋章をはじめ、貴婦人のファッションに着目し、華麗な衣服や装身具なども出品。さらには同時代のタピスリーも数面展示。


右:「放蕩息子の出発」 1510-1520年頃 羊毛、絹
フランス国立クリュニー中世美術館


中でも横6メートル超の「放蕩息子の出発」は圧巻。左から息子の出発、馬での移動、さらには宿で女性に迎えられる3つのシーンが表されています。


VR映像作品「貴婦人と一角獣へのオマージュ」 制作・著作:NHK、NHKプロモーション、凸版印刷株式会社
撮影協力:Musee de Cluny、RMN-GP


もう一つ展覧会を伝える上で重要なのが映像。本展示にあわせて制作された幅11メートル、縦3メートルの大型スクリーンによるVR映像「貴婦人と一角獣へのオマージュ」です。


VR映像作品「貴婦人と一角獣へのオマージュ」 制作・著作:NHK、NHKプロモーション、凸版印刷株式会社
撮影協力:Musee de Cluny、RMN-GP


これが秀逸。現地で撮影された高精細デジタルアーカイブを利用しての拡大画像。タピスリーの細部の細部、織り目まではっきりと分かるほどに拡大。またそれぞれのモチーフを(例えば貴婦人のみなど。)抜き出し、各場面を比較して見ることが可能です。

また今回の会場、順路が一方向ではないのも特徴。いわゆる回遊式です。関連の工芸品なり、解説パネルを見たあとに、また「貴婦人と一角獣」のフロアへ戻ることも出来ます。行き来は自由でした。(VRの場所が少し分かりにくいかもしれません。ご注意下さい。)


「貴婦人と一角獣展」会場風景 *左:タピスリー「貴婦人と一角獣『味覚』」

おそらくもう次はないであろうフランスの誇る「貴婦人と一角獣」の来日展示。作品の美しさは当然のこと、テーマも明確、展示は効果的です。期待以上でした。

「芸術新潮2013年5月号/貴婦人と一角獣/新潮社」

7月15日までの開催です。混まないうちにお早めにお出かけ下さい。*東京展終了後は国立国際美術館(7/27~10/20)へと巡回。

「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」 国立新美術館
会期:4月24日(水)~7月15日(月・祝)
休館:火曜日。但し4月30日は開館。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
料金:一般1500(1300)円、 大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は団体料金。4月27日(土)、28日(日)、29日(月・祝)は高校生無料観覧日。(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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