都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「オットー・クンツリ展」 東京都庭園美術館
東京都庭園美術館
「オットー・クンツリ展」
10/10-12/27
東京都庭園美術館で開催中の「オットー・クンツリ展」を見て来ました。
「コンテンポラリー・ジュエリーの分野を代表する」(展覧会サイトより)というスイス人アーティスト、オットー・クンツリ(1948~)。彼の制作の全体像を紹介する国際巡回展です。
2013年にミュンヘン、そして昨年はローザンヌの美術館で行われた回顧展の東京バージョン。日本では東京都庭園美術館のみでの開催です。
作品は約200件。ジュエリーのみならずインスタレーションや映像も含みます。また東京展のための新作も出品。お馴染みのアール・デコの館内を効果的に活かしています。
本館の一部と新館展示室の撮影が出来ました。
まず象徴的なのはチラシの表紙です。ハートのブローチ。モデルは舞踏家の石井かほるさんです。黒いドレスに付けられたのは燃え上がるように赤いハート。血の赤でもあります。まさに情熱的なまでの愛がこめられているのでしょうか。一目で脳裏に焼き付くかのような鮮烈なビジュアルです。シンプルながらも訴えかけるものの少なくないクンツリのジュエリー。その例の一つと言えるかもれません。
「2人のためのリング」(図版) 1980年
「2人のためのリング」には驚きました。2つのリングが一本の棒によって固く結びつけられています。このリングを身に付けようものならカップルはもう離れることを許されません。愛は時に強い束縛を伴うものでもある。そうリングが訴えているように見えました。
「ビッグ・ファミリー」 2015年 インスタレーション マルチメディア
参加型のインスタレーションがありました。「ビッグ・ファミリー」です。小さな窪みのある白いテーブル。その上に来場者の持ち込んだ円い玉が置かれています。形さえ玉であれば何でも良いそうです。それを繋げては一つのネックレスを完成させていきます。大きさも形も素材も様々、中にはビーズやボタンもありました。一体どのようなネックレスが出来上がるのでしょうか。
「チェンジ」 2003年~ ペンダント 銀、金
本館では作品と空間の関係にも要注目です。例えば姫宮客間です。タイトルは「チェンジ」。写真では分かりにくいかもしれませんが、床面には何枚もの円いペンダントが散っています。素材は金貨や銀貨です。しかし表面には何らの刻印もありません。これはクンツリ自らが削ったもの。世界各地のコインだったそうです。削られて匿名と化したコイン。本来の意味や用途から大きく変容しています。「果たしてコインは誰のものだろうか?」(解説シートより)。その言葉も心に残りました。
「月と日」 2015年 インスタレーション ガラス、辰砂、胡粉白雪、木、漆
小食堂も面白いのではないでしょうか。同食堂は、朝香宮邸で唯一、和風のしつらえの残る部屋です。そこでクンツリはガラスに日本で見出したという色、すなわち赤と白を取り入れた「月と日」というオブジェを展示しています。なお素材は同じく日本に伝統的な胡粉や漆、そして辰砂を用いているそうです。
そもそもクンツリ自身、制作のインスピレーションを日本から多く受けたと語っています。また印章を取り入れたジュエリーや漆芸作家とのコラボ作品も興味深い。備長炭まで素材に引用していたのには驚きました。クンツリと日本の文化との関係に着目して見るのも面白いかもしれません。
「オットー・クンツリ展(新館)」展示室風景
一方、新館では旧作から新作までを一室で紹介しています。広いホワイトキューブです。本館とはがらりと雰囲気が変わります。
「チェーン」 1985~86年 48個の使われた結婚指輪、金 レンバッハハウス美術館(ミュンヘン)
使い古しの結婚指輪を使っているそうです。名は「チェーン」。全部で48個です。クンツリは指輪を集めるために新聞に広告を出し、さらに提供者にインタビューを行いました。指輪の一つ一つには提供した人物のドラマがあります。中には死別したカップルもいるかもしれません。光り輝く金のネックレス。その煌めきの裏には別れや死が見え隠れしています。
「ミラー・ブローチ」 1990-91年 黒化した銀、鏡 ギャラリー・ウィテンブリンク(ミュンヘン)
「ミラー・リング」や「ミラー・ブローチ」も目を引きます。ほかにもエッジの効いた作品ばかり。一般的なジュエリーのイメージは簡単に吹き飛んでしまいます。そもそも如何にして身につけるのでしょうか。その意味では「ジュエリーとは何か」という問題も提起しているのかもしれません。
「くさび」 2003年 ペンダント ステンレス
クンツリの豊かなアイデアと稀なセンス。ジュエリーから人間の身体を通して社会への鋭い眼差しも見ることが出来ます。美しいものはかくも先鋭的でかつ刺激的なのでしょうか。実のところ私にとって未知のアーティストでしたが、思わず時間を忘れて見入ってしまいました。
「輝き」 1989年 眼鏡 金、銀
12月27日まで開催されています。これはおすすめします。
「オットー・クンツリ展」 東京都庭園美術館(@teienartmuseum)
会期:10月10日(土)~12月27日(日)
休館:毎月第2・第4水曜日(10/14、10/28、11/11、11/15、12/9、12/24)。但し12/23(水・祝)は開館。
時間:10:00~18:00。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大学生800(640)円、中・高校生・65歳以上500(400)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*小学生以下および都内在住在学の中学生は無料。
*第3水曜日のシルバーデーは65歳以上無料。
住所:港区白金台5-21-9
交通:都営三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口より徒歩6分。JR線・東急目黒線目黒駅東口、正面口より徒歩7分。
