都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「金銀の系譜~宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」 静嘉堂文庫美術館
静嘉堂文庫美術館
「金銀の系譜~宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」
10/31-12/23
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/85/cabac0f0d4b493d1b062fb77cfa8fcfd.jpg)
静嘉堂文庫美術館で開催中の「金銀の系譜~宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」のプレスプレビューに参加してきました。
2014年より設備改修工事のため休館していた静嘉堂文庫美術館。約1年半ぶりのリニューアルオープンです。それを記念して館蔵の琳派コレクションのほか、同時代の絵画や工芸、さらには「曜変天目」などを紹介した展覧会が行われています。
さてタイトルにもある金と銀。うちやはり注目したいのは宗達と抱一です。もちろん金は宗達で銀は抱一。「源氏物語関屋・澪標図屏風」と「波図屏風」の同時展示です。なかでも宗達の「源氏物語関屋・澪標図屏風」は約10年ぶりの出展。かの東京国立博物館の大琳派展にも出ていませんでした。理由は状態です。元々、かなり痛んでいたため、平成22年より約3年間ほど修復作業がなされました。それを終えての公開というわけです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/42/a5b69a877174ffd61970f7f3fec4a643.jpg)
国宝 俵屋宗達「源氏物語関屋・澪標図屏風」 江戸・17世紀
宗達の国宝指定品の3点のうちの1点。右が関屋図で左が澪標図です。いずれも源氏がかつて縁を結んだ女性との再会を表したもの。たくさんの人物がいますが、実に興味深いのは源氏本人はおろか、対象となる女性、つまり明石の君も空蝉の姿も描かれていないことです。
澪標図で源氏が乗るのは水辺の牛車です。一方で明石の君は海上の舟の中にいます。姿は確認出来ません。ただし従者たちが慌てたかのように舟の方向を向いています。中には指をさしている者もいました。近づきながらも会うことのない二人の物語。それを半ば暗示的に描いています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/b7/47a32446dc586b8b875071808a54628e.jpg)
国宝 俵屋宗達「源氏物語関屋・澪標図屏風」(左隻より) 江戸・17世紀
関屋図でも源氏と空蝉は互いに牛車に乗っています。やはり姿を見ることは叶いません。また面白いのは対比的な表現をとっていることです。端的に明らかなのは海と山。そして白砂の白に山の緑も異なります。また松林の垂直線や白砂の曲線に対し、山の際の水平線も意識的に表したと考えられているそうです。
修復のプロセスについてはパネルで案内がありました。実は私も修復前の様子を見たことがなく、前後を比較出来ませんが、案内によれば亀裂を塞いでは補強、絵具の剥離部分も丹念に接着させたそうです。また描き直しの跡を分析しては最初の描線や彩色を確認。さらに紙の周囲の裂の下に絵が描かれていたことも分かりました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/52/fa672d331c91828b5cf7c960528cd51c.jpg)
酒井抱一「波図屏風」 江戸・文化12(1815)年頃
抱一の「波図屏風」はどうでしょうか。六曲一双の銀地に波打つ大海原。波は荒れ狂うかのように左右へ広がっています。波濤はまるで何らかの生き物の触手のようです。波間にはうっすらと藍が刷かれています。もちろん背景の銀は月明かりでしょう。手前の力強い波と奥の穏やかな波の対比も特徴的です。波濤には胡粉が塗られています。一部には緑も重っていました。際立つ水しぶき。ちなみにリニューアルに際し、照明が全てLEDに交換されています。それゆえでしょうか。より胡粉の白さが引き立っても見えました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/c1/a4c8be62872b6dfd174323bdaf61b55e.jpg)
酒井抱一「軽挙館句藻」 江戸・寛政2(1790)年~文政11(1828)年
本作は抱一自身が書簡で「自慢作」と記した会心作です。その書簡もあわせて展示されています。また抱一の自筆句稿である「軽挙館句藻」をはじめ、「尾形流略印譜」や「光琳百図」などの資料も出品。光琳顕彰にも言及があります。その辺も見どころと言えそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/b0/591e965ce19123d9cc826bdc02176bc4.jpg)
国宝 「曜変天目(稲葉天目)」 南宋・12~13世紀
さてもう一つの目玉、それは言うまでもなく「曜変天目」でしょう。現存する三碗(ないしは四碗)のうちの一つ、最も光彩が際立つとされるものです。まさしく器に宇宙の星を見るかのような煌めき。星紋は大きい。何やら熟れて爛れているようにも見えます。展示方法に驚きました。というのもガラス越しに太陽の光も降り注ぐラウンジに展示されているのです。
ちょうど今年の夏に藤田美術館所蔵の「曜変天目」をサントリー美術館で見ましたが、その際は暗室の中、やや強い照明で天目茶碗を照らし出していました。自然光は皆無でした。
