「中島清之展」 横浜美術館

横浜美術館
「横浜発おもしろい画家 中島清之 日本画の迷宮」
2015/11/3-2016/1/11



横浜美術館で開催中の「横浜発おもしろい画家 中島清之 日本画の迷宮」を見てきました。

「横浜発」に「迷宮」。「おもしろい」とまで銘打たれた日本画家展。ただチラシにも「知っていますか。」とあるように、必ずしも良く知られた画家とは言えないかもしれません。

「横浜発」、しかしながら生まれは京都の山科でした。幼少期を笠置や加茂などの京都府南部に過ごします。横浜へやって来たのは16歳の時です。いわゆる二足のわらじということでしょうか。銀行に勤めながら松本楓湖の画塾に出入し、山村耕花らの指導も受けます。25歳にして院展に初入選。その後は観山や御舟の知遇を得ます。そして日本画家としての生計を立てました。戦中に小布施に疎開した以外は、終生横浜を拠点に活動したそうです。


「保土ヶ谷風景」 1924(大正13)年 絹本着色・額 滋賀県立近代美術館 *前期展示

まさしく横浜です。「保土ヶ谷風景」に目が止まりました。鬱蒼とした山深き里。茅葺の家屋が高い木に覆われています。一人の女性が外に出ていました。暗く翳りながらも、うっすらと光が差し込みます。金泥です。仄かな明かり。牧歌的な景色が広がっています。

大正関東地震では被災した横浜の様子をスケッチに多く残したそうです。日記には被害状況も事細かに記しています。また「関東大震災絵巻」も震災を描いたもの。灰燼と化した横浜市中心部を山手の自宅から俯瞰して表しています。清之は修行時代、「スケッチ魔」と呼ばれていました。対象を的確に捉えては描く姿勢は、初期の写実的な絵画に結実したのかもしれません。


「花に寄る猫」 1934(昭和9)年 紙本着色・額 個人蔵(大佛次郎旧蔵)

同じく横浜に生まれた大佛次郎との関わりを示す作品がありました。「花に寄る猫」です。色彩鮮やかな百日草のそばで睨みをきかす白い猫。次郎がアバレと名付けて愛した猫です。また「小トン」でも次郎の愛猫を描いています。白くピンク色の牡丹、葉はたらしこみでしょうか。質感を変えては表現しています。

「湯あみ」も素晴らしい。やや高い視点から表しているのは木製の浴槽。2人の女性が入浴しています。真っ白い肌が露わです。ともに足を伸ばしてはのんびりとくつろぐ。お湯はうっすらと緑色を帯びていました。また湯気が立つのか画面全体が白んでもいます。小倉遊亀の「浴女」を思い出しました。何とも美しく、品があり、清潔感にも溢れた作品ではないでしょうか。


「方広会の夜」 1950(昭和25)年 紙本着色・二曲屏風一隻 横浜美術館

画塾では古画の研究にも熱心に取り組みます。「おん祭」では春日大社の行事を描きました。社を俯瞰しては、道を進む楽人たち。端正な筆です。古径画を連想しました。ラストは大太鼓をクローズアップして表します。どこかお祭りを映像で追ったかのような構成です。完成に5年もかけた大変な力作。全7枚あったそうですが、現在は残念ながら6枚目が行方不明。所在が分かっていません。

さて「日本画の迷宮」、それは変遷を重ねる清之の多彩な画風を表しているのかもしれません。

「流れB」と題した一枚の作品に驚きました。流れとは水、清之が旅して見たという瀬戸内の潮流です。しかしながら画面に描かれたのはほぼ色のストライプのみ。黄やピンク、それに黒の帯が斜めに引かれています。僅かに下に飛沫を示す白い波がありました。そこだけが言ってしまえば具象です。ほかは抽象世界。もはや海が描かれているのかさえ分かりません。


「顔」 1960(昭和35)年 紙本着色・額 東京藝術大学

「顔」も鮮烈でした。顔とは仏様のお顔。燃えるような朱色に包まれた顔が浮かび上がります。陰影は輪郭線のみ。やや立体的に描かれていることに気がつきました。これはボール紙を貼っては顔をレリーフ状に浮かび上がらせたゆえのもの。もはや実験的とさえいえる取り組みを行っています。

清之は戦後、アンフォルメルや抽象主義の影響を受けては画風を変化させていきます。そしてそれが「おもしろい」。芸達者な清之の画業を一まとめにすることは出来ません。

ただ一見、抽象的とはいえ、どこか詩情をたたえた作品を残しているのもポイントです。

その白眉が「緑扇」でした。一面の竹林。逆光です。金色の光が笹から漏れてはキラキラと瞬いています。銀の輝きも交じっていました。プラチナ箔を用いているそうです。角度を変えれば光が移ろって見えます。美しい。一つのデザインと捉えても引き立っています。どこか琳派のセンスを感じさせる作品ではないでしょうか。

琳派といえば三渓園臨春閣に描いた襖絵も同様です。中でも「鶴図」。宗達を意識したのかもしれません。群れをなしては飛び立つ鶴。まるで連写です。さもバサバサと音を立てては舞う姿が描かれています。


「喝采」 1973(昭和48)年 横浜美術館

チラシの表紙の「喝采」のモデルはちあきなおみでした。オレンジ色に染まったドレス。華やかです。左手を真っ直ぐに振り上げては口を大きく開けて歌い上げます。いわゆるサビの部分でしょうか。決めポーズと言っても良い立ち姿を見せています。

よく見ると身体の描線が朱色で引かれていることが分かりました。この作品に限らず、清之の後期の人物画には多くの朱線が現れています。朱線による身体表現といえば仏画を表す技法です。また背景のオーケストラは金と銀の箔のシルエットです。清之は京都府南部に住んでいた頃、最寄りの奈良に足を運んでは仏教美術に親しんでいたそうです。確かに横浜の画家ではありますが、ひょっとすると関西の仏教文化にシンパシーを抱いていたのやもしれません。


「若草」 1978(昭和53)年 紙本着色・二曲屏風一隻 佐野美術館

作品は資料を含め180点。充実しています。不足ありません。編年的な構成も効果的です。清之の画風の変化を分かりやすい形で追うことが出来ました。

なお中島清之は日本画家、中島千波の父でもあります。まだ幼き千波を描いた小品なども目を引きました。

一部の作品に展示替えがあります。三渓園の襖絵は前後期で半分ずつの展示です。ご注意下さい。

前期:11月3日(火・祝)~12月2日(水)
後期:12月4日(金)~1月11日(月・祝)



2016年1月11日まで開催されています。

「横浜発おもしろい画家 中島清之 日本画の迷宮」 横浜美術館@yokobi_tweet
会期:2015年11月3日(火・祝)~2016年1月11日(月・祝)
休館:木曜日。年末年始(12月29日~1月2日)。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200(1100)円、大学・高校生800(700)円、中学生400(300)円。小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。要事前予約。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。
 *当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
 *11月3日(火・祝)は無料。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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