「オットー・クンツリ展」
10/10-12/27
東京都庭園美術館で開催中の「オットー・クンツリ展」を見て来ました。
「コンテンポラリー・ジュエリーの分野を代表する」(展覧会サイトより)というスイス人アーティスト、オットー・クンツリ(1948~)。彼の制作の全体像を紹介する国際巡回展です。
2013年にミュンヘン、そして昨年はローザンヌの美術館で行われた回顧展の東京バージョン。日本では東京都庭園美術館のみでの開催です。
作品は約200件。ジュエリーのみならずインスタレーションや映像も含みます。また東京展のための新作も出品。お馴染みのアール・デコの館内を効果的に活かしています。
本館の一部と新館展示室の撮影が出来ました。
まず象徴的なのはチラシの表紙です。ハートのブローチ。モデルは舞踏家の石井かほるさんです。黒いドレスに付けられたのは燃え上がるように赤いハート。血の赤でもあります。まさに情熱的なまでの愛がこめられているのでしょうか。一目で脳裏に焼き付くかのような鮮烈なビジュアルです。シンプルながらも訴えかけるものの少なくないクンツリのジュエリー。その例の一つと言えるかもれません。
「2人のためのリング」(図版) 1980年
「2人のためのリング」には驚きました。2つのリングが一本の棒によって固く結びつけられています。このリングを身に付けようものならカップルはもう離れることを許されません。愛は時に強い束縛を伴うものでもある。そうリングが訴えているように見えました。
「ビッグ・ファミリー」 2015年 インスタレーション マルチメディア
参加型のインスタレーションがありました。「ビッグ・ファミリー」です。小さな窪みのある白いテーブル。その上に来場者の持ち込んだ円い玉が置かれています。形さえ玉であれば何でも良いそうです。それを繋げては一つのネックレスを完成させていきます。大きさも形も素材も様々、中にはビーズやボタンもありました。一体どのようなネックレスが出来上がるのでしょうか。
「チェンジ」 2003年~ ペンダント 銀、金
本館では作品と空間の関係にも要注目です。例えば姫宮客間です。タイトルは「チェンジ」。写真では分かりにくいかもしれませんが、床面には何枚もの円いペンダントが散っています。素材は金貨や銀貨です。しかし表面には何らの刻印もありません。これはクンツリ自らが削ったもの。世界各地のコインだったそうです。削られて匿名と化したコイン。本来の意味や用途から大きく変容しています。「果たしてコインは誰のものだろうか?」(解説シートより)。その言葉も心に残りました。
「月と日」 2015年 インスタレーション ガラス、辰砂、胡粉白雪、木、漆
小食堂も面白いのではないでしょうか。同食堂は、朝香宮邸で唯一、和風のしつらえの残る部屋です。そこでクンツリはガラスに日本で見出したという色、すなわち赤と白を取り入れた「月と日」というオブジェを展示しています。なお素材は同じく日本に伝統的な胡粉や漆、そして辰砂を用いているそうです。
そもそもクンツリ自身、制作のインスピレーションを日本から多く受けたと語っています。また印章を取り入れたジュエリーや漆芸作家とのコラボ作品も興味深い。備長炭まで素材に引用していたのには驚きました。クンツリと日本の文化との関係に着目して見るのも面白いかもしれません。
「オットー・クンツリ展(新館)」展示室風景
一方、新館では旧作から新作までを一室で紹介しています。広いホワイトキューブです。本館とはがらりと雰囲気が変わります。
「チェーン」 1985~86年 48個の使われた結婚指輪、金 レンバッハハウス美術館(ミュンヘン)
使い古しの結婚指輪を使っているそうです。名は「チェーン」。全部で48個です。クンツリは指輪を集めるために新聞に広告を出し、さらに提供者にインタビューを行いました。指輪の一つ一つには提供した人物のドラマがあります。中には死別したカップルもいるかもしれません。光り輝く金のネックレス。その煌めきの裏には別れや死が見え隠れしています。
「ミラー・ブローチ」 1990-91年 黒化した銀、鏡 ギャラリー・ウィテンブリンク(ミュンヘン)
「ミラー・リング」や「ミラー・ブローチ」も目を引きます。ほかにもエッジの効いた作品ばかり。一般的なジュエリーのイメージは簡単に吹き飛んでしまいます。そもそも如何にして身につけるのでしょうか。その意味では「ジュエリーとは何か」という問題も提起しているのかもしれません。
「くさび」 2003年 ペンダント ステンレス
クンツリの豊かなアイデアと稀なセンス。ジュエリーから人間の身体を通して社会への鋭い眼差しも見ることが出来ます。美しいものはかくも先鋭的でかつ刺激的なのでしょうか。実のところ私にとって未知のアーティストでしたが、思わず時間を忘れて見入ってしまいました。
「輝き」 1989年 眼鏡 金、銀
12月27日まで開催されています。これはおすすめします。
「オットー・クンツリ展」 東京都庭園美術館(@teienartmuseum)
会期:10月10日(土)~12月27日(日)
休館:毎月第2・第4水曜日(10/14、10/28、11/11、11/15、12/9、12/24)。但し12/23(水・祝)は開館。
時間:10:00~18:00。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大学生800(640)円、中・高校生・65歳以上500(400)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*小学生以下および都内在住在学の中学生は無料。
*第3水曜日のシルバーデーは65歳以上無料。
住所:港区白金台5-21-9
交通:都営三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口より徒歩6分。JR線・東急目黒線目黒駅東口、正面口より徒歩7分。
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