もちろん作品は異なるとはいえ、暗室と外光の入る空間での印象は大きく異なります。なお館の方によれば晴れた日の夕方以降、西美が差し込む時間帯が特に美しいそうです。その時間を狙って行くのも良いかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/f4/daa6ab0cd2027bcfacbfdb0f535a7e0d.jpg)
本阿弥光悦「草木摺絵新古今和歌巻」 江戸・17世紀(寛永10年紀) *巻替えあり
ほかには光悦の「草木摺絵新古今和歌巻」に伊年印の「四季草花図屏風」、さらに其一の「雪月花三美人図」などと優品がずらり。点数こそ40点ほどに過ぎませんが、さすがに粒揃いです。見応えがありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/97/5f2f8304c3722cd05dcbfaa697a8c158.jpg)
「金銀の系譜」展示風景
館内のリニューアルは、空調や防火、及び電気系統などの設備面がメインです。見た目に関しては殆ど変わっていません。ただし先にも触れたように照明は一新。カーペットも新装されました。またショップもレイアウトが変更になったそうです。書籍の取り扱いもありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/4b/e4d368a1ae4b132ecf1532e845c5261d.jpg)
伝尾形光琳「鶴鹿図屏風」 江戸・18世紀
一部の作品に展示替えがあります。修復作業を経て公開されるもう1点、尾形光琳の「住之江蒔絵硯箱」は後期からの展示です。ご注意下さい。
「金銀の系譜~宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」出品リスト(PDF)
前期:10月31日~11月23日
後期:11月25日~12月23日
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/da/b5333f00ea9ed7a8352fea3d5dd58630.jpg)
静嘉堂文庫
12月23日まで開催されています。
「金銀の系譜~宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」 静嘉堂文庫美術館
会期:10月31日(土)~12月23日(祝・水)
休館:月曜日。但し11/23は開館、翌24日は休館。
時間:10:00~16:30 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学・高校生700円、中学生以下無料。
*一般・大高生は20名以上の団体割引あり。
場所:世田谷区岡本2-23-1
交通:二子玉川駅4番のりばより東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車、徒歩5分。成城学園前駅南口バスのりばより二子玉川駅行きバスにて「吉沢」下車。大蔵通りを北東方向に徒歩約10分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「金銀の系譜~宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」
10/31-12/23
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/85/cabac0f0d4b493d1b062fb77cfa8fcfd.jpg)
静嘉堂文庫美術館で開催中の「金銀の系譜~宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」のプレスプレビューに参加してきました。
2014年より設備改修工事のため休館していた静嘉堂文庫美術館。約1年半ぶりのリニューアルオープンです。それを記念して館蔵の琳派コレクションのほか、同時代の絵画や工芸、さらには「曜変天目」などを紹介した展覧会が行われています。
さてタイトルにもある金と銀。うちやはり注目したいのは宗達と抱一です。もちろん金は宗達で銀は抱一。「源氏物語関屋・澪標図屏風」と「波図屏風」の同時展示です。なかでも宗達の「源氏物語関屋・澪標図屏風」は約10年ぶりの出展。かの東京国立博物館の大琳派展にも出ていませんでした。理由は状態です。元々、かなり痛んでいたため、平成22年より約3年間ほど修復作業がなされました。それを終えての公開というわけです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/42/a5b69a877174ffd61970f7f3fec4a643.jpg)
国宝 俵屋宗達「源氏物語関屋・澪標図屏風」 江戸・17世紀
宗達の国宝指定品の3点のうちの1点。右が関屋図で左が澪標図です。いずれも源氏がかつて縁を結んだ女性との再会を表したもの。たくさんの人物がいますが、実に興味深いのは源氏本人はおろか、対象となる女性、つまり明石の君も空蝉の姿も描かれていないことです。
澪標図で源氏が乗るのは水辺の牛車です。一方で明石の君は海上の舟の中にいます。姿は確認出来ません。ただし従者たちが慌てたかのように舟の方向を向いています。中には指をさしている者もいました。近づきながらも会うことのない二人の物語。それを半ば暗示的に描いています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/b7/47a32446dc586b8b875071808a54628e.jpg)
国宝 俵屋宗達「源氏物語関屋・澪標図屏風」(左隻より) 江戸・17世紀
関屋図でも源氏と空蝉は互いに牛車に乗っています。やはり姿を見ることは叶いません。また面白いのは対比的な表現をとっていることです。端的に明らかなのは海と山。そして白砂の白に山の緑も異なります。また松林の垂直線や白砂の曲線に対し、山の際の水平線も意識的に表したと考えられているそうです。
修復のプロセスについてはパネルで案内がありました。実は私も修復前の様子を見たことがなく、前後を比較出来ませんが、案内によれば亀裂を塞いでは補強、絵具の剥離部分も丹念に接着させたそうです。また描き直しの跡を分析しては最初の描線や彩色を確認。さらに紙の周囲の裂の下に絵が描かれていたことも分かりました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/52/fa672d331c91828b5cf7c960528cd51c.jpg)
酒井抱一「波図屏風」 江戸・文化12(1815)年頃
抱一の「波図屏風」はどうでしょうか。六曲一双の銀地に波打つ大海原。波は荒れ狂うかのように左右へ広がっています。波濤はまるで何らかの生き物の触手のようです。波間にはうっすらと藍が刷かれています。もちろん背景の銀は月明かりでしょう。手前の力強い波と奥の穏やかな波の対比も特徴的です。波濤には胡粉が塗られています。一部には緑も重っていました。際立つ水しぶき。ちなみにリニューアルに際し、照明が全てLEDに交換されています。それゆえでしょうか。より胡粉の白さが引き立っても見えました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/c1/a4c8be62872b6dfd174323bdaf61b55e.jpg)
酒井抱一「軽挙館句藻」 江戸・寛政2(1790)年~文政11(1828)年
本作は抱一自身が書簡で「自慢作」と記した会心作です。その書簡もあわせて展示されています。また抱一の自筆句稿である「軽挙館句藻」をはじめ、「尾形流略印譜」や「光琳百図」などの資料も出品。光琳顕彰にも言及があります。その辺も見どころと言えそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/b0/591e965ce19123d9cc826bdc02176bc4.jpg)
国宝 「曜変天目(稲葉天目)」 南宋・12~13世紀
さてもう一つの目玉、それは言うまでもなく「曜変天目」でしょう。現存する三碗(ないしは四碗)のうちの一つ、最も光彩が際立つとされるものです。まさしく器に宇宙の星を見るかのような煌めき。星紋は大きい。何やら熟れて爛れているようにも見えます。展示方法に驚きました。というのもガラス越しに太陽の光も降り注ぐラウンジに展示されているのです。
ちょうど今年の夏に藤田美術館所蔵の「曜変天目」をサントリー美術館で見ましたが、その際は暗室の中、やや強い照明で天目茶碗を照らし出していました。自然光は皆無でした。
もちろん作品は異なるとはいえ、暗室と外光の入る空間での印象は大きく異なります。なお館の方によれば晴れた日の夕方以降、西美が差し込む時間帯が特に美しいそうです。その時間を狙って行くのも良いかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/f4/daa6ab0cd2027bcfacbfdb0f535a7e0d.jpg)
本阿弥光悦「草木摺絵新古今和歌巻」 江戸・17世紀(寛永10年紀) *巻替えあり
ほかには光悦の「草木摺絵新古今和歌巻」に伊年印の「四季草花図屏風」、さらに其一の「雪月花三美人図」などと優品がずらり。点数こそ40点ほどに過ぎませんが、さすがに粒揃いです。見応えがありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/97/5f2f8304c3722cd05dcbfaa697a8c158.jpg)
「金銀の系譜」展示風景
館内のリニューアルは、空調や防火、及び電気系統などの設備面がメインです。見た目に関しては殆ど変わっていません。ただし先にも触れたように照明は一新。カーペットも新装されました。またショップもレイアウトが変更になったそうです。書籍の取り扱いもありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/4b/e4d368a1ae4b132ecf1532e845c5261d.jpg)
伝尾形光琳「鶴鹿図屏風」 江戸・18世紀
一部の作品に展示替えがあります。修復作業を経て公開されるもう1点、尾形光琳の「住之江蒔絵硯箱」は後期からの展示です。ご注意下さい。
「金銀の系譜~宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」出品リスト(PDF)
前期:10月31日~11月23日
後期:11月25日~12月23日
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静嘉堂文庫
12月23日まで開催されています。
「金銀の系譜~宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」 静嘉堂文庫美術館
会期:10月31日(土)~12月23日(祝・水)
休館:月曜日。但し11/23は開館、翌24日は休館。
時間:10:00~16:30 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学・高校生700円、中学生以下無料。
*一般・大高生は20名以上の団体割引あり。
場所:世田谷区岡本2-23-1
交通:二子玉川駅4番のりばより東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車、徒歩5分。成城学園前駅南口バスのりばより二子玉川駅行きバスにて「吉沢」下車。大蔵通りを北東方向に徒歩約10分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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